最終話 京坂京
「ケイが心配。大丈夫かな?」
「京君なら大丈夫」
「千景は過保護すぎ。同窓会なんて数時間でお開きになるんだし、おけいはんなら何かあっても自分で対処できるっしょ」
千景と桜子と司は、小野家のリビングでそんな会話を交わしていた。
「私が心配してるのは同窓会そのものじゃなくて……ほら、ケイって女の子を勘違いさせる体質っていうか」
「それこそ心配しすぎじゃね?」
「何度も言うけど、京君なら大丈夫」
桜子と司はお互い顔を見合わせ、くすっと笑う。千景はそれが気に入らないらしく、むっと眉根を寄せる。
「……むしろ司と桜子が余裕かまし過ぎ。絶対女の子に言い寄られて帰ってくるパターンでしょ」
「否定はしない。だけどわたし達はすでにお義父さんに挨拶を済ませてる。ちょっとやそっとの女の子なんて敵じゃない」
「そりゃ私も心配だけどさ、誰を選ぶにしてもおけいはんの人生はおけいはんのものなんだから、私たちが口出すことでもないんじゃないかなって」
二人に言いくるめられる形で、千景が重たい息を零す。
ちょうどその時、玄関の扉が開く音がした。千景と桜子を除いて、小野家の家の合鍵を持っている人物は一人しかいない。
「ただいま。みんなの顔が見たくなって、二次会は参加しなかったよ」
「ケイ、おかえり」
「おけいはん、おかおか!」
「京君。おかえり」
千景と司と桜子は我先にと、京の胸へと飛び込んだ。
「おわっ……! ちょっ!」
三人の体重を支えきれずに倒れ込む京。
一つ、二つ、三つ、四つと、4LDKのマンションの一室に笑顔が生まれる。
笑い声で溢れ返った室内は、幸せで満たされていた。
◇
翌日。
僕は昼過ぎに目を覚ました。
昨夜は三人とも激しく(特に千景が)、何度も何度も熱を放出してしまった。
千景は僕の胸に顔を埋めるようにしてすやすやと寝息を立てており、両腕はつーちゃんとさくらに占領されている。
女の子特有の柔らかさがクッションの役割を果てしてくれたのだろうか、とりわけ身体の痺れなどは感じない。
これが漫画の最終巻なら、幸せの一コマで物語は幕を閉じる。
けれど現実は続いていく。ずっとみんなと一緒にいたい。最近その想いがどんどん強くなっており、なんとかしないなといけないな、と考えることが増えている。
勉強しよう。
今まで以上に、だ。
そうすれば、ずっと一緒にいられる。みんなと一緒にいる時間をたくさん作れる。今はまだ助けられてばかりだけど、いずれ僕がみんなを支えることができるように。
◇
高校を卒業して十年が経った。
僕は東京での大学生活を終え、起業し、ウェブトゥーンを基盤としたプラットフォーム開発会社を設立した。
今ではいくつかの企業やメディアと提携し、多くのユーザーを囲っている。
当初はプログラミングについて勉強してたんだけど、十代で第一線で活躍している同期からは遅れを取ってしまったので、エンジニアとしての道を諦め経営のノウハウを学ぶことにしたのだ。大企業でのインターンシップの経験もあって、起業した際は割とすんなり話が進んだのは幸いだった。
そして、現在。
四人で暮らすために買ったマンションの一室で、僕はノートパソコンを開いて作業をしている。
日本じゃないけど。
三人と結婚するため一夫多妻の国に移住したのだ。ドバイの物価は高いけど、僕も経営者になって、三人も相も変わらず現役バリバリの創作家なので、そこまで生活に苦労しているわけでもない。
そう、つまり……僕は、千景とつーちゃんとさくらと『結婚』した。夢を叶えることができたのだ。
道のりは険しかったけどね。複数の妻を娶ろうとしている男に、娘を託せるか否か。親御さんからすれば『NO』一択だということは、おわかりいただけるかと思う。
当初の僕の心証の悪さときたら、いやホントに……塩をまかれるレベルで。それでも、僕は三人の親に認めてもらえるよう努力を惜しまなかった。
