第35話:夜の散歩とロック鶏

 僕は前世からの夢だった旅に出ることができた。

 自由気ままに好きな所に行く旅ではないけれど、好き人の側にいられる

 12年間、死ぬまでベッドの上だった前世に比べれば、最高だ!


 僕の役目は、売る物がなくなった時に薬草や果物を作る事。

 それと行商隊が襲われた時に仲間を守る事。

 だから行商隊の真ん中にいなければいけないのだが、身体が疼く。


 思いっきり走りたい、駆け回りたいと思いが湧き上がってくる。

 でも、行商隊に入れてもらったばかりでワガママは言えない。

 だから、夜になってから1人でこっそりと野営地の周りを駆け回る。


 最初は普通に思いっきり走って、次に身体強化して駆け回る。

 寝たら魔力が回復するので、少々魔力を使っても大丈夫。


 それに、僕が走り回ると猛獣や魔獣が逃げるようだ。

 僕が走り回れば回るほど、行商隊が安全になるから良いよね。


 夜の間にロック鶏に餌をあげる事もある。

 ロック鶏は僕が成長させた所為か、鶏なのに夜でも目が見える。

 夜でも目が見えるようになれと願ったのが良かったのかな?


 僕に会いに来たロック鶏に、草原の草を食べてもらう。

 元の鶏は草が大好きだったけど、ロック鶏なっても草が大好き。

 土まで一緒に食べるから、草原を耕してくれているのと一緒だ。


 十分耕された草原にベリーや芋などの種を蒔いて成長させる。

 樹木じゃないので少ない魔力で直ぐに実が生る。

 それを10羽のロック鶏がお腹一杯になるまで食べる。


 ロック鶏に餌をあげ、触れ合いの時間が終わったら夜の散歩はお終い。

 万が一翌日餌をあげられない場合を考えて、餌になるベリーや芋などを成長させて、可愛いロック鶏とはお別れする。


 そんな風に毎晩発散しているから、牛の歩みに合わせてゆっくり移動する行商隊にいてもイライラしなくてすむ。


 ウィロウが指導役と一緒に街や村に入って商売をする時は、僕も一緒に行って商売のやり方を見学させてもらう。


 別の行商人が街や村に入って商売をする時は、ウィロウは本隊に残るので、僕も本隊に残ってウィロウを守る。


 1カ月ほど行商隊と旅をして、この行商隊がウィロウを中心に動いているのが良く分かった。


 1人突出したスキルを授かる者が現れると、本人や家族はもちろん、一族や住んでいる街や村まで大きく変わってしまうのだと分かった。


 自分の時には実感できなかったが、ウィロウと行商隊の関係を見て分かった。

 同時に、僕やウィロウを狙う王侯貴族や商人がいる理由も実感できた。

 頭だけでなく、心から実感できた。


「何時もの行商人なのか、何故今日は3人なのだ、通例では2人だろう?」


 僕とウィロウ、指導役の行商人と一緒に街の城門を入ろうとすると、門番に止められてしまった。


「ご覧の通り、何の心配もいらない子供2人なので、大人1人分としました。

 前回の取引で、次回は穀物を多めに欲しいと言われたので、その分を運ぶ牛と手綱を持つ人間が必要なのです」


「それは聞いているが、それなら牛だけ3頭にすればいいだけだろう!」


「門番さん、我々行商人にとって牛ほど大切な友はいないのです。

 猛獣や魔獣に襲われた時に守る者、手綱を持つ者なしに街には入れられません。

 どうしても駄目だと申されるのでしたら、今回の交易はなしですね」


「待て、そんな勝手は許さん」


「勝手はそちらも同じでしょう。

 我々行商人が危険だからと2人以上の入場を認めないのに、多めの穀物を持ってこいと言い、牛だけ3頭連れて入れと言われる。

 何かあるのではないかと不安になるのは当然ですよね」


「なに、我々が牛を奪おうとしていると言うのか?!」


「奪う気がないのなら、手綱を取る者3人の入場を認めるのが普通でしょう?

 これでも我々は3人の内2人を子供にする配慮をしているのですよ」


「ちっ、ちょっと待て、直ぐに聞いてくるから待っていろ!」


 門番の口の利き方と指導役の話し方を聞いて、行商人の立場が低いのが分かった。

 家の村では対等の話し方をしていたのに、どうしてなのだろう?

 指導役の方を見ると、今は黙っていろという目をしている。


「今回だけは特別だぞ、3人とも入れ!」


 門番が偉そうに、腹を立てているのを隠さずに言う。

 誰かに怒られたのを僕たちに八つ当たりしているのだと思う。

 こん奴を門番にしていたら街が悪く言われるのに、よくこんな奴に門番をやらす。


 今日の指導役は、僕のお父さんと同じくらいの歳に見える。

 お父さんが35歳だから、それくらいの歳なのだろう。

 行商人として1番仕事のできる頃だとウィロウが教えてくれた。


 入る街や村によって行商人が違っている。

 基本2人2頭で入るけれど、3人3頭や4人4頭の時もある。


 街が大きくて人が多いと入れる数が増える。

 この街は2人2頭だから、街にしては小さいくて、住んでいるのは1000人くらいだと思う。


「おい、お前らか、行商人の分際で偉そうにしたのは?!」


 僕たちが指導役を先頭に取引先の家に行こうと歩いていると、手に剣を持った汚い服装の男が5人、前に立って怒鳴ってきた。

 偉そうしていると言ってきたという事は、あの門番の仲間か?


 城門を入り前から、街の中の様子を注意して見ていた。

 この街には石畳などなく、城壁の中にある細い道は全部地道だ。


 石畳のように1度細かくして蔦が成長させなくても良い。

 それだけ少ない魔力で蔦壁を造れる。


「偉そうにした覚えはありませんが、行商人なのは確かです。

 私たちは街の長との約束で取引に行く途中です」


 指導役が恐れる事無く剣を持った汚い男たちに言い返す。


「ふん、そんな約束は知らん、行商人の分際で街の者に偉そう態度を取った罰に、牛と荷物を没収する、さっさと出て行け!」

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