呼吸税を納めないとどうなるの?

ちびまるフォイ

みんながもっと呼吸を楽しめる世界へ

「こんにちは。国税局のものです」


「こ、国税局!?」


「あなたは税金が未納のようでしたので、

 こうして直接回収に来ました」


「そんなバカな。俺がなんの脱税をしたっていうんです」


役人は顔色ひとつ変えずに答えた。


「呼吸税です」



「は?」


「呼吸すると、地球上に二酸化炭素が増えます。

 それが温室効果ガスとなり大気にたまり、

 地球温暖化を加速させ、南極の氷がとけて海面が上昇し……」


「いやそんなことはどうでもよくって!

 呼吸するだけで税金とられるんですか!?」


「そうです。納税しないと差し押さえます」


「わっ、わかりましたって! 払いますよ! 払えばいいんでしょう!?」


「そのとおりです」


「言い方ムカつくな……」


しぶしぶ呼吸税を収めた。


自分はかつての研究でひと財産を気づいた資産家。

この程度の税金はなんのダメージにもならない。


気に食わないのは「呼吸税」という存在。


ぜいたくをしている人から税金を取るのではなく、

とにかく手広く金を回収してやろうという真意が透けて見える。


「なにが呼吸税だ。こんなふざけた税金、納めてたまるか」




それからしばらくすると、再び国税局の役人がやってきた。


「こんにちは。国税局のものです」


「またですか」


「それはこっちのセリフですよ。

 どうして呼吸税を支払わないんですか」


「呼吸税? それは呼吸していると発生する税金ですか?」


「もう忘れたんですか」


「いいえ。忘れてませんよ。しいて言うなら……呼吸の仕方を忘れましたかね?」


どや顔で答えてやった。

役人は鳩が豆ガトリングを打ったような顔をしている。


「俺の肌を見てください。ちょっと緑っぽいでしょう?

 これはミトコンドリア。俺はもう呼吸なんて不要。

 

 細胞が日光から酸素を生成するので呼吸なんてしてないんですよ」


「ご自身の体を改造したんですか……?」


「もう呼吸なんて古い。

 だから呼吸税は俺には無縁なんです」


「なるほど……」


役人は少し考えてから結論を出した。



「でも、呼吸税は払ってもらいます」



「はあ!? 俺の話きいてました!?

 俺はもう呼吸なんてしてないんですよ!?」


「それは呼吸という行為のかわりに光合成を得ただけでしょう。

 やってることは呼吸と同じ。酸素を取り入れている。

 だから、広い意味で呼吸と同じなので支払ってください」


「んなっ……」


「支払わなければ、この近くに高層ビル建てます」


「はあ? なんでそんなことに?」


「光合成できなくなるでしょう」


「税金納めないと殺すつもりかよ!!」


結局、押し問答の末に呼吸をしていない俺が呼吸税を払うことになった。

お互いに屁理屈の押し付け合いだったが、負けたことがなにより悔しい。


「なにが呼吸税だ……! 今度は絶対に払わないぞ!!」



またしばらくして、国税局がやってきた。


「こんにちは。国税局のものです、もういい加減にしてください」


「なにがですか?」


「これで呼吸税の未納が3回目です。

 いい加減に呼吸税を納めることを覚えてください」


「はて。呼吸なんてしてませんが」


「またその言い訳ですか。

 光合成は呼吸の一種だと言ったはずです」


「光合成? ははは。そんなのはもう古い。

 俺はもう呼吸なんてしてないんですよ」


「なんですって?」


「俺の体はあらゆる遺伝子組み換えの結果、

 これまで酸素や空気から得ていたエネルギーを

 特殊な化学変化を起こし、体で生成できるようになった」


「そこまでして……」


「もう呼吸はしていない。呼吸のかわりをしているんじゃなく、

 そもそも呼吸することが不要な体になっているんだよ」


「なるほど」


「だから呼吸税は支払っていない。あーゆーあんだーすたん?」


「わかりました。たしかに呼吸はしていないと認めましょう」


その言葉を聞いて勝利を確信した。


「やった! 勝った! なにが呼吸税だばーーか!

 こんなの二度と払ってやらねぇからな!!」


小躍りしていると役人は変わらぬ冷静なテンションで答えた。



「しかし、人体改造税は今後支払ってもらいます」



これに関してはさすがに言い逃れできるわけもなく、

人体を改造して人間以上の生物になったことへの罰金として税金を納めた。


「これからも呼吸税は回収しませんが、

 人体改造税は毎月ちゃんと納めてくださいね」


「くそう……なにをやっても結局取られるじゃないか」


「税金ですから。ではこれで失礼します」


「おい待て! 最後に聞かせてくれ!」


「はい?」


「呼吸税でたくさん税金を回収できたんだろう!?

 それだけの財源でいったい何をするつもりなんだ!」


「我々はいつも税金を国民が喜ぶことのためだけに使ってますよ」


役人は初めてにこやかに笑って答えた。

そしてーー。




「呼吸税で得た巨万の富は、

 国民がもっと呼吸したくなる

 美味しい空気を作ることに使っています」

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