第2話 洞窟を探検してみよう

 暫く「使役スキル」の存在にハァハァし、漸く落ち着きを取り戻した僕は今居る場所の探検を再開する事にした。先程食べた果物はまだ残ってはいるが、あと数回食事をしたら枯渇してしまう。その前に食べ物を探さなくては飢えてしまう。

 スキップするような足取りで洞窟をうろつく事どれくらいか。時間経過が分からないので相当な時間を費やした、と思っておこう。

 やはりこの巨大な空洞には一つしか出入口が無い。そして目下大変な事態に僕は戦慄を覚える。

「いや…無理ゲー…」

 唯一の出口に何か巨大な物体がある。いや生命体がいる。いやコレ、無理ゲーでしょ?どうみても

「…ドラゴンじゃん…」

 入口を見守るかのように横臥する1匹のドラゴン様がいらしゃる。身体は真っ黒で、瞳の色は閉じているので分かりかねるが兎に角巨大。骨になった恐竜程大きくはない。骨の1/10、つまりT-REX(ティラノザウルス)位の大きさのゴジ〇っぽい背中にギザギザの鰓?を持つ生命体。尾はとても長く、羽根は無い。ああ、これ

絶対放射能光線とか撒き散らしそう…。

 足音を殺して後ろ歩きで遠ざかり、ギリギリドラゴンが見える範囲まで距離を取ると僕は漸く長い息を吐いた。

「唯一の出口はドラゴンが塞いでる。ほかに出口探さないと…」

 僕は溜息を吐きつつ広い空間を歩き回った。

歩き回った。

滅茶苦茶歩いた。

もう実の籠は空っぽだ。

歩き回った。

泳いだ。

魚のようなイキモノが取れた。

泳ぎまくったら巨大な青い目と視線があった。

慌てて泳いで逃げようとしたら向こうから遠ざかっていった。

兎に角助かった。


 ザバ、っと泳いで数匹の魚らしきイキモノは捕獲できたが水濡れて寒い。滅茶苦茶寒い。それもそうだな、だって僕ハダカだし。

 意識を取り戻してから自分の姿を見たがハダカ。スッポンポン。何も身に着けていないどころか、なにやら粘液でベタベタだ。

 もしかしてあのドラゴンに食べられそうになってたとか?唾液とか?これ。

粘液が身体にまとわりついてて可也匂いがひどいので湖に入ったが、巨大な生物と出くわし驚いて逃げた。こんな小さいナリでも泳ぐことは可能なようだ、というか

泳げるか分からないのに僕よく水の中に入ったな?迂闊にも程があるだろう。

「僕が見た異世界転生小説だと、だいたい服位は身に着けていたよ…ハダカとか赤ちゃんに転生したみたいなシチュエーションじゃなきゃ無かったよ。だいたい身につけているものを最初に売ってお金にして、こっちの世界の服に変更して…ックション」

 服どころか金も食料もない。転生直後からハードモードを感じさせるが、愚痴を言ってても仕方がない。風邪をひく前になんとか身体を温めないと。分からなければ鑑定を…と思ったら目の前に文字列が現れた。

【鑑定スキルから派生確認。スキル:アナライズを生成しますか?YES/NO】

 なにやらスキルが増えたらしい。なぜ増えたのかは謎だけれど、洞窟内の至る所を鑑定してたからだろうか?とにかく持っててよさそうなのでYES、の文字に指先を触れさせると眩しい黄色の光に包まれた。

 そして現れる大量の「設定」


 アナライズ設定

アナライズ名:なし 

アナライズ種別:選択肢➡人類/エルフ/ドワーフ/獣人/妖精/獣・魔獣(ランダム)

アナライズ性別:男性/女性/中性/性別無し

アナライズ年齢:幼児/少年・少女/青年期/成人期/中年期/壮年期

アナライズ項目:すべて/選択➡選択チェック項目

アナライズ性格:幼女系・やんちゃ系・寡黙・精悍・知的系・執事系・花魁系・オネェ系・ランダム

アナライズの実体化:許可/不許可(スキルボードのみ)

※アナライズの姿・音声はスキル行使者以外には認識不可能、アナライズの再設定は不可※


「うわぁ…色々設定できるってなんて素晴らしい…」

 スッ、と指先は アナライズ種別「獣・魔獣」の文字列を押していた。そして実体化にすかさず許可を押す。

 アナライズって要するにお助け情報屋だよな。ずっと連れて歩きたい。残念なのはほかの人に見えないらしい事かな。

 性格は…濃い。選択がマニアックすぎる。創世の神様の趣味ですか?

