第12話:試行錯誤
行商人が来た次の日、僕は朝1番に山ブドウを実らせました。
シードルの次に女の人たちが好きなのが、山ブドウのワインだからです。
それと、お腹がいっぱいになるのはリンゴですが、甘くてみずみずしくて美味しい山ブドウは、子供たちも大好きなのです。
寝て元気になったと言って、朝1番に実らせてあげました。
魔力を使った僕は、収穫も加工も手伝わなくていいのです。
何かあった時のために、少しでも早く魔力を回復させるのが仕事です。
またフェロウシャス・ボアのような恐ろしい魔獣が現れた時に、僕が窒息させなければいけないのです。
休んでいると、昨日お父さんから聞いたアイテムボックスを思い出しました。
世界中を旅するのに、アイテムボックスはとても役に立ちます。
入れられる量は、神与のスキルによって違うようですが、家の部屋1つ分だけでも入れられたら、すごく役に立つと思うのです。
お父さんにもお母さんにも話せませんが、僕は2柱の神様から神与のスキルを頂いています。
ジョイ神から頂いた神与のスキルは、何ができるか分かりますが、イワナガヒメ神から頂いたスキルの使い方が分かりません。
もしかしたらアイテムボックスが使えるようになるかもしれないので、休んでいる間に色々と試してみました。
1時間ほど試しましたが、全然上手く行きません。
木属性魔術は、効果も呪文も思い浮かんだのに、何も分かりません。
(イワナガヒメ神様、僕はアイテムボックスが使えないのですか?)
心の中で聞いても答えてくれません。
あまりしつこく聞いて嫌われたら、大切なスキルを取り上げられてしまうかもしれません。
フィンリー神官が僕を嫌な目で見ていた村人を追放する時に、神様に嫌われたらスキルを取り上げられると言っていましたから、もう聞かない事にします。
でも、そう簡単には諦められない。
夢を実現するためには、アイテムボックスが有った方が便利です。
動画やアニメ、マンガやラノベで知っている事は全部試して成功している。
体の中にある魔力は、折りたたんで圧縮できるようになっている。
魔力器官だけでなく、チャクラや経穴にも魔力が貯められるようになった。
身体の中でなら、水や食べ物を圧縮して貯められるかもしれない……
でも、試すのはちょっと怖いな~
力が足らなくなって破裂したら……身体まで破裂してしまう。
身体の外なら、破裂しても皮膚や筋肉に流している魔力で防げるのに。
だったら身体の外で折りたたんで潰して圧縮したら小さくなるかな?
魔力で包んでしまったら、缶詰みたいに長く保存できるかな?
魔力を増やした時も最初から全部成功した訳じゃない。
スマホで観た事や読んだ事を何度も試して、この世界、この身体で出来る事を確かめたんだ!
最初は20リットルの水をどれくらい小さくできるか試してみる。
いや、自分の魔力を身体の外に出して大丈夫か確かめる。
皮膚の内側なら、どれだけ流しても魔力は減らなかった。
……残念ながら、どれほど頑張っても水は圧縮できませんでした。
これでは水のない所、水の汚い所には行けません。
やれるとすれば、おしっこや汗を飲めるようにきれいにする事ですが、そこまではしたくないです。
ですが、食べ物を缶詰やレトルトのように長く保存できるようにはしたい。
大きな葉にパンを包み、果樹に魔力を流して早く実らせたように、葉に魔力を流して悪い菌を防ぎます。
これで2年も3年も食べ物が腐らないと良いのですが、もう魔力が散っていくのが分かります。
果樹だとそんな事はなかったのに、葉っぱだと駄目です。
木と葉っぱだとそんなに違いはないと思うのですが、何故でしょう?
生きている木と、死んでしまった葉っぱの違いなのでしょうか?
僕の魔力量なら、パンを包む葉っぱに流す程度の魔力なら、散る量よりも新しく作られる魔力の方が多いので、それほど気になりません。
でも、もっと大きな食べ物を保存する時に困ります。
僕が作れる魔力と散ってしまう魔力のバランスは、これから試せばいいです。
先に知りたいのは、魔力で包んで腐らないように出来るか出来ないかです。
もし出来ないとなると、水だけでなく食べ物にも困ります。
できなかったら、行商人のように牛に運ばせるしかありません。
牛ではなく、馬やロバ、山羊でも荷物は運んでくれますが、動物によって得意な場所と苦手な場所があるとお父さんが言っていました。
村では山羊や羊を多く飼っています。
馬は、父さんたちのような戦う役の人たちだけが飼っています。
旅に出るのなら、今から馬を増やした方が良いでしょう。
増やすだけでなく、馬の乗り方も覚えておいた方が良いですね。
お父さんに何故馬の乗り方を覚えたいと聞かれたら、何て返事をしたらいいのでしょう?
「ケーン、疲れが取れたらお父さんの畑仕事を手伝ってあげて」
「は~い、直ぐに行きます」
何と言えば良いのか、今は分かりませんが、何時かは旅に行きたいと言わなければいけないのです。
どれほど反対されても、これだけは諦められません!
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