第18話:最悪の想像

 あまりにも激しいフィンリー神官と行商隊代表の値段交渉は、怖過ぎて胃が痛くなるほどだった。


 将来は村の代表にとしてやれと言われたが、向いているとは思えない。

 逃げる気はないですが、僕以外の誰か、ちょうど良い神与のスキルを得る者がいたら、その人に任せた方が良い。


 それに、村に戻る気はあるが、僕は旅がしたいのだ。

 この脚でしっかりと歩く旅がしたい、前世のようにベッドに寝たきりではないが、この村の中だけで生きて行くのは嫌だ!


 あ、いや、可愛い馬に乗せてもらうのは大好き。

 でも、できれば、馬には旅の荷物を運んでもらいたい。


 僕が手綱を握って歩き、馬が荷物を運んでくれる。

 まるで行商人のようだが、旅に必要な物は多いからね。


 とても長い時間がかかったが、値段交渉がまとまった。

 各種フルーツワインとドライフルーツは、前回と同じ高値で買ってもらえた。

 薬草は前回よりも少し高い値段で買ってもらえた。


 フェロウシャス・ボア4頭分の素材は、行商隊代表も驚いていた。

 小麦も普通に買い取ってもらえたが、全体の売値を考えると、もう売らなくてもいいくらいだとお父さんが言っていた。


 村が買ったのは、頼んでいた新しい野菜の種と薬草の種、前回の売買の時に頼んでいた良質な鉄で造った武器と斧だった。


 前回も行商人が持っている鉄器の中では良い物を買ったそうだが、それは特別に良い物とは違うそうだ。


 騎士の中でも特に強い人が持つような、特別な剣や斧と比べると、かなり見劣りするとお父さんが教えてくれた。


 これからもフェロウシャス・ボアのような強大な魔獣が現れるのなら、僕に頼ってばかりではいられないので、特別な武器が欲しいと言っておられた。


 だから、鋼鉄で造られた武器を注文されたそうだ。

 いずれはミスリルの武器を買うとうれしそうに言っていた。

 そのために、我が家はお金を貯めているそうだ。


「お父さん、さっき話せないと言っていたのは何なの?」


「ああ、あれか、あれはな、行商隊のアイテムボックス持ちが狙われているのだ」


「狙われているて、どういう事なの?」


「アイテムボックスのスキルはとても貴重だと言ったろ?」


「うん、聞いた」


「王侯貴族から見ても、力尽くで奪いたいくらい役に立つスキルだから、行商隊にいられなくなるかもしれないと言っていたのだ。

 アイテムボックス持ちがいなくなれば、酒も果物も買えなると言っていたのだ」


 あの会話の中にそん意味があったのか!


「そんな、じゃあ村から売れるのは薬草だけになるの?」


「その可能性が高いから、行商隊代表は、アイテムボックス持ちがいなくなっても運べる、砂糖を作れる野菜の種と、魔術薬が作れる薬草の種を持ってきたのだ」


「そんな事、何も言っていなかったよね?」


「直接話すと問題の有る事は、遠回しに話すのだ。

 アイテムボックス持ちを狙っている王侯貴族が、軍勢を率いてここにまでやってきた時に、何も知らなかったと言い張るためにな」


「何も知らなかったと言って通用するの?」


「通用するかもしれないし、通用しないかもしれない。

 だが、助かる可能性のある事はできるだけやっておかないといけない。

 普通の場所では育てられない、砂糖の野菜と回復薬の薬草を作るのも、この村の価値をあげておくためだ」


「そうなんだ、僕は砂糖の野菜と回復薬の薬草を作ればいいんだね?」


 なんか大変な事になっているみたいだ。

 王侯貴族に村が狙われているなら、勝手に旅には出られない。

 もう少し大きくなってからの心算だったけど、更に遅くなるかもしれない。


「そうだ、ただ、もしかしたら、これからは果実も薬草も作れないかもしれない」


「どういうこと?」


「砂糖や薬草が王侯貴族に対する武器になればいいが、逆になる場合もある」


「逆?」


「アイテムボックス持ちと同じだ。

 王侯貴族が自分達の物にしようとするかもしれない」


「それって、僕の事?」


「そうだ、ケーンを囲い込んで自分たちだけが利益を得よとするのだ」


「そんな、嫌だよ!」


「大丈夫だ、お父さんとお母さんが必ず守ってやる。

 それに、窒息のスキルさえバレなければ、アイテムボックス持ちと違って命の危険がある訳じゃない」


「え、アイテムボックス持ちは命の危険があるの?」


「ああ、アイテムボックス持ちは軍や冒険者につけると役に立つ。

 戦争やダンジョン狩りに同行させられたら、何時死ぬか分からない。

 だがケーンの植物を生長させるスキルは、戦争やダンジョン狩りに直接効果のあるスキルではないから、王侯貴族は自分の農園で働かせるだろう。

 何があっても命の心配がないだけ安心だ」


「でも、窒息のスキルが見つかったら危ないんだよね?」


「ああ、あのスキルなら、どれほど強い魔獣でも狩ることができる。

 たとえ相手がドラゴンであろうともだ」


「そんな事はないよ、相手が強すぎたら効果がないよ。

 此方の魔力を相手がはじき返してしまったら、鼻も喉も塞げないよ!」


「王侯貴族がケーンの言う事を信じてくれればいいが、自分に都合よくしか考えない王侯貴族が多い。

 何を言っても信じずに、無理矢理危険な所に行かされるかもしれない」


「お父さんやお母さんは黙っていてくれるだろうけど、村の人たちは大丈夫かな?」


「分からないが、いざという時は戦って斬り抜ける。

 何時でも村から逃げられるようにしておくんだ」

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