第22話:新しい家族と眷属

 僕は必死だった、母子が引き離されないように、子牛が食べられないように!

 最初は行商人の言い値で買う心算だった。

 こんな気持ちで値段交渉などできなかった。


 だけど、お父さんは凄い、僕の状態など無視して値段交渉を始めた。

 普段は僕に甘い所のあるお父さんが、そんな素振りを少しも見せなかった。

 僕の気持ちなど全く気にしないような態度で値段を交渉していた。


 でも、相手は何十年も行商人をしている。

 僕とお父さんの関係など簡単に見抜いていたと、後でお父さんが教えてくれた。

『普通ならもっと安く買えたのだぞ』そう軽く怒られてしまった。


 だが同時に『行商人の大切な商売道具である牛を買えたのは、ケーンのスキルのお陰だから胸を張れ』とも言ってくれた。


 家に新しい家族が増えた、牛の母子だ。

 馬の夫婦と共に、家のために働いてもらうとお母さんも言っていた。


 たくさんいる山羊と羊、鶏は家族ではなく家畜だ。

 必要になれば食べる事もあるので、家族と言ってはいけない。

 そうお父さんとお母さんに教えられてきた。


「うっげえええええ」


 肉を食べる事、動物を殺す事を考えると吐いてしまう。

 旅に出れば襲ってきた猛獣や魔獣を殺さなければいけないのに、こんな状態で旅に行けるのだろうか?


 殺さずに猛獣や魔獣を追い払う事ができればいいのだが、そんな都合のいい方法があるとは思えない。


 毒イバラの壁を作って中に隠れている事はできる。

 だけど、毒イバラに触れたら猛獣や魔獣が死んでしまう。

 直接殺すのか関節的に殺すのかの違いだけで、殺す事は同じだ、耐えられない。


 イワナガヒメ神様から頂いた身体強化スキルが物凄く強力のは分かっている。

 まだ身体強化では猛獣も魔獣も傷つけた事はないが、何故か分かっている。

 だけど、殺すのは簡単でも傷つける事無く捕らえるのは難しい。


 もし力加減ができずに手足の骨を折ってしまったら、厳しいこの世界では直ぐに食べられてしまう。


「うっげえええええ」


 どうすれば誰も、猛獣も魔獣も傷つけずに旅ができるだろうか?

 ジョイ神様の木属性魔術とイワナガヒメ神様の身体強化を一緒に使えたら、誰も何も傷つけずに隠れていられるだろうか?


「モォオオオオ」


 僕が悩んでいると、お母さん牛が優しく身体をすり寄せてきた。

 子牛も僕の足に身体をすり寄せてくれる。


 良い考えが浮かばないのに考えすぎてはいけない。

 嫌な考えが悪夢を見させるのは、前世で泣き叫ぶほど経験した。

 楽しい事、うれしい事を考えないといけない。


 僕はお母さん牛と子牛を厩に残して畑に出た。

 家畜を放すための畑だから今年は何も作っていない。


 作物を荒らす心配がないので、何も考えずに思いっきり走れる。

 身体強化をしなければ、人目を気にせずに思いっきり走り回れる。


「「ヒィヒィイイイン!」」


 僕の両横を馬の夫婦が駆けてくれる、僕の早さに合わせて駆けてくれる。

 前世とは違う、苦しいけれど気持ち良い胸の痛みに涙が流れそうだ!

 痛いけれどうれしい、苦しいけれど心地よい、僕は幸せだ、ありがとう神様!


 馬たちと思いっきり駆け回ったら嫌な気持ちがなくなった。

 だけど、いつまでも遊んでばかりはいられない。

 村にいる間に親孝行しなくてはいけない。


 畑仕事や見回りをしているお父さんとお母さんに代わって家畜の世話をする。

 馬たちと山羊と羊はこのまま放牧していてもいい。

 だけど鶏には餌をあげないといけない。


 動物たち共有の厩にもどると、突然ひらめいた!

 ジョイ神様からのお告げだと思うが、呪文が思い浮かんだ。


「マイ・ファミリー、グロー・ストロング・アンド・グロウ」


 眷属よ、大きく強くなれ!

 僕には眷属がいて、その子を強く大きくできるのだ!

 強い眷属動物がいてくれたら、旅の供として最適なのだが……


 ジョイ神様に文句を言うなど畏れ多いが、何故なのだろう。

 馬でも牛でもない、せめて山羊や羊だったらよかったのに、何故鶏なの?

 鶏が眷属として役に立ってくるだろうか?


 いや、僕をこの世界に転生させてくださった神様を疑ってはいけない。

 こんな丈夫な身体を下さったイワナガヒメ神様を疑うなんて、罰当たりだ!


 ジョイ神様が選んでくださったのだ、僕に最適な眷属なのだろう。

 今は小さく弱いけれど、愛情を注いで世話したら強く大きなってくれるはずだ。

 そのための呪文をジョイ神様が授けてくださったのだ。


 僕はそれから毎日鶏に成長の呪文を使った。

 木属性魔術なのに、不思議と鶏に効果が有った。


 ほんの少しだけど身体が引き締まっていく。

 10メートルしか飛べなかったのが、低空なら村を一周できるほど飛べるようになり、村の人たちを驚かしていた。


 僕は毎日一生懸命に過ごした。

 朝昼夕と木属性魔術を使って薬草を生長させた。

 乗馬の練習をして、家畜の世話をして、妹たちを大切にした。


 そんな日々の中で、誰も傷つけずに生きて行ける術を考え続けた。

 毒イバラの壁ではなく、蔦の壁なら襲ってきた王侯貴族を殺さないで済むのではないかと考えて、奥山に行って試してみた。


「プロテクト・ウィズ・ア・ウォール・オブ・アイビー」


 あっけなく成功したけれど、厚みが少なかった。

 これでは誰も守れないと思って何重にもしてみた。

 そうしたら、高さ20メートル、厚さ5メートルの蔦の壁ができた。

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