014
「んんうぅぅぅぅぅう……はぁぁぁ……ぁ……ぁぁぁぁ、京坂……京坂……京坂ぁ、もう好き、好き好き、大好き……」
小野司の自宅兼三人の共同作業場でもあるマンションのリビングにて、烏丸千景はクッションを抱きかかえながら悶えるように脚をバタバタさせていた。
撥水加工のカウチソファーが、千景の両脚に蹴られまくって、ギッシギッシと悲鳴を上げている。
「あれは何?」
「なにって、ここ最近ずっとあんな感じじゃね?」
「どう見ても悪化してる。軽い重症」
「おーい千景。気持ちはわかるけどさ、ちょっとは餅つきなよ」
「これが落ち着いていられる? 京坂、あぁーんもう! もう!」
クッションに顔を押し付けたまま千景が叫ぶ。
かと思えば、むくりと起き上がって頬を上気させたまま、遠い目を作って天井を見上げている。
「まーた、トリップタイムに突入してんじゃん」
「あれは妄想の京坂くんとキスをしてる顔。この前は二十秒くらいしてた」
「京坂はさ……かわいくて、カッコよくて、優しくて……あとなんかいい匂いがした。ふふっ、柔軟剤の香りかな」
「いやあれ、ハグッたときのニオイを思い出してるんじゃね?」
「重い重症。現実と妄想の区別がついてない」
司と桜子はやれやれといった様子で、首を振った。
「ねぇ。司、桜子……。私、もうガマンの限界かも」
「どしたよ?」
「どしたの」
「京坂をさ、私のモノにしたいんだよね」
どこかうっとりとした様子で、千景が言う。
この三人の中で、一番恋愛ごとに興味がないのが千景だったはずなのだが、どうやら、京坂京への恋心は相当なモノらしい。
かくゆう司と桜子も、先日の一件があってからは、千景同様、京に並々ならぬ関心を寄せている。
「アタシだってそーしたいけどさ、今んとこキッカケゼロじゃね?」
「バイトバイト……バイト……。なんなのそれ。どうして、もっと青春を楽しもうとしないのかな? 少しくらいは遊びたい年頃でしょ!」
クッションを放り投げながら、千景が駄々をこねる。
「おけいはんは妹ちゃんラブなワケだし、しゃーなし案件じゃね?」
「だから指をくわえて見てろって? ……らしくないね、司。てっきり私は、司も京坂のことが気になってるのかと思ってたけど、そうじゃなかったんだ?」
「グイグイいくだけが恋愛じゃないと思うワケよ、アタシは。おけいはんを困らせることになったら、それこそ元も子もないじゃん?」
「それはそうだけどさ……私は一歩でもいいから距離を縮めたい。京坂のことをもっと知りたい。私の知らない京坂を……」
「打開策が、ないこともない」
デスクの上で両手を組んだ桜子が、ゲンドウポーズで言う。
「マママ?」
「桜子、それ本当?」
「嘘はついてない。これまでの京坂くんの行動パターンを分析して、わたしなりに一つの結論を導き出してみた」
「ワッツ?」
「それが本当だとしたら、世紀の大発見だけど……。聞かせてくれる桜子?」
「わかった」
桜子は小さく頷くと、淡々とした調子で説明を始める。
「ずばり、京坂くんはバイト命。その背景には家族を支えるためにお金を稼ぐという使命感がある。なら、働いてお金を稼ぐという構図そのものをすり替えればいい」
「ンにゃ? どゆこと?」
「んー……難しいよね。もっとこうさ、簡単に説明して欲しいかな」
頭の上に疑問符を浮かべている千景と司に目配せしながら、桜子は続ける。
「ようは京坂くんをわたし達のサークルに勧誘すればいい。働きに応じてお給金を支払えば自然に接し続けられる環境の出来上がり」
桜子の説明を聞いた二人は、弾かれたようにソファーから立ち上がる。
「うん……うんうん! さすがは私の桜子だ。天才だよ、このひらめきは」
「千景のものになった覚えはない」
「いいじゃんいいじゃん! ユーバーのバイトなんか目じゃないぐらいの好待遇で迎えてあげてさ、おけいはんとウィンウィンのカンケー作ろーじゃん!」
「喜ぶのはまだ早い」
興奮する二人に向かって、桜子が釘を刺す。
そのままメガネのブリッジを中指で押し上げながら、
「わたしたちが創作してる作品の中にはアダルト向けの物だってある。全年齢版にしたって厳しい目で見られがちな同人の世界。京坂くんがわたしたちのジャンルに理解が無ければ、敬遠される可能性も十分考えられる。そのへんの摺り合わせは、念入りにやらないとダメ」
真剣な口調で言う桜子に、司と千景も表情を引き締めた。
「だよね、やるよ私、どんな手を使ってでも」
「おやおや千景の魔性が火を噴くのかにゃ?」
「なんでもいいから。さっさと作戦会議する」
どうやら決意は固まったようだ。
京へのアプローチを次の段階へと進めるべく、校内三大美女と呼ばれる三人は、それぞれの想いを胸に行動を開始するのだった。
あとがき
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ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます。
感謝いたします。
書籍版の告知はここまでになりますので、もし興味がわいた、という方がいらっしゃれば是非一度本作品を手に取っていただければ幸いです。
下記は本書のページの告知となります。
https://kakuyomu.jp/publication/entry/2024062002
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