灯火
あんちゅー
想いの火
暗い底を照らす、その光は私を狂わせてしまう。
深い海の底、星のない夜闇の中、積み重なった瓦礫の内。
どこからか差すその光がいつか私を殺すのだ。
例えばそれがない時、私は幸せであった。
堆積した泥に体を預け、何もかも見えない闇の中で1人いる事がどれだけ楽であるか。
手探りに辺りを確認するだけで、殆ど存在しない世界を1つ握りしめているような心地に包まれる。
平穏と安寧。
求めていたものを得られた幸福感だけが私自身を支配する。
どこまでも届かない暗闇に一つであると思えるだけの余裕が生まれる。
あとは腐り落ちて死んでいく。
形も残らず死んでいく。
私に指す一筋の光。
それは私を狂わせる。
またひとつ、もうひとつと薄く私を照らすその光が指す途端に、私にとっての恐怖を与える。
深海を横切る大きな影、頭上にちりばめられた無数の光と瓦礫の隙間から頬を焼く赤い熱。
この世界に私以外のものが手をつける感覚は、私の心をかき乱すのだ。
やめて、やめてと叫んでみても、ただ矮小な己の小ささが浮かび上がる。
私は狂ってしまったみたいだ。
恐ろしいこの世界で、私だけのこの世界に、たった一筋差し込むその光を追いかけてしまうのだから。
まるで街灯に集る虫のように。
それは灯火、想いの光。
人は光に狂ってしまう。
灯火 あんちゅー @hisack
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