異世界でもふもふしようと思ったら問屋が卸してくれませんでした

百合庵

第1話 プロローグ 意識覚醒したら何もない空洞でした

 様々な音が響いている。水音や何かが床を這いずる音、争う音。危険信号が灯りっぱなしで休む暇のない空間の一つ、乾いた土の床に僕は胡坐をかいてただただ茫然と座っている。

「…異世界転生、ってヤツ、だよね」

 目前には幼い頃よく連れて行ってもらった恐竜博覧会のメイン展示の栄光に輝いていただろう肉食恐竜の化石を十倍位大きくしたような骨が転がっている。

 頭蓋骨に残されたギザギザの歯1本ですら僕の背丈位ある。おそろしく、デカい。

よろよろと立ち上がる。産まれて初めて立ち上がった赤子のようにうまく足が動かず、何度も土へと体を打ち付けてしまうが不思議と全く痛みを感じない。

 僕は顎を上向けてあたりの様子を探る。


 天井は暗くてどこまであるのか見えない。ただ、彼方に一筋の灯りが見える。それは天井から空いた穴なのだろか。天井と地までに相当な高さがあるのがなんとなく理解できる。眉根に皺を作り、瞼を細めていると目が慣れてきたのか僅かな光源であたりの様子がぼんやりからはっきりと脳内に絵を描いていくのが分かった。

 石壁にはびっしりと薄い蒼い光を放つ光源。苔だろうか。ヒカリゴケ、という植物を聞いた事があるが、実際に見たことはないので分からない。ただ植物が辺りを照らしている。暫く辺りを眺め、目に入った情報を整理していく。

「かなり、広いけど…出入口は一つ…かな。水もあるし…あれ?」

 自分の座る位置から左程離れていない場所に何か籠のようなものがある。余り足が丈夫ではないので這いずって近づくと草で編まれた粗末な籠のようなもの。その中に見覚えのあるカタチや見たことの無いカタチをした果物のようなモノが置かれてある。現金なもので、ふんわりと漂う甘い香りに腹がぐぎゅう、と音を立てて食べろと命令してくる。

「…お腹減った…でも食べて大丈夫なの?…」

【要請により確認します】

 脳内にいきなり機械音が響き、僕は驚いて仰け反りすぎて背中を強かに土にぶつけた。そして目の前に半透明なボードが浮かぶ

【アボリの実:食用可:ほんのりとした甘みを持つ実の集合体。経験値+10:RR】

【サーボの実:食用可:甘味と僅かに塩味のある水分を蓄えた実。経験値+10:RR】

【クラッハの実:食用可:小さな赤い実。少し渋いが体力を全快させる。経験値+100:RRR】

「これって…鑑定って奴かな?異世界転生にありがちの」

 どうやら僕が疑問に思ったり判断に困ると自動で鑑定スキルが行使されるようだ。あとで色々と試してみよう。

 食用、との事なので遠慮なく果物を食い漁ると身体にチカラが漲るのが分かる。それに何か自分の身体の先端部が薄い白色に光っている。

「う、わっ!」

 再び腰をあげて立ち上がると今度はすんなりと立ち上がる事ができた。足を恐る恐る運ぶと普通に歩け…いやこれ普通じゃない。

「…重力、薄いのかな?浮かぶ」

 普通に歩くつもりなのに滞空時間がやたら長く、走り幅跳びの助走の時のようにやたらと歩が大きい。身が軽く、それでは、と色々と洞窟内を歩き回る事にした。

 まずは湖。湖底湖だろうか。滅茶苦茶デカい湖が横たわっている。端が見えない。まずは湖の周りを探検してみよう。

「…って、え、僕の年齢低っ!」

 湖面に映る自分の姿に僕は驚く。まぁ手足は見えていたから年若い姿になってしまったとは薄々感じていたが、湖面に映る自分は歩きはじめて間もない一歳児くらいの姿だった。しかもやたら耳が長い。

「耳、長ッ…もしかしてエルフ?エルフなの僕?!流石にこのナリじゃ、上手く歩けない筈だ」

 それでもあの不思議な実を食べてから歩く事が容易になったな、と考える。

「異世界転生だとありがちな、ステータス、とかあるのかなぁ…」

 ぶおん、と目の前に再びボードが現れた。

「あるんだ!?ステータス」


名称:なし  種族:不明

レベル:22 体力50 魔力∞

職業:なし 

スキル

鑑定Lv1 空間魔法(マジックボックス)∞威圧Lv10 力強化Lv1 転移Lv1

火魔法Lv1 水魔法Lv1 風魔法Lv1 土魔法Lv1 聖魔法Lv10 暗黒魔法Lv10

使役魔法Lv10(ドラゴニュート)言語翻訳Lv10

加護

創世神の加護  


「な…、色々チートすぎやしません?モリモリすぎません?って、使役?!」

こ、これは…!使役スキル?!これは、もふもふを使役したりするあの、テイマー的なアレ??!


【要請により回答します。使役スキルは使役動物(魔物)が増加する度に練度があがりますが、マスターはMAXの為、すべての動物に対し、契約要請可能。テイマースキルの上位互換です】


「ひ…」

「ひゃっほぅ!!!もふもふライフ、始まっちゃう?!神様ありがとう、いや本当に感謝しています!!!」

 僕は思わず地面に五体投地し、自分を転生させた神に祈りを捧げた。


 そうなんだよ、僕はもふもふが大好きなんだ!!!



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