最終話 京坂京

「ケイが心配。大丈夫かな?」


「京君なら大丈夫」


「千景は過保護すぎ。同窓会なんて数時間でお開きになるんだし、おけいはんなら何かあっても自分で対処できるっしょ」


 千景と桜子と司は、小野家のリビングのソファーでそんな会話をしていた。


「私が心配してるのは同窓会そのものじゃなくて……ほら、ケイって女の子を勘違いさせる体質っていうか」


 千景がそう言うと、桜子と司はお互い顔を見合わせた後、くすっと笑う。

 千景はそれが気に入らないらしく、むっとした顔をする。


「……むしろ司と桜子が余裕かまし過ぎ。絶対女の子に言い寄られて帰ってくるパターンでしょ」


「否定はしない。だけどわたし達はすでにお義父さんに挨拶を済ませてる。ちょっとやそっとの女の子なんて敵じゃない」


「私もそう思うかな。まあでも、誰を選ぶにしてもおけいはんの人生はおけいはんのものなんだから、私達が口出すことでもないんじゃない?」


 千景がため息をつく。

 どうやら、二人に言いくるめられてしまったようだ。

 その時、玄関で鍵が開く音がした。

 三人は顔を見合わせて、立ち上がる。


 ほどなくして京がリビングに入ってくる。


「ただいま。みんなの顔が見たくなって、二次会は参加しなかった」


 そして、 三人は勢いよく京に抱きついた。

 彼は三人の体重を支えきれず、床に倒れ込む。


 三人が笑った。

 彼もつられて笑う。

 とても幸せそうに笑っていた。


 ◇


 

 翌日、僕は昼過ぎに目を覚ました。

 昨夜は激しかった……特に千景が。

 少し痛みの残る腰をさする。

 僕は今、三人が寝ているベッドに横になっている。


 左隣で寝ているのは、さくらとつーちゃんだ。

 そして、僕の胸に顔を埋めるようにして、千景が眠っている。


 ずっとみんなと一緒にいたい。

 最近その想いが段々強くなって、なんとかしないなといけないな、と考えることが増えている。


 勉強しよう。

 今まで以上に、だ。


 そうすれば、ずっと一緒にいられる。

 みんなと一緒にいる時間をたくさん作れる。


 今はまだ助けられてばかりだけど、いずれ僕がみんなを支えることができるように。


 ◇



 高校を卒業して十年が経った。

 僕は東京での大学生活を終え、起業し、ウェブトゥーンを基盤としたプラットフォーム開発会社を設立した。

 今ではいくつかの企業やメディアと提携し、多くのユーザーを囲っている。

 当初はプログラミングについて勉強してたんだけど、十代で第一線で活躍している同期からは遅れを取ってしまった。その時点でエンジニアとしての道を諦め、経営学を学ぶことにした。幸い、大学からの評価も高く、大企業でのインターンシップの経験もあって、起業した際は割とすんなりと話が進んだ。


