第11話 鉄の花は魅力が一杯

 アナライザーのライガのアドバイスに乗っかり、マップの×印を目指し南へと徒歩で歩いていく。途中、角大きすぎでしょな鹿のような生き物が複数突進してきた。

トラックイノシシより突然現れて突進してくる獣達を華麗に空中闊歩で避けて下を見下ろす。群れはイライラしながら空中の僕の下をぐるぐる回っていた。

「魔法打ってきたら厄介だなー…準備だけしとこ」

 暫くウロウロしていた鹿モドキはしばらくすると僕というエモノを諦めて去っていった。魔法を打ってこなかったので打撃中心なんだろうな。隠れて接近し、突如姿を現して突進からの角付き、と予想してみた。洞察力がこのところ絶賛昇り龍だ。

ガッジーラがスパルタだから……


 14㎞って言ってた距離をてくてくと歩いていく。この階のケモノは本当に柔らかめだったので助かる。ガッジーラはこの階は僕を安心して野放しできるみたいな事を言っていたので僕にも狩れるケモノしかいないのだろう。

…信じるよ、ガッジーラ?


「お?…あれか?」

 前方にいきなり生い茂る何かが見えてきた。茶褐色の地味な生い茂る何か。

 草原みたいなところからの~なので目立つ。

小走りに近づいて……

「うぉおおああああ!」

 もう2メートル程でその花に手を触れられる位置でいきなり僕の踏みしめている地面が割れた。しかもボコボコといくつも無数に!

 空いた穴から鋭利な刃がついた植物の根っこがウネウネと…。

「ギャウ!」

 あ、何かへんなモグラみたいな動物が串刺しになってる。とばっちりを受けたようだ。ごめんな、南無阿弥陀仏…とか言ってる場合じゃねえ。

 ウネウネはどんどん増えてって花弁を守る?食うため?に蠢いている。

先ほどのモグラもどきは既に骨だ。どうやって食ったの?あ、根っこの中央がぱっくり縦に割れて無数の細かな尖った歯がズラリと並んでる。骨すら飲み込んでバリバリ音を立ててる。

「おっかねえ…」

 どうやら間合いは2メートルちょい、それ以上は襲ってこれないらしい。

「どうやって近づくか…」

 ウネウネを眺めながら安全地帯で立ち尽くしながら考える。

 植物なら火魔法で…とも思ったが『鉄』とナマエがついてるだけに相当な温度でないと融解しないだろうし、融解したらどうやって持って帰るの、熱いの無理だよ、ってなる。ならば。僕はウネウネ達に向かって手のひらを翳す。

 余り使いたくないけど……


「アブソーブ、ウォーター(水分よ、吸収しろ)」


 ぞわぞわと魔力を含んだ水分が僕の手のひらに吸い寄せられる。でもこのままじゃお腹が破裂しそうなくらいの水分溜まっちゃうのでもう片方の手から水分だけを逃がす。魔力だけ漉しとって残りはポイ作戦だ。

 じつはコレ、凶悪なスキルである。両手が塞がるデメリットはあるけれど

タイマン相手だと恐らく負けはしないだろう。図体のデカいケモノなら今のように

余計なモノを『排出』しないといけないけれど、小さいケモノなら片手が開くだろう。なんてったって『体から体液(血)を抜く』ことが可能なんだから。水分だからね。

…一度デカいハダカねずみに使ったら干からびた。シワシワになってミイラになった。過程がエグかったのでよっぽどの時じゃないと使わないようにしよう、と心に決めたスキルだが、植物ならエグさも左程感じないだろう…実際今感じてないしね。

 ウネウネしていた根っこが干からびて…うん、よく燃えそうだ。薪としてとっていこう。お前さんの屍は大事に使わせていただくね。

 水分をもぎ取られた鉄の花は次々と花弁をゴトリと地面に落とす。

ゴトンゴトンゴトンゴトン…

 次々と枯れた鉄の花は 花の部分と薪材だけ残して地面に横たわっていく。

「重い…ほんと鉄だね」

 中が空洞で花弁が一枚一枚交互に合わさった集合体の花はまるで

鉄の鍋のようだ。ちょっと蓮の花みたいに花弁が下側に開いてて鍋としては洒落すぎている感が強いけど。これで水分漏れなければこのまま使えそう。

 重い花弁の鍋の中央に水を垂らすと漏れはなかった。うん、このまま鍋として使えそうだ。

「…でも 多すぎたかな…」

 見渡す限りの枯れ根と鉄の花は個体差があり、フライパンにも大鍋にも小鍋にも使えそうなくらい多種多様なサイズで便利そうだけど多すぎた。うん、数多すぎた。

 僕は勿体ない精神を発揮させ、次々とマジックボックスに収納していった。死ぬまで鍋やフライパンには困らない。うん。

 


