第16話本当に仲が良いから言い合える

南の島の海を眺めながらのドライブは暫く続く。

後部座席では三人がワイワイと他愛のない会話を繰り広げている。

運転席では瑠璃が軽快に運転をしていて僕はスマホを操作していた。

「ラジオでも流す?」

瑠璃に問いかけると彼女は一つ頷く。

「渋滞情報知りたいから流してくれる?このナビ古いタイプっぽくて…さっきから出ないんだよね」

「スマホのナビ使おうか?」

「面倒じゃなかったらお願いできる?」

「面倒なんかじゃないよ。ちょっと待ってて」

ポケットからスマホを取り出すと普段から使っているナビアプリを起動する。

「この辺で渋滞している場所はしばらくないよ」

「良かった。近くに昼食買える場所とかってある?調べてくれたら助かる」

「了解」

そのままスマホで近くの飲食店を調べていると後部座席で会話を繰り広げていた導が声を掛けてくる。

「彼方。ハンバーガーが良い」

ちょんちょんと肩を叩いて耳打ちをする導に苦笑すると一つ頷く。

「わかった。何かこだわりはある?」

「ない。でもお肉が分厚いやつが良い」

「了解。調べておくね」

「うん。任せきりでごめんね」

「良いよ。皆で話してて」

「ありがとう。助かるよ」

助手席の人間の役目だとでも言うように一手に役割を担うとスマホで検索を進める。

走っている道路の数km先に、ご当地では有名なハンバーガーショップを見つけて車内の女性陣に声をかける。

「導はハンバーガーが良いって言ってるんだけど。皆は何か食べたいものある?」

「さっき食べたんじゃないの?もうお腹空いたの?」

花音が隣に座っている導に怪訝な表情を浮かべると鏡子も同意するように深く頷いていた。

「だって水族館ではフィッシュバーガーだったから」

導は意味の分からない言い訳のような言葉を口にして唇を尖らせていた。

「久しぶりに意味分かんないわ」

花音は呆れると隣の鏡子に顔を向ける。

「鏡子は?お腹空いてないでしょ?」

「今はいらないかな。とりあえず買っておくけど」

「ハンバーガーでいいの?」

「お腹空いてないから考えられない。とりあえず何でも良い」

消極的な鏡子の意見を聞いた花音は瑠璃に問いかける。

「瑠璃は?何か食べたい物ないの?」

「私も何でも良いよ。朝食食べたばかりだし。彼方と花音は?」

瑠璃は僕らに問いかけてくるので後部座席を振り返り花音と顔を見合わす。

「調べた感じ何処か良さそうなお店あった?」

花音にスマホを渡すと彼女は画面をスクロールしていく。

「ハンバーガーじゃなかったらうるさそうね」

花音は導の方を一瞥するとスマホを返してくる。

「調べてくれてありがとうね。私達、何もしなくてごめん。話に夢中になってた…」

「全然良いよ。花音もここで良い?」

「うん。お願いします」

スマホを受け取ると瑠璃に目的地を告げる。

助手席でナビをしつつ目的地を目指すのであった。


ハンバーガーショップで人数分以上を購入し、近くのコンビニで酒類などを購入するとそのままホテルへと戻った。

結局、ドライブの予定はそこで終了してホテルでの飲み会は始まる。

「旅行二日目。かなり早いけど…休みだから良しとしましょう。かんぱ〜い」

瑠璃が音頭を取るとハンバーガー片手にアルコールは進んでいく。

導は水族館でも食事をしていたらしいが相変わらず凄い食事の量で誰よりも速いスピードで食べ進めていた。

「お腹は満たされたかい?お嬢ちゃん」

お酒を口にしてまだ少しの時間しか経過していないが鏡子は酔いが回っているようで導に若干のうざ絡みをしていた。

「私が小さいからお嬢ちゃんって言った?」

導の何かしらの琴線に触れたのか彼女は食事の手を止めて鏡子に顔を向けた。

「いやいや。鏡子も流れで言っただけでしょ。気にし過ぎだよ」

瑠璃が導を宥める様に配慮した言葉を投げかけていた。

「よく食べる子で偉いね」

花音も鏡子に追随するように導を挑発するような言葉を吐いていた。

「子って言った?なんか二人共バカにしてる?」

導は一度席を立ち上がると二人を見下ろしていた。

「いやいや。二人共そんな気無いでしょ?ちょっと酔ってるだけだよね?」

瑠璃は全員に気を配っており少しだけあたふたしているようだった。

「皆、本当に仲良いね」

その場を落ち着かせるわけでは無いのだが思った本音を口にすると導は矛を収めたようで席に腰掛けた。

「今のどの辺が仲良く感じたの?彼方。おかしいんじゃない」

導は少しだけ拗ねたような表情で窓の向こうを眺めながらハンバーガーを頬張っていた。

「何でも言い合えるのは仲良しってことでしょ?ふざけた悪口のような軽口も言い合えるのは羨ましいよ」

「言われてる方は、そんな良いものじゃないけど…」

「導は皆に羨ましがられてるんじゃない?」

「何で?」

「いくら食べても体型維持できるから。とか」

「ふぅ〜ん。まぁ良いけど…」

導はやっと機嫌を直したようだった。

鏡子と花音も溜まっていたものを吐き出せたようでスッキリとした表情を浮かべていた。

瑠璃はふぅとほっと一息を着くと缶ビールを口に運んだ。

そこから夕方が来るまでダラダラとした旅行二日目の昼下がりを過ごすのであった。

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