第41話:帰還

 行商隊は家の村に入ったが、直ぐに行商村には行かなかった。

 行商人である以上、商売が先だった。

 村の衆から頼まれていた品物を先に届けないと、行商人ではなくなる。


 それと、僕が買って貸していた牛、馬、ロバ、ラバを家に届けてもらう。

 買って預けておいた山羊、羊、豚、鶏も家に届けてもらう。


 家畜を無事に運ぶには、行商人の長年の経験が必要で、僕には無理だったから、牛や馬を貸す代金と相殺する約束で運んでもらったのだ。


「凄いな、この家畜が全部プレゼントなのか?」


 お父さんが驚きながら喜んでくれる。


「ありがとう、ケーン、でも家畜よりも貴男が無事に帰って来てくれたのが1番のプレゼントなのよ!」


 お母さんもお礼を言ってくれるが……ちょっと恥ずかしい。


 今回も4カ月かけて家の村に戻って来た。

 ジョセフ代表は、最初から最短でも4カ月かかると言っていたのだが、お母さんが以前は1カ月ごとに来ていたと言って聞かなかったのだ。


 お母さんは聞き分けなかったが、お父さんとフィンリー神官は、僕の神与スキルを隠すのと、この村の安全のために4カ月かかるのは納得していた。


 僕の家が1番多かったが、村で頼んでいた商品の売買が終わると、いよいよ行商人村に案内する事になる。


「すごい、すごい、おとぎばなしのいえみたい!」

「はっぱだ、いえのなかにもはっぱがある!」

「段々だ、家の中に段々がある!」

「葉っぱとつたのお庭だ、すごくきれい!」


 子供たちには蔦壁の家は凄く人気が有ったが、大人の女性は固まっている。

 気に喰わないと言われるのは嫌なので、魔術を使って甘くて美味しい実をならせて、機嫌を取ることにした。


「あまい、あまくておいしい!」

「ぎょうしょうのとちゅうでたべたのとおなじだ!」

「ほんとうだ、おなじあまくておいしいみだ!」


「甘い、甘くて美味しい!」

「本当だわ、特別な果樹園がある村に行くのだと思っていたけど、まさか家とは!」

「信じられない、果物の実る家があるなんて、信じられない!」


 子供たちは更に気に入ってくれたようだ。

 女たちも気に入ってくれたと思う。

 まあ、ジョセフ代表の話だと、もう絶対にこの村から出さないと言う話だけど。


 この村の秘密は絶対に守り抜くのだそうだ。

 僕たちの村との約束だけではなく、自分たちのためにも厳しくするのだそうだ。

 そのためなら、女子供を行商村に閉じ込める覚悟をしているそうだ。


 村に戻った日は、これで行商人たちと別れた。

 行商人たちは自分の家と決めた所に家族を連れて行った。


 ウィロウと数人の行商人には家族がいなかったが、これは行商の途中で分かっていた事だから、何も言わない事にしている。

 ウィロウは、ジョセフ代表の家族と過ごすそうだから、家に誘うは諦めた。


 だから黙って分かれて自分の家に帰った。

 家ではお父さんとお母さんがご馳走を作って待っていてくれた。


 肉が食べられない僕のために、バター、チーズ、ヨーグルト、ドライフルーツをたっぷり使った特別製のパンとお菓子を作ってくれていた。


 4カ月会わなかっただけなのに、下の妹、3歳のクロエに泣かれてしまった。

 中の妹、5歳のロージーには警戒されてしまった。

 上の妹、7歳になったエヴィーだけが以前と変わらず話してくれた。


 僕も何時の間にか9歳になっていた。

 この世界の子供は、神与のスキルを与えられる8歳で1人前と認められる事もあるが、それはよほど特別なスキルを頂いた子だけだそうだ。


 普通は、スキルをもらっても大人たちのように上手く使えないし、世の中に大きな影響を与える事もないので、1人前になるまで親に保護される。


 ウィロウや僕のような、特別な神与スキルを得た者を、王侯貴族や商人が親の承諾なしに囲い込むために、大人扱いしているらしい。


 そんな危険も、行商隊の中にいればそれほど感じないで済むし、村に帰ってきたら全く関係なくなる。

 

 夜遅くなるまでお父さんお母さんと行商隊でのことを話して、村の中で起きたささいな事を聞かせてもらった。


 ささいな事だけど、生まれてからずっと一緒に過ごした村の衆の姿が、その場で見ていたかのように浮かんできた。


 眠くなったので裏庭に出て蔦壁のドームを作って眠った。

 翌朝になると、お母さんが家族のためにベーコンと卵を使った料理を作るので、臭いで吐かないようにだ。


 最近では、上手く葉を組み合わせて柔らかいベッド付きのドームが造れるようになって、どこでも快適に眠れる。


 朝起きてドームの中に蔦を実らせて朝御飯にした。

 余る実は妹たちと一緒に集めたが、とても喜んでくれた。

 僕がいなくなって、これまでのように毎日果物が食べられなくなったそうだ。


 旬になったら果物は実るのだが、僕が実らせたのとは全然違うそうだ。

 甘味が少なく、美味しさが乏しく、固くて小さいらしい。

 雲泥の差という言葉の本当に意味が分かったとお母さんが言っていた。


 妹たちは、僕が実らせた果物を籠一杯に入れて教会に行った。

 勉強に集まる子たちに食べさせてあげるそうだ。

 その子たちも、家と同じように不味くなった果物を残念に思っていたそうだ。


 妹たちが教会に行くのを見送ってから、僕も裏庭を出て果樹林、果樹北門を通って畑に出た。


 これから村を大改造しなければいけない。

 いや、村はそれほどでもないが、家のために畑蔦壁を移動させなければいけない。

 村に長くいられるなら、内山全体を蔦壁で覆う覚悟もある。

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