最終的に認めてもらい、そして今に至る。
そう。点と点は線になり、繋がっていくのだ。
あかりもちゃんと大学を卒業して、一つ一つ、夢を叶えていってる。妹の幸せは僕の幸せだ。これも点と点が繋がっていると言えるだろう。
それと心愛のことなんだけど……
現在は僕の秘書をしていて、なんやかんや色々あって。
その、なんというか、もうじき彼女とも結婚する予定である。ドバイでは最大四人まで妻を娶ることができるので、その点に関しては問題がないのだけど、これからのことを思うと……色々と心配の種は尽きない。
でも、それも僕の選んだ道だから。
「ケイ、そろそろ時間だよ」
ノートパソコンと向き合っていると、千景が僕の部屋に入ってきた。
時計に目をやる。確かにいい時間だ。
僕はノートパソコンを閉じて、椅子から腰を上げる。
「おけいはん、荷物ここおいておくから」
「ありがとう」
つーちゃんがキャリーバッグを持ってきてくれる。
「京君。気を付けてね」
「うん」
さくらの左手の薬指には、僕とお揃いの結婚指輪がはめられている。
僕は三人と順番にキスを交わす。行ってきますのキスだ。
「行ってきます」
「「「行ってらっしゃい」」」
出張というほど大袈裟なものではないけれど。
日本で新しいプラットフォーム開発の打ち合わせがあるので、三日ほど向こうに滞在する予定だ。
「千景、つーちゃん、さくら。愛してるよ」
校内三大美女のヒモをしていた僕こと京坂京は、今では三人の妻を持つビジネスマンである。
◇
「社長、どうされたんですか?」
打ち合わせが終わり、ホテルでコーヒーを飲みながらぼんやりしていると心愛が声をかけてきた。
「ああ、いや……心愛の両親にも挨拶に行かなきゃな、とか考えてて」
心愛は僕の顔を見て、頬を赤らめる。
「あたしは京坂ちゃんと一緒にいられればそれでいいよ♡」
「そういうわけにはいかないよ」
「もう、京坂ちゃんったら♡」
心愛が僕の胸に飛び込んできたタイミングで、ベッド脇に置いていたノートパソコンが光を放ち始めた。あれ? リモート操作になってる。そのままビデオ通話がONになり。
『ああああ、やっぱりこうなってた』
『おけいはん、心愛とは別室にするよう言ったでしょ』
『京君のパソコンをリモート操作できるようにしてる。わたし達の目があることを忘れないで』
ノートパソコンの画面いっぱいに千景とつーちゃんとさくらが映り込み、僕を睨んでいる。
「ちょ、ちょっとアンタらプライバシーの侵害なんですけど」
『心愛さあ、あんたどうせ子作りしよっておけいはんに迫るつもりでしょ?』
つーちゃんの推察に、心愛はうっと言葉を詰まらせる。
どうやら図星らしい。
「だって、そういうのは結婚前に済ませておくのが常識じゃん」
開き直ったように腕を組む心愛。
『常識じゃないし、一番最初にケイの子供を産むのは私だから』
千景の歯に衣を着せぬ宣言に、僕はぽりぽりと頬をかく。
『京君。公平を期すために、みんなで同時に子作りするべき。今は我慢して』
「あはは……そうだね」
「京坂ちゃん!?」
四人がパソコン越しにバチバチと火花を散らす中、僕はくすっと笑った。
これからもずっと。
こんな日々が続くことを切に願う。
みんなのことが、大好きだから。
僕は相も変わらず『家族』のことで頭がいっぱいらしい。
FIN
――――――――――――――――――――
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
京君はこの先も紆余曲折の人生を送りますが、最後はちゃんとハッピーエンドを迎える予定です。
本作は京君が幸せになるお話でした!
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
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