第12話 元地球人もとい日本人には必要なのです

 翌日、僕は朝早くから活動を始めた。

昨日から干している魚の欠片の匂いでログハウスは少々生臭くなっている。

今日には燻しはじめたい。燻製だ。

「燻製器つくれたら……ソーセージ……いや流石に腸詰めは作れないけどハム、作れそう!滾るな……ふふ、ふ……」

 日本人は食に五月蠅いのだよ。


 という事で朝から燻製器作りだ。燻製の機器を作るのに時間がかかるかもだから先に肉に塩を揉んでおこう。

 僕はイノシシの肉を取り出し、せっせと塩を揉み込んでは少しだけ水分を抜く。確かその方が美味く仕上がるってコックさんが言ってた。アブソーブスキルをじわじわと発動し、表面は乾き、中には肉汁が残るように水分を残したらマジックボックスに仕舞う作業を繰り返した。

 ふふふ……ベーコン、ベーコン……ハム!……皮付きベーコンとか贅沢ッ

考えるだけで涎が垂れるね。じゅるり。

ある程度作れたら燻製の機械作りだ。


鉄の花を複数取り出して並べて暫し考える。

小さなドラム缶とかがあれば便利なんだけどそんなものないしね。


あっ……そういや僕って鍛冶スキルとかないのかな?鉄も沢山あるし色々鉄製品作れたら便利すぎる。よしイメージしてみよう。イメージ大事!

「……溶けろ~……溶けろ~……」


「……溶けろ……溶けて~……」


「……」


『主さまには鍛冶スキルは生えないですよ~』

「……」

『溶かすなら火魔法を使えばいいのです』

「……やっぱそうだよね ファイア!」


鉄の花に翳した掌からゴォォォォと凄い火力が鉄の花に断続的に浴びせかけられるとドロドロと鉄の花が溶け始め、真っ赤になっていく。そして……うん、これからどうしようって一つしか方法はないか。


「サンクチュアリ!」


「熱っづうううううう!」

『良きです~!ぐんぐん属性耐性が上がりますね!属性耐性が併合されているので特定の属性耐性が上がるだけでも他の属性も相乗的に上がるので素晴らしいのです~』

 パタパタと小さな翼で僕の周りを飛び回るライガは凄い笑顔を振りまいている。

控えめに言って天使か!


「あっづ……、う、うん、そだ……ね、っづううううう」

溶けた鉄を素手で成形して兎に角四角い箱を作らないと!

なんかこの作業だけで属性耐性UPの修行になるっぽい。辛いけど頑張ろう…




ガンバッタ。多分美味くできたんじゃないかな。

 かなり大きめの、人一人入れそうな鉄の箱ができあがった。あとは台形型に両端だけ折り曲げた台を最下部に置いて、棒状にした鉄を内部に溶接して……うん溶接にファイアボルトはダメだね、穴あいたわ。やりなおしだ。


レーザーポインターみたいなのにならないかな~……ファイア…細くほそーく……うんレーザーみたいにピンポイントに……おお、いい感じだ。


箱内部にに五本の棒が渡された。あとはS字フックを少し多めに…さっきの棒の余りを曲げて、曲げて……。なんか面白くなってきたな。

 調子にのって無数のフックを作っていたらお昼になっていた。

魚片はまだ家の中に鎮座しているので今日の昼も外だ。肉の焼ける匂いがしてきたので間もなくお昼の合図が飛ぶだろう。

「とりあえず、こんなもんでいいか」


 お昼までの成果。

大きな箱型燻製器一つ、無数のS字フック。

「あ、忘れてた!」

 僕は作業の手を休めて湖へと走る。湖面には毛皮が漂っていたが、昨日のようにうねってはいなかった。ロープを引いて毛皮を湖面から引き上げるとビックリするほど皮が柔らかくなっていた。干してもこのままだといいけど…。

「よいしょっ!」

 僕は毛皮を抱えエアウォークを発動し空中に足場を作りながら木と木の高い所に渡してあるロープに濡れた毛皮を干した。濡れて重量を増している毛皮もそんなに重く感じない。うん、力持ちになったな、僕。



僕とガッジーラはいつも一緒に食事を取る。

 最初はガッジーラは僕の食べる間、周囲に気を渡らせ獣が近づかないようにしていると言って一緒に食事を取ろうとしなかったが、毎日毎日毎回毎回食事に誘う僕に根負けして肩を上下に揺らし食事に応じた。それからはなし崩しに毎回一緒に食べてる。僕のレベルやスキルが上がるにつれ、最初の過保護はなんだったのかと疑問が生える位結構今はアバウト、野放しだ。まぁ周囲の様子はある程度は把握しているみたいだけれど。でも僕はそれが嬉しかった。

