第31話:お母さんの不条理
僕は生まれて初めてお父さんとお母さんに逆らった。
今生のお父さんとお母さんには親孝行すると誓ったのに、喧嘩してしまった。
物凄く反省しているけれど、それでも夢は諦められない!
このまま家を出て旅に行きたい気持ちもあるけれど、喧嘩したまま家出してはいけない気持ちもある。
それに、お父さんとお母さん、妹たちだけではなく、ウィロウにも会わずに家出するのは嫌だった。
世界中を旅したい気持ちは物凄く強い。
同時に、ウィロウその側にずっといたい気持ちも物凄く強い。
2人で世界中を旅できたら、とても幸せなのにと思った。
「だったら行商人はどう、行商人なら安全に旅ができるんでしょう?
定期的に村に帰って来るし、お父さんとお母さんが言うほど危険じゃないよね?」
僕がそう言うと、黙って厳しい目で僕を見ていたお父さんも、声出さずに泣いていたお母さんも表情を変えた。
「行商人か、確かに行商人なら少しは安心だが……」
「でもアラミス、貴重な神与のスキルを持つ者は、誘拐される事があるわ。
ケーンがどれほど強くても心配だわ」
「俺も心配だが、優しくて親孝行なケーンがここまで言ったのだ。
それほど好きな事を、親が力尽くで止めさせる訳にはいかないだろう」
「でもアラミス……」
「両親に逆らって駆け落ちした俺たちの息子だぞ、どれほど反対しても、大好きな事の為なら家出してしまう。
危険な状態で家出されるくらいなら、信用できる行商人に預けた方が良い」
「……分かったわ、アラミス、でもどうしても譲れない事があるわ」
「何が譲れないと言うのだ?」
「実力よ、ケーンが無事に帰って来られるだけの実力があるか、私がこの目で確かめない限り、家を出るのは認められないわ!」
僕が、世界中を旅する夢とウィロウと一緒にいたい気持ちをどうにもできなくて、苦し紛れに行商人になると言った事で、とんでもない事になった。
それにしても、お父さんとお母さんが、両親の反対を押し切って駆け落ちしていたなんて、生まれて初めて聞いた。
でも、そんな話しを気にしていられないくらいの事を、お母さんが言いだした。
僕と戦って旅ができるだけの実力があるか確かめるだって?!
「待ってよ、逃げるならともかく、僕がお母さんを傷つけられるはずないじゃないか、そんなの酷過ぎるよ!」
「そんなに心配しなくても良い、大丈夫だ、安心しろ。
何も剣を持ってお母さんと戦えと言っている訳じゃない。
お母さんが安心できるように、どんな相手に狙われても逃げられるのを証明すればいいだけだ」
お父さんがそう言ってくれたので安心できた。
お父さんは僕が行商人になるのを賛成してくれているみたいだ。
お父さんとお母さんは次の日に試験をしてくれた。
でも、お父さんとお母さんはちょっと卑怯だと思う。
昨日はお母さんが納得できれば良いと言っていたのに、試験をするのがお父さんとお母さんを含めた戦い役6人全員になっていた。
でも、相手が6人になっても関係ない、夢は諦められない。
ケガをさせるのも怖いから、逃げるしかないけれど、とても簡単だ。
内山や奥山で、猛獣や魔獣時手に練習していた時よりずっと簡単だ!
猛獣や魔獣の方がもっと早かったし多かった。
お父さんとお母さん、村の戦い役の方が、足が遅くて数も少ない。
追いかけ続けられる時間も短くて、1時間もしないうちに座り込んでしまった。
「お父さん、お母さん、これで分かってくれた?
僕は誰が相手でも捕まらないよ、必ず逃げて見せるから安心して」
「ケーンの逃げ足が速いとこは分かったわ。
だけど、1人で旅するならともかく、行商人と旅するのなら、彼らも守らないといけないのよ、ケーンは仲間を見捨てられるの?」
またお母さんがとんでもない事をいいだした!
こんなおかしなことを言うお母さんを初めてみた!
お父さんも初めてなのか、びっくりした表情をしている。
「お母さん、お母さん、僕が1人で旅するのを反対していたんだよね?
仲間を見捨てられないから危なって言うのなら、1人旅なら良いの?」
「駄目よ、絶対に駄目よ、1人旅なんて絶対にさせない。
行商人になると言うのも、仲間を全員守れないと許さないわ」
「もう言っている事がおかしすぎるよ、お父さん、お母さんがおかしくなったよ」
「はぁ~、お母さんはケーンが心配でおかしくなったようだ。
お父さんが時間をかけて説得しても良いが、何かないか?
ケーンなら行商人全員を守れるようなスキルがあるのではないか?」
「別に特別なスキルなんてないよ、これまで通り、蔦壁を造るだけだよ」
「蔦壁を造るのは、それなりに時間がかかっただろう。
行商人全員を守れるほど早くは造れないだろう?」
「それは住む家を作りと蔦壁や村を守る蔦壁だからだよ。
急がないから、魔力が減り過ぎないような速さで成長させたんだよ。
襲って来るのなら、魔力が一気に減っても早く成長させるよ」
「そんな風にできるのなら、お母さんの前でやって見せなさい。
敵が何人で襲ってきても、不意討ちしてきても、仲間を守れるところを見せて、お母さんを安心させてあげるんだ」
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