第6話 そういえば…書いてありましたね
こんなに身体が固まる程緊張したのは後にも先にも…いや、先は分からないな。ここ異世界だし何があるか分かったものではない。兎に角緊張の糸をピンピンに張りながらこのとてもマズイ状況を打破しようと脳内で考える。
ふわふわもこもこのライガに脳内で会話を試みる。声に出したくなかったし、初めての試みだけれども上手くいくだろうか
”ライガ、この状況の上手い解決案を検索できるか?”
”…ごしゅじん、《鑑定》で検索をかけましたが《問題なし》との事ですよ~”
問題なしだって?いや目の前に薄っすら鼻息だか口からの息だか分からないけれど煙みたいな靄を吐き出してるドラゴンがいるんですけど?!カパッと口開いたら
ドラゴンブレスとか吐きそうなんですけど?!
煌々と光る赤い眼差しは僕に完全にロックオン状態で、目を反らす事もできず、ただぎゅっ、とアナライザーのライガを前抱きにして腹にあたるもふもふの尻尾の感触だけを唯一の癒し…気を紛らわせる手段として冷静を保っている…ように見せていた。もう何分睨み合いを続けていただろうか。場を振動させる”声”が洞窟内に響いた。
『…外に、でたいか?』
ドラゴン…ってもう断定していいよね?はブレスの代わりに予想外の台詞を吐いてきた。ずしん、と地面が揺れる。ドラゴンの尾の先がビタンビタン、と地を叩いていて、その都度地面が揺れている。どんなチカラだよ…。
コクリ、コクリ、と何度も頷くとドラゴンの頭が少し右に傾き、またも僕を凝視に入る。また気まずい時間が流れはじめた。
『ふむ…頃合い、承知』
「頃合いって何?!」
思わず声色をひっくり返しながらつぶやきが漏れると、ドラゴンが煙吐きながらズラリと並んだ鋭い歯を見せながら口を開く。正直おっかないけれど相手を興奮させるのは愚策と考え僕は只管冷静を装い続けた。
突然衝撃破が僕を襲い、吹き飛ばされそうになるがなんとか足にチカラを籠めて堪えるとドラゴンの姿が煙に巻かれるように消え、文字通り狭い範囲に煙が充満した。
特に煙の臭いもない。衝撃破から生じた風が徐々に煙を吹き飛ばすと
「へっ?!」
ドラゴンのいた場所に獣人?が起立していた。
色ははっきりとは見えないけど緑のゴツゴツした鱗で覆われた固そうな皮膚に長い尾、そして手足に鋭い爪、そして鰐のような顔、鹿のような鋭利な角を頭上に二本立派にはやしている。
瞳は爬虫類的な瞳孔の細い赤目、全長は2メートル、という所か。随分コンパクトになっている。
「うえで鍛錬できるだけの力を備えていると理解した。案内しよう」
くるりと身体を翻し、出口へと向かおうとする後ろ姿に思わず僕は声をかける。
「え、えっと!いろいろ聞きたい事が…!貴方様はドラゴンですよね?!」
僕の言葉に目の前の変身したドラゴンはまるで軍隊の隊長のように足先を僕の方へ向けて振り返る。
「主よ、我はドラゴン様のような高位な存在では御座らん。主のあない役に過ぎぬ故、敬称不要で宜しいか」
「えっと、じゃあ…あなたはドラゴンじゃないってことで…で、何故僕を”主”と呼ぶのです…いや呼ぶの?」
目の前の自称ドラゴンじゃない獣人は不思議そうに首を傾げ目を細める。
「我は主が生まれた時より主を見守る使命を受けたもの。主は我の主様よ」
さっぱり意味が分からない。目の前の、意識が芽生えてから常に恐怖の対象だったドラゴンの姿を見せていた獣人は僕の事を主として守護していたという。
これは転生特典なんだろうか?か弱い時に僕が死なないように守りの守護を…あっ?