 なにせ僕の中身は良い敏した成人だから甘やかされると何かむず痒くて苦手だったから。それに食事は一緒に取りたい。前世一人暮らしで侘しい食事を取っていた僕。折角一緒に食事ができる人物がいるのなら一緒に取りたいじゃないか。

「今日は何をしておられた?随分と熱心に火の鍛錬の様子を見ていたが…あの奇妙な箱は」

「あれはね、燻製機を作っていたんだ」

「燻製?…」

 どうやら此方の世界には燻製という調理法はないのなかな?

「煙で燻して水分を蒸発させる調理法だよ。保存食を作るのに適しているんだ」

 僕がそう言うとガッジーラは眉に二つ皺を作り口をへの字型に曲げる。

「保存なら…主殿にはマジックボックスがあるではないか?」

 ああ、そうだね保存だけならね。僕は首を左右に小さく振る。

「保存かつ調味料になるんだ。うん調味料の意味あいのほうが強いかな。僕の生まれ故郷では必需品なんだ。まぁ上手くできるかわからないけど期待していてよ」

 なんとなく上手くいくような気がする。

 湖周辺の白樺っぽい木の皮も既に沢山入手してカラッカラに乾かしてあるし。乾燥にはアブソーブ様様だね。


 昼食後は鉄の箱に穴あけ作業。これもファイアをレーザーポインター化することで穴があく。同じ高さ左右手前、奥、真ん中と6か所に穴をあけ、鉄の棒を通す。すると鉄の箱に棚ができる。この棚を何段か作って…一番上は中央にに一つの穴だけあけてポール状にし、S字フックがかけられるようにして… もうちょっと換気孔あけとくか?換気孔数は作りながら調節しよう。


「上手くいくといいな~…」

 マジックボックスから塩漬け肉を取り出しS字フックにひっかけハンガーにかけて…そして魚片を棚にならべて一番下に薄べったい鉄の花を置きその上に白樺らしき木で作ったチップをいれて…パタンと扉がわりの鉄の板をはめ込んで封。

 そして鉄の箱を即席竈に置いて木片に点火。あとはじっくり待つだけ。


 ぼーっと火の番をしつつ時折木に干した皮をチェックして…なかなか干した皮から水が抜けるのに時間がかかりそうだ。流石に皮に水分抜きのアブソーブを使って失敗したら後悔しかない気がするので、ここは自然に任せていた。

 時折水分チェックをしているが今のところ凄く固くなるって事はなく、なんとなく上手くいきそうな予感がして自然と笑みが零れる。

 うまく柔らかい革ができたら贅沢にも革のフンドシ状パンツも作って、巻きスカートを作る…というよりは革を切るだけだが。針も糸もないし、あったとしても裁縫なんかやった事ないから土台無理だ。


 パンツはTの形に裁断するだけなので簡単だ。腰に巻くTの上部分の皮を長くしてと…ようやくフルチンとおさらばだ。11か月のフルチン生活よさらば!


 燻製場と皮干し場は結構距離をあけた。皮に燻製のにおいが移るのやだしね。


 暫くして燻製器のフタを開ける。煙がぶわりと勢いよく逃げ出し、僕は中を覗くとそこには縮んで少し褐色がかった魚片。つつくと指先に程よい反発が。表面はカラカラに乾いているようだ。匂いも燻製の良い匂いがする。

「おおっ?!成功か?お肉はどうだろ。見た目美味しそうだけど……」

 フックにかかった肉の塊を一つ取り出すと……凄くいい匂いです。このままかじりつきたい位の文明的な香りがします。

 懸念していたボロボロに崩れ去る事もなく、肉の形を保っている。

「んじゃ外に干して……とりあえず夕方まで陰干ししよう」

 僕は燻製器の近くの木々の低い枝にロープを渡し燻製肉付きS字フックを次々に

掛け、燻製魚片、かつおぶしもどきを草むらにどんと乗せた巨大な葉っぱ(いつもお皿代わりになってます)の上に並べ、空になった燻製機に次の肉と魚を入れてフタをした。うーん、朝からやれば4ターンはできそうだな。明日には完了しそう。

 S字フックのハムもどきは今日の夕食に出してみよう。美味しいといいな。

 自然ににやける顔をそのままに僕はせっせと燻製作りに励むのだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る