第47話:ちょっと怖い

「……ロック鳥というのは大袈裟ではないのだな?」


「……そんなに大きな魔鳥が本当にケーンの言う通りに動くの?」


「大袈裟じゃないし、逃げたと言ってからもずっと可愛がっていたよ」


「はぁ~、分かった、そんな大きくて強い魔鳥がいるのなら、奥山に隠れ家を造ろうと言い出したのも分かる」


「そう、ずっと可愛がっていたのね、そっか、ケーンなら餌付けができるのね。

 でも、草や果物だけで満足してくれるの?」


「僕の気持ちを考えてくれる、とても優しい子たちだからね」


「それで、その子たちを見せてくれると言うのはいいが、そんな大きな魔鳥が飛んで来たら大騒動になるぞ」


「僕も最初は昼に来てもらうのは無理だと思っていたんだ。

 だけど、低い所を大回りに飛べば、村から見えないと分かったんだ。

 ただ、できるだけ村から離れた方が良いから、一緒に奥山まで行ってくれる?」


「当然だ、ケーンのためなら魔境でも一緒に行ってやるぞ」


「私も魔境だって平気よ、ついて行ってあげるわ」


 お父さんとお母さんがそう言ってくれたので、一緒に魔境まで行った。

 指笛を吹くと、しばらくして飛んできてくれた。

 普段いる東の奥山ではなく、直ぐ近くの西の奥山にいてくれた。


「「「「「コケコッコー」」」」」


「お父さん、お母さん、大丈夫?」


 巨大なロック鶏に10羽に囲まれて、お父さんとお母さんが固まっている。


「あ、ああ、大丈夫だと思う……」


「正直怖いわね、全く鶏の面影がないし、何か私を睨んでいる気がするのだけど?」


「大丈夫だよ、普段鶏を食べているから恨まれている訳じゃないよ」


「俺、今日も卵を食べたんだけど……」


「それを言うなら、私は料理までして食べたわよ!」


「大丈夫、本当に大丈夫だから、安心してここに乗ってよ」


 僕はそう言うと、怖がるお父さんとお母さんを蔦壁籠に乗せた。

 魔力は有り余るほどあるから、ロック鶏の足に蔦壁籠を3つ造るくらい簡単だ。


 昨日造った蔦壁は、もうロック鶏が食べている。

 1度使った蔦壁籠をそのまま使うのは心配だからだ。


 昨日の初飛行は真っ暗で良く分からなかったし、少し怖かった。

 だけど今日は、青く晴れ渡った空を飛ぶので凄く気持ち良い!


 お父さんは怖いようで、物凄く大声を出していた。

 お母さんも大声を出していたけれど、お父さんと違ってうれしそうだった。


「すごい、凄い、凄い、海だ、海を空の上から見られるなんて思っていなかった!」


 空の散歩を楽しんでいる間に、いつの間にか海が見えてきた!

 まだ凄く遠いけれど、どこまでも広がる海がとてもきれいだ!

 空の青さと海の青さがこれほど違うとは思っていなかった!


 見たい、もっと近くで海を見たい!

 泳げるかな、僕でも海で泳げるかな、駆けまわれるようになっただけでも幸せだと思っていたけれど、海で泳げたら泣いちゃうかもしれない。


 あ、だめだ、僕泳いだことがなかった。

 前世はもちろん、生まれ変わったこの世界でも、泳いだ事がなかった。

 でも、でも、足をつけるくらいなら僕にだってできるよね?


 色々な想いが湧き上がって来て、やりたいことを考えているうちに、海についた。

 昨晩のように上下左右前後に振られる感じがしたと思ったら、土の上にいた。

 少し離れた所に砂浜が続いている。


「うっわぁ~」


 知らない間に大声を出してしまっていた。

 思わず身体強化をして海まで駆けてしまったけど、波が怖くて止まっちゃった。

 ギリギリで止まったから、気がつくと足の裏に海の水を感じていた。


「くっわぁ~、死ぬかと思った!

 もう2度とこんな籠に入って空を飛ぶなんてごめんだぜ!」


「そう、アラミスは怖がりね、私はとても楽しかったわ。

 ロック鶏ちゃん、ありがとうね、また乗せてね」


「コケコッコー」


「この子たち、思っていたよりもずっと可愛いじゃない。

 これなら安心してケーンを任せられるわ」


「ぐっげぇ~、オリビアの可愛い基準が全く分からん!

 だが、まあ、ケーンを安心して任せられると言うのは分かる。

 この子たちなら、何時金に目が眩むか分からない行商人よりも安心できる」


「そうね、それに、ケーンのあんなにうれしそうな顔を見るのは久しぶりよ」


「そうだな、初めて歩いた時も神使のように可愛かったが、今も可愛いな」


「歩きはじめる前、初めて自分で立てた時にもうれしそうに笑っていたわ。

 一生懸命歩こうとして、何度倒れても、うれしそうに笑っていたわ」


「そうだったな、駆け回って倒れて血を流していても、うれしそうに笑っていたな」


「あんなにうれしそうに笑っているのだもの、何時でもロック鶏と遊びに行けるように、助けてあげるのが親の務めだと思うの」


「そうだな、エヴィーたちが教会に行くのに不便を感じるかもしれないが、一家で西の奥山に移住するか?」


「そうね、帰って相談した方が良いでしょうけど、それがケーンの為だと思うわ。

 それに、ロック鶏と旅ができるのなら、行商隊に入っている必要もないわ!」


「問題は、1度入った行商隊は、そう簡単には抜けられない事だ。

 俺たちが冒険者パーティーや傭兵団を抜ける時も、義理を通さなければいけなかったようにな」


「普通ならお金さえ払えばどうとでもなるのだけど、ケーンを行商隊に同行させる利益は計り知れないから、何か手をうたないといけないわね」

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