第42話:開墾

 嫌な顔をして僕を見た人たちを忘れられない。

 ウィロウを襲おうとした汚い服の連中を忘れない。

 行商人の村を襲う隣村がいたという話も聞いた。


 神与のスキルがあって、神々を敬う良い人が多いとフィンリー神官に教えられてきたけれど、世の中には悪い奴がいるのだと実感した。


 だから、お父さんとお母さんが言っていたように、この村を出る時の事も考えて、できる限り準備する事にした。


 でも、直ぐにここを完全に捨てる準備をするんじゃない。

 ここには2つ目の村ができたんだ。

 教会中心の村が嫌になったら、行商人村に移住すればいい。


 でも、それは何時でもできるから、今は更にもう1つ、3つ目の方法を作る。

 畑西門を出た所に、家の家、分かり難いな、僕の家専用の果樹林と畑を造る。


 たくさんの家畜を買ってきたから、家畜専用の畑を造ると言えば、フィンリー神官もうるさく言わないだろうし、疑わないだろう。


 有り余る魔力を使って、開拓村全部の畑と同じくらい広い場所を囲む蔦壁を造る!

 まるで2つ目の開拓村畑が造ろうとしているかのようだけど、残念ながら1番良い平地は畑にした後だから、行商人村のような山の斜面しかない。


 不要な樹木は木属性魔術の1種、風魔術で切り倒せる。

 だけど、計算せずに切り倒すと斜面が崩れてしまうかもしれない。

 その辺を考えて西里山の木を切り倒す。


 それに、切り倒した木を無駄にしたくないから、薪にしないといけない。

 僕の風魔術で薪にてもいいけど、魔力は蔦壁や伐採に使いたい。


 そこで行商人村に残る大きな子供や老人を雇う事にした。

 今の僕は、家とは別に個人でも大金を持っている。

 200人を300日雇っても、1割のお金も無くならない。


 そんな事を考えながら全力で蔦壁を造っていく。

 畑蔦壁と果樹林蔦壁、裏庭蔦壁と村蔦壁と将来図を考えて造っていく。


 久しぶりに昼間から全力で走り回れて気持ちが良い!

 行商中は夜に走っていたからイライラはしなかったけれど、明るい日差しの温かさを感じながら走る快感は別格だ!


「ジョセフ代表、行商村に残る人たちを雇って西側の里山を開拓したいんです」


 魔力を適度に使って、完全に回復するまでにある程度時間がかかるくらいになってから、行商村に行って僕の計画を正直に話した。


「分かった、残る者たちも、お金がもらえる仕事があればうれしいだろう。

 開拓村を出る時の事を考えておくのは良い事だ、その時は喜んで迎えよう。

 ケーンはもう行商隊の仲間だからな」


 ジョセフ代表の許可をもらえたから、何時でも手伝ってもらえる。

 だが、行商人たちが久しぶりに家族だんらんを楽しんでいるのに、今から手伝えと言うのは非常識だ。


 ここに残る家族に畑仕事を手伝ってもらうのは、行商隊がこの村を出てからだ。

 ある程度細かな相談と約束をしてから、西里山に戻って、新しく造っている蔦壁の続きを造る。


 僕が行商に出て直ぐに何かあった時に備えて、守りが厳重な蔦壁の家も造る。

 家族5人が安心して悠々と暮らせるだけの蔦壁家を造る。


 だが、斜面が多い西里山に普通の家を建てる平地などほとんどない。

 平地があるなら畑にした方が良い。

 家は、行商人蔦壁家のようにすれば、それなりの広さの家でも斜面に造れるのだ。


 行商人村の家と同じように、斜面を支える樹木に頼って蔦壁を造る!

 1つの部屋や階層は段差がないようにするが、段々畑のような家になる。


 開拓村の教会のように、中心になる蔦壁家ができたら、その周囲に3重の蔦壁を造り、そう簡単には中心にある蔦壁家に来られないようする。

 3重の蔦壁には天井も造り、空からの攻撃にも備える。


 一瞬やり過ぎているかもしれないと思ったが、大切な家族を守るのに遣り過ぎなどないと思い直した。


 屋根のある蔦壁の庭があっての良いじゃないか。

 そう思い直して家を守る蔦壁を5重にしてやった。


 次に果樹林を造りたかったが、元からある樹木が邪魔だ。

 だが一斉に風魔術で伐採してしまうと地面が崩れてしまう。

 しかたがないので元の樹木を押しのけるように果樹を成長させる。


 何かを造るのが面白くて、最近はコソコソとしか木属性魔術を使えなかったので、時間を忘れそうになるくらい熱中してしまった。

 だけど、昼ご飯を忘れたらお父さんお母さんに怒られてしまう。


 肉を食べられない僕のために、肉や魚抜きの、野菜と果物だけの昼食を用意してくれているのに、忘れて戻らなかったら泣かれてしまう!

 身体強化を使って大急ぎで戻った!


「ちゃんと時間通りに戻って来たわね、偉いわよ」


「良く時間通り戻った、お母さんが心配していたんだぞ」


「アラミス、嘘言わないで!」


「ワッハハハハ、どっちが本当の事を言っているか、ケーンなら分かるよな?」


「もう、これ以上言ったら本気で怒るわよ!」


 お父さんお母さんが冗談を言い合っているうちに妹たちが帰って来た。

 普段はお弁当を持って教会に行くのだが、今は僕が帰ってきているので、家族で昼ご飯を食べるために戻って来てくれた。


「もういらないかもしれないが、必要なら教会に持って行きなさい」


 僕は蔦壁を造る時に実った果実を特大の籠2つ分持ち帰っていた。

 とでも7歳児には持ち上げられない重さだが、必要なら小分けにしてもいいし、お父さんとお母さんに運んでもらっても良い。


「お父さん、お母さん、西畑門の外に家専用の畑を造っているんだ。

 午後時間が有ったら見ておいて、新しく買った家畜の放牧場所をどこにするのか、村で問題になるだろう?」


「そうだな、家だけが多くの家畜に共用の餌をもらう訳にはいかないからな」


「お母さんは家専用の収穫を餌にする心算だったけれど、ケーンが里山に新しい専用畑を造ってくれるなら助かるわ」

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