第15話:嘔吐
チュン、チュン、チュン、チュン、チュン
鳥の鳴く声が聞こえます。
「わぁあああああ!」
畑を荒らす鳥を追う、子供たちの声が聞こえます。
「うっげえええええ」
子供たちが使う投石紐で殺される鳥を想像して、吐きそうになってしまいました。
幸い胃に何も残っていないのでベッドも床も汚さずにすみました。
台所の方から肉の臭いが漂ってきます。
「うっげえええええ」
僕のために、フェロウシャス・ボアの肉で作った料理を置いてくれているのでしょうが、今の僕には苦しいだけです。
このまま肉の臭いの籠った家にはいてられません。
エヴィーたちは教会に行って勉強しているのでしょう、何の気配もありません。
教会に行って、朝の役目ができるようになったと言わなければいけないのですが、今日は村中に肉を焼いた臭いが満ちているはずです。
何所の家も、村では大のご馳走になるフェロウシャス・ボアを、新鮮なうちに焼いて食べていたはずなのです。
「うっげえええええ」
このままではいけないと思い家を出ました。
村の中心になる教会の方ではなく、畑の方につながっている裏口から出ました。
夜の間は裏庭に入れられている家畜がいません。
僕が起きる前に、何も作っていない畑に放されたのでしょう。
今日実らせるはずだった、共有のスモモがある所に行ってみました。
僕が寝込んでしまったから、中止になったはずなのですが……
「ハンナさん、元気になったのでスモモを実らせる事にしました。
畑にいる人たちを呼んで来てもらえますか?」
「あら、よかった、今日は駄目かと思っていたの、直ぐ呼んでくるわ」
アンナさんは僕と同じで、少し酸っぱい果物が大好きなのです。
今日は特に大好きなスモモの日だから、諦めきれなかったのでしょう。
酸味の強いスモモの事を考えると物凄くお腹が空いてきました。
「メイク・プラム・ライプン・ファスター」
村の人たちが集まって来る前にスモモを実らせました。
他の何所にもない、特大のスモモです。
村中の人たちが、こんなに大きなスモモは見た事も聞いた事ないと言っています。
それに、大きなだけではありません。
とても甘いのです、桃やリンゴ、山ブドウや柿よりも甘いのです。
僕が全力で甘くした他のどの果物よりも甘くなるのです。
でも、甘いだけでなく美味しいのです。
旨味があると言うのか、とても美味しくて甘いのです。
それに、どの果物よりも細かく甘みと酸味と旨味を変えられるのです。
素早くスモモに木に登って少し酸味を残した実を貪るように食べます。
強い甘みと少しの酸味が、頬の裏を痛くするほどです。
乾いた身体にみずみずしいスモモが染みわたります。
3つ4つと、日本で食べていた桃くらい大きなスモモを食べた。
両手に1個ずつのスモモを持ってその場から離れます。
フェロウシャス・ボアの臭いをさせた人たちに会いたくないのです。
僕はそのまま新しくなった里山に向かいました。
この村では昼ご飯を食べませんが、晩御飯は食べます。
何を食べるのかを考えないようにして、自分の用の食べ物を実らせに行きます。
家には村全体を養える穀物が3年分保存されています。
とは言っても、全部は家に置いておけません。
大半は教会の共有財産置き場に保管されています。
でも、大好きな栗は保管されていません。
栗は悪くなるのがとても早いのです、直ぐに虫がわいてしまうのです。
僕が早く成長させた栗は虫がついていませんが、家や教会で保存していると、何時の間にか虫がわいてしまうのです。
里山につくと小ぶりな栗の木に実をならせます。
僕1人で運べるくらいの数に収まるように手加減します。
もちろんイガグリの部分をのけて、手で拾える状態にしておきます。
ジョイ神から授かった木属性魔術は本当に便利です。
これがあればどこに行っても飢える事はありません。
よく考えたら、僕はアイテムボックスがいらないのではないでしょうか?
実らせるまでに数年かかる木の果実だと、時間も魔力も多く必要ですが、数カ月で実る野菜なら、ほとんど魔力を使わずに実りを手に入れることができます。
みずみずしい野菜なら、水の代わりになります。
甘い野菜なら、食事の代わりになります。
種さえ持って行けば、僕はどこにでも旅する事ができるのです。
問題は水の代わりになるよう、みずみずしい野菜があるかどうかです。
パンの代わりになるような、甘くて美味しい野菜があるかどうかです。
今のところそのような実りは、果樹にしか成りません。
村で作っている野菜は季節によって変わりますが、パセリ、リーキ、玉葱、人参、カブ、インゲン豆、サラダ菜、キャベツ、コリアンダー、ディル、ヘンルーダです。
バルバビエトラ、ゼニアオイ、チコリ、レタス、ナタネ、クレソン、ニンニクも食べますが、エンドウ豆、ヒヨコ豆、レンズ豆もよく食べます。
ですがどれも、水の代わりになるほど、みずみずしくありません。
水の代わりに生で食べたいとは思えません。
次に行商人が来てくれた時、高くても良いからみずみずしい野菜の種を手に入れて欲しいと頼みましょう。
僕なら季節に関係なく生長させる事ができます。
小さな袋1杯分の種を持っていれば、何所にでも行けるようになります。
みずみずしいだけでなく、甘酸っぱさもあるなら最高です。
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