 さて、所要時間は3時間といったところかな?脳内に響く声。ガッジーラの念話が届く。お昼ご飯の準備ができたとの事で急ぎ足でログハウスまで戻ってきた。

 めっちゃ塩焼き肉が皿変わりの巨大な葉っぱに積まれてる。肉と果実。以上。

 毎日献立一緒。味付けも一緒。うーん醤油が欲しい、味噌ほしい、っつか米ほしい。なんだかエンドレスでこの思考が常にぐるぐる回ってるなあ。せめてハーブが群生している階があればいいのに…て思ったけど、僕ハーブの知識なかったわ、詰んだ。


 ごはんを食べたあと干してあるトラックイノシシの皮を見に行き、ゆっくりと息を吐く。そして満面の笑みで顎を上に向け、空もどきを仰ぐ。

「うん…失敗」

 乾いた皮は直立させても折れ曲がらないくらい固く仕上がってました。はい。

 あ、不快な匂いはしないや。これは良き良き。


どうしたらいいんだろう、と悩んでも知識がないのでアナライザーに頼ってみよう。

「ライガ、この皮、柔らかくするの、どうしたらいい?」

『はいなのです~簡単なのですよ~この植物のナマ皮の液に一日浸せば…ああ、あの大きさの皮なら木と皮まるごと湖につけちゃえ~なのです!』

「豪快だなあ…わかった、この印ついた木だね?」

 僕はウィンドカッターで木を数本スパーンと切って湖にドボン。そして昨日のように皮を湖に浸しておいた。また明日魚が食いついているかもしれないな。


 さて、皮を放りこんだ所でマジックボックスから鍋を取り出す。大きなやつ、と願いながら取り出したら給食でも作るのかと思わせるくらい大きな鉄の花がゴトン。

 サイズがまちまちでも【鉄の花】とだけしかかかれず個数一緒くたに纏められていたのでどうかと思ったが、サイズを思い浮かべればニーズに応えた対応をしてくれるらしい事が分る。なにこのホスピタリティー凄い。

「木片」

 ドサドサと木片が散らばる。それをかき集めて山にして

「ファイアボルト(極小)」

 できるだけ小さい火を想像し点火。ボッ、と小さな音がして無事にたき火完成。

 そしてでっかい鉄の花をその上に乗っけて

「ウォーター」

「塩」

 魔法で水を精製しドボドボと鉄の花に注ぎ、岩塩を細かく砕きながら入れて湯を沸かす。たしか そこそこコックさんは沸騰させないように、って言ってたので火の調節が大事だな。

 三枚おろしにした大漁のよく分らないお魚さんの切り身をその中に入れて煮る。

鍋に入りきらないな、増やすか。

 とりあえず半分くらい…いや中途半端に残しても面倒くさいな。156身全部茹でちゃえ。ってことで調子に乗っていたら15個の鉄の花が僕の周りで湯気を立てている。しまったやりすぎた。沸騰させないように見張らなきゃいけないし木片も追加しなきゃいけないのに!確かコックさんは三時間茹でてたな。『三時間後に移動!』とか言ってたはず。でもまぁ時間よく図れないから夕方になる前位でいいだろう。お昼食べて少し休んでたからまぁその位のアバウトさ。


 そして必死に湯の番をする僕をガッジーラは不思議そうな目で見ていたよ。


 夕暮れ前、僕は葉っぱをログハウスの床に敷き詰め、柔らかくてグズグズになりそうな魚の身。実際グズグズになってしまったもの多数。半分くらいは煮崩れしてバラバラに。ザルとか敷いてたけど無いからなあ…。グズグズになったものはスープの具材にしよう。炒めてなんちゃってシーチキン?風でも使えるし。

 「この後はいぶすんだったよなー…とりあえず自然乾燥させといて燻製にするのは明日にしよう」

 どこかしらか出かけて帰ってきたガッジーラが床に並べられた茹でた魚を見遣り大きな大きなため息を吐いたのだが僕はドヤ顔で返す。

「ガンバッタ!」

「頑張りは承知。然し」

 また深いため息。

「夕餉は外で食さねばならぬな」

「あっ!」

 ま、まぁ、BBQみたいでいいじゃない?外で食べるの!いや毎日サバイバルだけどさ!気にしない気にしない……事にした。

 「外で干しとけば良かった……!」

 





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