第30話:親子喧嘩

「ワッハハハハ、気にするな、恋は人を愚かにする。

 お父さんも恋をする度に大失敗したものさ」


 お父さんはそう言って慰めてくれる。

 だけど、僕の心は落ち込んだまま、胸もずっと痛い。

 僕を見て怖がるウィロウの顔が心から消えない。


「ケーン、落ち込まなくても大丈夫よ。

 女の子は強い男の子が好きなの、お母さんも強い男の子がさ好きだったわ。

 ウィロウは、ケーンが強すぎたから少し驚いただけよ」


 その強すぎるのがいけないんじゃないか!

 この世界に誰もいない、神与のスキルを2つも持っているから怖いんじゃないか!

 僕は得体の知れなバケモノなの?


 そう聞いてみたいのに、怖くて聞けない。

 お父さんとお母さんは好きでいてくれるけど、他の人は違うかもしれない。

 僕の事を怖がって、嫌いになるかもしれない。


「そうだぞ、強い男が女にもてるんだ。

 ケーンの木属性魔術が凄いのは分かっていたが、足まで速かったのだな」


「あのね、ケーン、私たちは何があってもケーンを愛しているわ。

 村の人たちがケーンの事変な目で見るようなら、家族で村を出ればいいだけなの。

 だから何も心配する事はないのよ」


「そうだぞ、父さんも母さんも強いから、傭兵や冒険者でも生きて行ける。

 ケーンの木属性魔術があれば、村を出て家族だけで畑を耕しても暮らしていける。

 だから正直に言ってごらん、ケーンの神与のスキルは何なのだ?」


「僕の神与スキルは、ジョイ神様が授けてくださった木属性魔術だよ。

 ただ、他の神様にも愛されたみたいなんだ。

 イワナガヒメ神様が身体強化のスキルも授けてくださったんだ」


「……本当に2柱の神様がスキルを授けてくださったのか!」


「こんな話、初めて聞いたわ!」


「だが、俺たちが初めて聞いただけで、ケーンの他にもいたかもしれない」


「そうね、ケーンもおかしいと思って隠していたくらいよ。

 他にいたとしても、隠しているに違いないわ」


「俺たちも腹を括るしかないだろう」


「そうね、村の人たちがケーンを怖がるようなら、元の生活に戻る?」


「いや、傭兵や冒険者だと、2人そろって家を空ける事になる。

 何所か小さな都市に移って、猟師兼業の農家をやろう。

 都市に家を買う金がないと言って外に住めば、ケーンに薬草を作ってもらう事も、果物を実らせてもらう事もできる」


「そうね、村の人たちが怖がるようなら、それが1番ね」


 お父さんとお母さん色々と話し合っていたようだけれど、僕は何を話しているのかあまり分からなかった。


 1つだけはっきりしているのは、僕のために家族が村を出て行く事。

 だが、村を出て行くのは家族じゃない、僕の方が。


 僕はこの世界に転生してから、いや、前世から世界中を旅したかった。

 だからこの機会に村を出ればいいだけの事だ。


 その方がお父さんとお母さんが幸せになれる。

 何よりまだ幼い妹たちが困らない。

 ずっとウィロウの事で頭も心も一杯だったけど、今は家族の事で一杯だ。


「だめだよ、絶対に駄目だよ、村を出て行くのは僕だ、僕はずっと村を出て行きたかったんだ、1人で世界中を旅したかったんだ!」


「何を言っているんだ、世界中を旅するなんて危険過ぎる!」


「そうよ、この世界はとても危険なのよ、1人で旅をするなんて危険過ぎるわ!」


「先祖代々この世界を渡り歩いている行商人ですら、村々の近くまでは50人や100人の集団を作っている。

 村に入る時だけ2人から5人になるが、それは村人に入れてもらえないからだ。

 大人数だと何時村を襲うか分からないと思われているのだ」


「そうよ、私とお父さんも、若い頃は傭兵や冒険者をしていたけれど、町や村を移動する時は、複数のパーティーだったわ。

 どしても1つのパーティーで移動しなければいけない時もあったけれど、その時は命を失う覚悟をしたくらいよ」


「僕は大丈夫だよ、僕の身体強化はとても凄いんだ、どんな猛獣や魔獣だって倒せる……けれど……」


「命を奪うのが嫌なのだろう?」


「ケーン、お母さんに隠し事はできないのよ。

 貴男が猛獣すら殺せないのは分かっているの、そんな状態で旅はできないわ」


「でも、でも、世界中を旅するのが小さい頃からの夢だったんだ。

 お父さんが言ったんだよ、狭い村の中だけだと、生きている意味がないって!」


「いや、あれは別の意味で言ったのでだなぁ……」


「そうよ、お父さんは果樹林の中だけでは狭いと言っただけよ。

 畑や里山くらいの広さがあれば大丈夫と言っていたでしょう?

 そうだわ、禁止していたけれど、内山まで、いいえ、奥山まで行っても良いわ。

 だから1人で世界中を旅するなんて言わないで!」


「内山や奥山はもう行っているよ。

 旅に出ても大丈夫なように、魔獣に襲われても逃げきれるように、ずっと前から入って練習したいたよ」


「何だと、奥山の魔獣から逃げきれるのか?!」


「なんてこと、そんな危険な事をしていたの?!」


「お父さん、お母さん、僕が村を出て行くよ。

 小さい頃からの夢だった、世界中を旅するために出て行くよ。

 だから家族で村を出るなんて言わないで、エヴィーたちが大変だよ!」


「心配いらん、お父さんとお母さんに任せておけばいい」


「そうよ、お父さんとお母さんに任せておけば大丈夫よ。

 それに、ケーンのスキルで手に入れたお金があるわ。

 あれだけあれば、王都にだって家が買えるわ。

 王都に行けばエヴィーたちも安全だし、良い教育も受けられるわ」


「じゃあ僕がもっとお金を稼ぐから、お父さんとお母さんはエヴィーたちを連れて安全な王都に行けば良い、僕はお父さんとお母さんが反対しても旅に出る!」

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