時間を忘れて熟考を重ねる。一度設定したらやり直しがきかないみたいだから念入りにね。そうして漸く設定を完了する。


 アナライズ設定

アナライズ名:ライガ 

アナライズ種別:獣・魔獣(ランダム)

アナライズ性別:女性

アナライズ年齢:少年・少女

アナライズ項目:すべて

アナライズ性格:ランダム

アナライズの実体化:許可


 性格は悩んだ挙句、決めきれず、ランダムに任せる事にした。それも楽しみじゃないか。どんな獣が現れるのかな。名前は子供のころ飼っていた愛犬の名前にした。

そしてOKを押す…と 自分の目の前の地面が淡い青色の光を放ち、魔法陣が浮かび上がる。そして魔法陣の中央に光が集まり、弾けた。


『こんにちは。ライガです。ご主人、ボクを作って下さってありがとうなのです』


ボクっ娘があらわれた。


 姿は…これは魔獣、なのだろうか。白いもふもふの長い毛並み、背中に鳥の羽が生え、尾はキツネのようにふっさふさだけれど3本生えている。そして顔は猫の顔だちだが瞳孔は丸くて夜半のネコ科のよう。額に1本の角が生えている。大きさは小さめでトコトコ、と僕の方に近寄ってきて自分の顎下を僕の太腿に幾度か擦り付けた。


「んんんんっ・・・・!!!!最高傑作!!」

 滅茶苦茶可愛い。もふもふ具合がたまらない。これならもっと巨大な姿を選ぶべきだったか!この身体に埋もれて寝たい!ッション!

『ご主人、寒いのですか?』

「うん、寒い…火魔法ってどうやって使うのかなあ」

『火魔法:発動方法を出します』

 ブオン、と再び出てくるノートパソコンのモニターのようなもの。そこには魔法の発動方法がレクチャーされている。

「えっと…こう、イメージして…」

 指先にろうそくのような小さな炎が灯るようにイメージを固めるとポン、と指先に火が現れて灯り、そして集中力を切らすと消えた。

「火種、作らなくてもいいのは便利だね。あとは燃やすものが何かあれば…」

 ふわふわ、と小さな猫のようなライガが飛びながら首をかしげて疑問に答えてくれる。

『ごしゅじん、マジックボックスの中に木片が入っていますよ。∞(無限)に。マジックボックスと頭の中に唱えると、入っているもののリストがでますので同じく取り出したいものを脳内で唱えてくださいなのです。収納する場合は収納したいものに触れながら脳内でまた唱えるのですよ~』


「…(マジックボックス)うわ、沢山入ってる!」

 脳内でマジックボックスと唱えると何やら沢山リスト化されている。

金貨100枚、銀貨100枚、銅貨100枚、鉄貨100枚、木片∞、水∞、布1枚


「って、食料も装備も衣類も無いのかー‥‥」

 残念ながら期待した服もなく、布切れ一枚。大きなバスタオルくらいのもの。仕方がないから布で身体を拭いたあと、壁に近寄り、ヒカリゴケの周りの石壁を縦横無尽に這っている細いツタのようなものを引きちぎる。できるだけ何本も引きちぎったあと、マジックボックスから木片を取り出し、火魔法で焚火をおこした。

「あったかいや…っと、このまわりに魚を、魚をっと…」

 出した木片に魚を串刺しにして焚火の周りの土にぶっさしてから僕はこの柔らかいツタをより、ロープを作ろうと只管三つ編みを繰り返す。

 良かった、介護スキルが役立って…。三つ編みのツタを長く長く加工し、そして出来たものをさらに纏めて捩じるとなんとかロープみたいなものができた。

ツタ自体がとても柔らかくて幸いだった。

 焼けていい匂いがする魚を頬張るが、塩味もない魚は美味しいが腹を満たすだけの代物だった。それでも生きていく上には文句は言っていられない。

 すべてを平らげて木片を焚火に追加したあと、僕は焚火のまわりでうとうとと眠りの神の誘いに乗る事にした。布を掛け布団かわりにして僕はゆっくりと瞳を閉じた。

 もふもふの尻尾が顔にあたる幸せを噛みしめながら。

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