 三人にこの話をすると、みんな驚いていた。

 特につーちゃんは目を白黒させていたっけ。

 四人で暮らすために買った7LDKのマンションの一室で、僕はノートパソコンに向かって作業していた。


 日本じゃないけどね。

 三人と結婚するため、つまりは一夫多妻の国に移住したのだ。

 ドバイの物価は高いけど、僕も社長になって、三人も相も変わらず現役バリバリの同人作家なので、そこまで生活に苦労しているわけでもない。


 そう、つまり……僕は、千景とさくらとつーちゃんと結婚した。


 困難だったのは両家顔合わせ。

 親後さんからすれば、三人も妻を娶ろうとしている男なんて許せないだろう。

 実際そうだったし、何度も何度も挨拶に行った。

 僕は三人の親に認めてもらえるように努めた。


 今では、なんていうか、むしろかなり気にいられていると思う。

 特に千景の両親からはしょっちゅう連絡が来て、次はいつ来るのか、とか。よく聞かれる。


 さくらの両親は、さくらと同じく理性的だった。

 計画性の部分を聞かれ、説得するのには骨が折れたけど、最終的には理解してくれた。


 つーちゃんちは母子家庭だったことも関係していて、寛容だった。

 娘の気持ちが一番だって、そう言ってくれた。

 うちの父さんとつーちゃんママ、つまりはお義母さんが仲良くなったのは何かの縁なのか、もしかしたら……なんて思ってしまう。


 その時は僕も父さんと一緒に母さんのお墓の前で、父さんの第二の人生を認めてくれると嬉しい、とお願いすると思う。


 母さんならきっと理解してくれる。


 あかりもちゃんと大学を卒業し、今では僕の会社の日本支部で働いている。


 それと心愛のことなんだけど、僕の秘書として働いてもらうことにした。

 心愛はコミュ力が高いし、社内の雰囲気も明るくしてくれる。とてもありがたい存在だ。


 ……まあ色々あって、もうじき心愛とも結婚するんだけど。

 ドバイでは最大四人まで妻を娶ることができるので、問題はない。


 問題はないけど、心愛の親御さんはどう思うだろうか。

 その辺はちゃんと話をしないといけない。


「ケイ、そろそろ時間だよ」


 ノートパソコンと向き合っていると、千景が僕の部屋に入ってきた。


 僕は時計を見る。

 確かにいい時間だ。


 ノートパソコンを閉じ、立ち上がった。


「荷物はこれね」


「ありがと」


 つーちゃんがキャリーバッグを持ってきてくれる。


「京君。気を付けてね」


 さくらが心配そうな顔で見つめてくる。

 彼女の左手の薬指には、僕とお揃いの結婚指輪がはめられている。


 僕は三人と順番にキスをする。

 行ってきますのキスだ。


「行ってきます」


 僕はキャリーバッグを手に持ち、部屋を出る。

 今日から僕は日本へ出張だ。


 日本で、新しいプラットフォーム開発の打ち合わせがある。

 空港まで見送ると言ってくれた三人に、僕は断りを入れた。


 一緒にいたらみんなと離れ難くなると思うし。

 


 もう一度だけ振り返る。


 大人になっても、僕の妻達はやっぱり綺麗で可愛かった。

 僕がここまで来られたのは、間違いなくみんなのおかげだ。


 本当に感謝している。

 自分の力で家族を守れる、強い男にならないといけないな、と思う。


 校内三大美女のヒモをしていた京坂京は、今では三人の妻を持つ社長である。


 ◇


「社長、どうされたんですか?」


 打ち合わせが終わり、カフェでコーヒーを飲みながらぼんやりしていると、秘書である心愛が声をかけてきた。

 彼女は僕の隣に座ると、少し照れながら尋ねる。


「ああ、いや……心愛の両親にも挨拶に行かなきゃな、とか考えてて」


 心愛は僕の顔を見て、頬を赤らめる。


「あたしは京坂ちゃんと一緒にいられればそれでいいよ♡」


「そういうわけにもいかない」


 僕は即答する。

 心愛はむっとした顔をする。

 大人になっても、彼女はどこか子供っぽさが抜けないところがある。


 ホテルに着いた僕たちは、部屋まで移動する。

 すると、心愛が僕の胸に飛び込んでくる。


 しばらくそうしていると、ベッド脇に置いていたノートパソコンが光を放ち始めた。

 ん?

  

 あれ、リモート操作になってる。

 どこかから遠隔操作されてビデオ通話が繋がる。


『ああああ、やっぱりこうなってた』


『おけいはん、心愛とは別室にするよう言ったでしょ』


『京君のパソコンをリモート操作できるようにしてる。わたし達の目があることを忘れないでね』


 ノートパソコンの画面に映る千景とつーちゃんとさくらが、僕を睨む。

 その後ろで、心愛がぐぬぬと悔しそうな顔をしていた。


「ちょっとアンタらプライバシーの侵害なんですけど」


『心愛さあ、あんたどうせ子作りしよっておけいはんに迫るつもりでしょ」


 つーちゃんの言葉に、心愛はうっと言葉を詰まらせる。

 どうやら図星らしい。

 すると、心愛は開き直ったように腕を組んだ。


「そういうのは結婚前に済ませておくのが常識じゃん」


『常識じゃないし、一番最初にケイの子供を産むのは私だから』


 千景の言葉に、僕は苦笑する。

 こういうところも、相変わらずだ。


『京君。公平を期すために、みんなで同時に子作りするべき。今は我慢して』


「あはは……そうだね」


「京坂ちゃん!?」


 心愛が怒りと悲しさがないまぜになったような顔を見せる。

 四人がパソコン越しにバチバチと火花を散らす中、僕はくすっと笑った。


 四人とも笑顔になる。


 みんなと、これからもずっと一緒にいたいなと思う。

 そう、ずっと一緒にいたいんだ。


 みんなのことが、大好きだから。





 FIN




――――――――――――――――――――

ここまでお読みいただきありがとうございました。

京君はこの先も紆余曲折ありますが、最後はちゃんとハッピーエンドを迎えます。笑


本作は京君が幸せになるお話でした。


私、暁貴々は別作品も執筆しているのですが、

小説家になる為には初速や目標評価数が必要だと考えています。

目標に達しない場合は早々に切り上げることもあり、その際には評価を頂きました皆様に深くお詫び申し上げます。

新作のストックがいくつかあるので、もしよろしければ新作の方もご覧ください。近日、公開予定です。

こちらの作品は今回で完結ですが、今後ともよろしくお願いいたします。


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

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