第24話:行商隊の不安
村の果樹林を蔦壁で覆う話は全員が賛成してくれた。
毒イバラの壁は危険過ぎるので、敵が襲って来るまでは作らない事になった。
ただ、果樹林の中だけで暮らすのでは、狭すぎて息が詰まる。
どこまでも広がる世界を駆け回りたいのは僕だけじゃない。
村の子供たち全員がそう思っている。
もし村を閉じるとしたら、最低でも畑までは取り込みたいと言うのが、大半の村人の思いだった。
僕が村に残るのなら、果樹林だけあれば生きて行ける。
甘くて美味しい果物とみずみずしい野菜さえあれば、生きては行ける。
『だけどそれでは生きているとは言えない』とお父さんが言ったのだ。
だから畑を覆う蔦壁を作る準備をした。
蔦植物だから、最初だけはある程度の這う木や壁が必要になる。
1度作ってしまえば、できた蔦壁に新しい蔦を這わす事ができる。
でも最初だけは、ある程度の間隔で基礎が必要だ。
木を移植するか、材木で柱を建てるか、石を積みあげて基礎壁を造るか。
1番簡単なのは、僕の木属性魔術で種から木を育てる事だ。
成木に実を成らすよりも魔力を使うが、僕の魔力量なら簡単だ。
特に今はエリクサー薬草などの商品を作らない事になっている。
毎日村人が飲み食いする果物を作る以外の魔力を全部使える。
村で食べるだけ、酒にするだけ、特に長期保存ができる酒の原料になる樹木を選んで、畑の外側に基礎となる樹木を成長させた。
村の防衛を考えて色々していたら、あっという間に3カ月が経っていた。
その間1度も行商隊はやって来なかった。
広大になった畑を囲む高く厚い蔦の壁が完成して1カ月も経っていた。
畑を囲む蔦の壁には2ケ所の出入口がある。
1つが行商隊が使う獣道に通じる入り口、東門だ。
もう1つはいざという時に逃げるためにある、反対側の入り口西門だ。
両方の入り口とも、内側に木像の城門と櫓が組まれている。
奥山でも特に硬く火にも強い木を俺が育てて材料にした。
この城門なら少々の軍でも破れないとお父さんが言っていた。
村の周りにある果樹林の出入口も2カ所だけだ。
敵が畑の城門を破った時に、真直ぐ来られないように北と南にある。
その中にある村は、石と木でできた家が城壁代わりになっている。
だがその外側には、夜に家畜を入れる厩兼用の裏庭がある。
便所も裏庭にあるのだが、家畜や人間が出入り出来るように一家に1つ門がある。
家の中、村の中に入ろうと思うと、裏庭の門と家の裏門、両方を通らないと入れないのだが、これでは少し不用心だと思った。
出入りするには、扉に伸びて来る蔦を毎日切ってしまわないといけないのだが、安全には変えられないので、裏庭の柵と家の壁に蔦の壁を這わせた。
でも悪い事ばかりではなく、その蔦壁の数だけ甘くて美味しい果実が取れた。
あまりに量が多いので、保存するために全部酒にしなければいけなかった。
開拓村だから土属性や木属性の魔術が使える者が多い。
土属性魔術の使える者に粘土を作ってもらって、酒を蓄える素焼きの甕を造った。
以前は僕が魔力量に任せて木の酒樽や作っていたが、木製だと長期保存すると蒸発するし、木の成分が沁み出してしまうので、素焼きの甕の方が良いのだ。
スイカ、アケビ、サルトリイバラの果実で造られたワインは、山ブドウのワインやリンゴ酒ほど美味しくないが、不味い訳でもない。
ずっと貧しい暮らしをしてきた村の衆が、大切な食物を無駄にするはずもなく、長期保存に適さない、痛みそうになった物から飲んでいた。
4カ月過ぎてようやく行商隊が村にやって来た。
里山を覆う蔦壁が半分弱完成してしまうくらい長く来なかった。
今回もお父さんと一緒にフィンリー神官と行商隊代表の交渉に同席した。
「長く待たせてしまったな」
「本当だぞ、以前言っていた、繋がりのできた貴族に捕まったのかと思ったぞ」
「どこの国かは言えないが、あれは他国の貴族なのだ。
流石にエリクサー薬草が手に入るとなると必死になりやがって。
何カ国も行き来しているのに、ずっと付け回しやがったから、1番刑罰の厳しい国で密偵につけられていると訴えてやった」
「おい、おい、そんな事をしたらエリクサー薬草の売り先が無くなるだろう?」
「この村の事を知られて、金の生る木を根こそぎ奪われるよりましだ。
それに、少量ずつなら冒険者ギルドや薬種商会に売ればいい。
向こうはどうしてもエリクサー薬草が欲しいのだ、少しずつでも買い集めるさ」
「そうか、そこまで割り切っているのなら、こちらはそれでかまわない。
もともと、砂糖もエリクサー薬草も村にはなかった物だ。
果物もフルーツワインもドライフルーツも、村の衆で楽しめれば十分だ」
「そうだな、大切な仲間を奪われる危険を冒してまで大金を稼ぐ必要はない。
これまで通り堅実に儲けられれば十分だ。
それはそうと、村を覆う蔦の壁はなんだ?
あんなもの、3カ月や4カ月で作れるもんじゃないぞ!」
「そんな事、聞かなくても分かっているだろう、神与のスキルだ」
「ほう、そんな大事な事をよく口にしたな。
何時ものように遠回しにしないのは何故だ?」
「分かっているだろう、あれだけの壁を破って中に入れる奴がどれだけいる?
王国の騎士団や有力貴族の騎士団だって突破できないぞ。
蔦壁でモタモタしている間に、村の戦士の矢で殺されるだけだ」
「村の蔦壁もいれたら3重4重の壁に守られているのか……
ちょっと頼みたいことがあるのだが、2人きりで話せるか?」
「2人きりとは穏やかじゃないが、良いだろう、その代わり、貸しだぞ」
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