「ステータス」
ヴン、と目の前にタブレットもどきが現れる。
《ステータス》
名称:なし 種族:不明 年齢:7か月
レベル:34 体力410 魔力∞
職業:なし
スキル
鑑定Lv3 空間魔法Lv10(マジックボックス)∞威圧Lv10 力強化Lv4 転移Lv1
火魔法Lv1 水魔法Lv1 風魔法Lv1 土魔法Lv1 雷魔法Lv1 聖魔法Lv10 暗黒魔法Lv10
使役魔法Lv10(ドラゴニュート)言語翻訳Lv10 暗視Lv1
アナライズLv2(魔獣ライガ)
加護
創世神の加護 古龍の加護
指刺しながらステータスを確認して、文字をなぞる指が止まる。
使役魔法Lv10(ドラゴニュート)
これは…と思う。さらっと読み飛ばしていたけれど、そういや(ドラゴニュート)って何?そういや意識が芽生えてからずっと書いてあったような気がする。使役魔法というのだから、僕が使役する魔物、って事かな?…となると眼前のドラゴンみたいな人が”主”と呼んだのも納得がいくか。
「貴方は、ドラゴニュート?僕を守護する…」
「左様」
眼前のドラゴニュートは目を細め、鰐のような口の端を僅かにあげて微笑?んだ。
「えっと、あ、ありがとうございます?今まで守護してくれて…えっと、んー。貴方の名前…僕はなんて呼べばいい?」
「我に主から呼ばれる名は無い故、…ドラゴニュートの一族からは長(おさ)と呼ばれてはおりまするが」
「ドラゴニュートって種族?リザードマン(蜥蜴人)と何か関係ある?」
ドラゴニュートの長はゆっくりと左右に顔を振る。
「ドラゴニュートは確かに種族である。リザードマンから稀に進化する種族也。我はこのダンジョンで主を守護する為罷り越した、さぁ主よ、案内(あない)致す」
「名が無いなら…呼びやすい名前をつけていい?」
もふもふでは無いが僕を守ってくれた大切な人と僕は認識し、気安く呼びたいが為自称ドラゴニュートという人に告げる」
「…」
彼?彼女?は無言であるが驚いたのか瞳孔が先程の2倍増しに大きくなっている。僕は無言を肯定と捉え、腕を組んで少し悩んだあとドラゴニュートに告げた。
「ガッジーラ、って呼んでいい?」
ベタな名前しか思い浮かばなかった。もう姿があの怪獣そっくりだし、もう思いついたのがこの名前しかなかった。苦情はお断りだ。
刹那眼前の”ガッジーラ”の身体が薄い青色の光に包まれる。
「おっ…おお…チカラが漲る…」
姿カタチは変わらないが、唯一彼の瞳の色が赤銅色から澄んだ青色に変化した。
ポン、と小気味よい機械音が脳内に響き、続けてライガの声が響く。
【ステータスアップデートだよ~あるじさま~報告するね~”鑑定”もアナライザーに統合したからこれから宜しくなのです~】
《ステータス》
名称:なし 種族:不明 年齢:7か月
レベル:34 体力410 魔力∞
職業:なし
スキル
空間魔法Lv10(マジックボックス)∞威圧Lv10 力強化Lv4 転移Lv1
火魔法Lv1 水魔法Lv1 風魔法Lv1 土魔法Lv1 雷魔法Lv1 聖魔法Lv10 暗黒魔法Lv10
使役魔法Lv10(ドラゴニュート:ガッジーラ)言語翻訳Lv10 暗視Lv1
アナライズLv3/鑑定Lv3(魔獣ライガ)
加護
創世神の加護 古龍の加護
使役獣リスト
【ガッジーラ】
名称:ガッジーラ 種族:真ドラゴニュート 年齢:421歳
レベル:286 体力34600 魔力280
職業:盾騎士/名前なしの守護獣
スキル
盾修練Lv10 シールドバッシュLv10 シールドブーメランLv6 威圧Lv5 力強化Lv10 体力強化Lv10ディボーションLv3 転移Lv10
僕のステータスにタブができてて、”使役獣リスト”タブを開くとガッジーラのステータスが表示された。
使役魔法の項に名前が記載された。使役魔、使役獣は種族名の後ろに僕のつけた名前がつくようだ。それと…
僕っていつまで”名無し”なんだろう。
僕にはこの世界での名前の記憶は無い。だから自分で決めるのだろうけれど…
ステータスの名前の項に指が触れると、設定がでてくる。
前世では”竹内雅”という名前があるけれど、ここは異世界。できるだけ諍いは避けたい。あまりにもタケチミヤビがぶっとんだ名前だったとしたら目立つ。悪目立ちする。名前は…この世界の”人類”の名前を知ってからにしよう、と僕は暫く”名無し”で暮らす事にした。幸い?なのかアナライザーもガッジーラも主呼びだし、何も問題はないだろう。
「さぁ参ろうか。このダンジョンは150階層で構成されておる故、ここが最下層150階、ここから階層を攻略していけばいずれ地上に出られよう」
「ひゃ、150?!」
普通30とかそれくらいじゃないの?深すぎない?というか最下層って…?!普通最下層に近づくにつれて敵が強くなるって 異世界転生小説のじっちゃんが言ってた…!
「さぁ149階へいざ」
「ひぃ…ぃ」
僕は恐怖で背中を震わせながらガッジーラの潜った出口から続く真っ暗な階段を一歩一歩上っていく事になった。正直不安しかない。
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