第8話:生薬
「ウォオオオオ、やったぞ、フェロウシャス・ボアを狩ったぞ!」
「「「「「ウォオオオオ!」」」」」
「どうした、何を泣いている、安心したのか?
泣き止んで胸を張れ、ケーンは大手柄を立てたのだぞ!」
お父さんはそう言ってほめてくれますが、生まれて初めて命を奪った罪の意識で、胸が激しく痛み吐き気がします。
1度食べた大切な食糧を吐くのは悪い事なので、必死で我慢します。
命を奪った上に食糧まで粗末に扱う訳にはいきません!
「どうした、魔力を使い過ぎたのか、横になっていろ」
「アラミス、ケーンは私が家まで運ぶわ。
貴男はここに残ってフェロウシャス・ボアの解体をお願い。
牙も毛皮も良い交換品になるから、価値を損なわないように解体しておいて」
「分かった、フェロウシャス・ボアは俺たちに任せてくれ、ケーンの事は任せたぞ」
情けないですが、神与のスキルをもらったというのに、お母さんに抱きかかえられて家に運ばれました。
この手で命を奪った罪の意識に耐えられず、その場で気絶してしまいました。
起きた時には情けなくて泣いてしまったほどです。
ここは地球とは違う、日本とは違う、分かっている心算でしたが、全然分かっていませんでした。
自分の大切なモノを守るためなら、他の命を奪わないといけません。
時には動物ではなく人の命まで奪わないといけません。
僕もこれを機に覚悟を決めなければいけません!
そう心に誓ってはみたものの、積極的に猛獣や魔獣を狩る気にはなれません。
お父さんやお母さんからは、窒息魔術を使った狩りを期待されているのが分かりましたが、2人に危険がない限り使う気にはなれません。
その代わり、村の人たちが求める果物を実らせました。
交易商品として価値がありそうな、ドライフルーツを作れるように、柿と山ブドウとイチジクを実らせました。
「ケーン君、悪いが薬草を育ててくれないか?」
10日ほど経ってフィンリー神官が話しかけてきました。
「果物よりも薬草の方が大切なのですが?」
「ああ、ケーンのお陰で食べ物の備蓄は十分できた。
薬草も少しはあるのだが、もっと数があった方が良い。
行商人と交換するのは酒よりも薬草の方が良いのだよ。
特に干して小さく軽くなった薬草の方が沢山持って行ってもらえる」
「分かりました、直ぐに大きくしてきます」
「お父さんとお母さんに話してあるから、2人と一緒に行くんだよ。
絶対に1人で行ってはいけないよ」
「はい、分かりました」
僕は朝早くから、父さんとお母さんについて、里山から内山、内山から奥山へと入って行きました。
奥山どころか内山に入るのも生まれて初めてです。
1人でも来られるように道を覚えようと必死でした。
「フィンリー神官から頼まれた薬草は分かっているな?」
「うん、名前は全部覚えたけれど、どの草なのかはよく分からないよ」
「大丈夫よ、私たちが教えてあげるから、しっかりと覚えなさい」
お父さんとお母さんが一緒に行くのは、僕を守るためだけではありません。
見た事もない薬草を見分けるためにも一緒に行くのです。
フィンリー神官から頼まれた薬草は以下の通りです。
クズ:鎮痛・止血・二日酔い
クコ:強壮・解熱作用・高血圧・動脈硬化
キク:抗炎症・咳止・結膜炎・上気道炎・鼻閉・視力低下・高血圧・めまい
シソ:疲労回復・解熱・鎮痛・鎮静・咳・喘息・便秘・嘔吐・食欲不振・神経痛
ヨモギ:止血・沈痛・痢止・扁桃炎・咳止・生理痛・生理不順・神経痛・リウマチ
カタバミ:皮膚病・止血
ゲンノショウコ:下痢・かぶれ
僕はお父さんとお母さんの言う草木を生長させました。
今後1人でも採りに来られるように、しっかりと覚えました。
前世からの夢である世界中を自分の足で旅するには、薬草の知識は欠かせません。
「おとうさん、これは集めなくても良いの?」
僕は前世の動画で見た事のあるドクダミを見つけて聞きました。
血管強化・高血圧・腎臓・胃腸・利尿・便秘・解毒・化膿・腫瘍・鼻炎・蓄膿症・皮膚病と色々な効果が有り、別名十薬とまで呼ばれる万能薬草だったはずです。
「おおドクダミか、ドクダミは良く効く薬草だが、比較的何所でも採れる薬草だから、売り物にはならないんだ。
それよりは1つの効果が強い薬草で、他の地に少ない薬草の方が価値があるから、行商人に売るならそっちの方が良いのだ」
僕はそれからもお父さんとお母さんに色々教えてもらいました。
神与のスキルを頂いたので、1人前になっているはずなのですが、お父さんとお母さんにはまだまだ子供扱いされていました。
でも、フェロウシャス・ボアを狩ってからは1人前に扱ってもらえています。
1人立ちしても僕が暮らしていけるように、生きて行くのに必要な知識は全部教えてくれる気なのが分かりました。
だから、時間がかかっても、フィンリー神官から頼まれていない薬草まで、特徴と薬効、どのような所に生えているのかまで教えてくれました。
「お、ユキノシタがあったぞ、これは火傷にも効くから覚えておけよ」
「はい、お父さん」
「火傷につかう時は、生の葉を軽く火で炙るかすりつぶしてから、火傷したところに塗るのですよ」
「はい、おかあさん」
「今日はもう遅くなったから家に帰りましょう。
エヴィーたちが首を長くして待っていますよ」
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