2月11日(2)
コツ…コツ…コツ…コツ………
涼ちゃんが苛立ったように机を指先で叩く。
「いやー、それにしても天城さんって近くで見るとより可愛いね」
「ありがとうございます……」
「バレンタインのチョコ作ってたの?」
「亜紀ちゃんに作り方教えてもらいながら……」
右隣には涼ちゃん、左隣には森さんが座り私が挟まれるような形で真ん中に座っている。
そこまで広くない座席に3人で座る形になり、私がいる背もたれに腕を伸ばすようにしピッタリと私の横にくっつくようにして森さんが座っていて、それを見て涼ちゃんは机をコンコンと叩く。
非常に気まづい状況になったのだが、それを察してか目の前に座っていた2人は早々にカウンター席に逃げていった。目の前が空いているんだからそっちに座っても良いのに動こうとしない。
「どれも美味しそうだね」
「よかったら食べます?このトリュフチョコ美味しかったですよ」
「いいの?」
手を伸ばしてトリュフチョコを一つ手に取り森さんに渡そうとすれば、チョコではなく森さんは私の手首を掴んでグイッと引っ張った。
私の手が森さんの口元まで運ばれ、器用にトリュフチョコを食べた。指先が森さんの口に少し当たったような気がする。
「っ!!」
「ホントだ美味しい……」
ゴンッ!!!
「も、森っ!」
唇についたココアパウダーを舌で舐め取って、視線が私を飛び越えて涼ちゃんに向けられる。
森さんってこういうことサラッとする人なの!?
挑発的な視線で涼ちゃんを見てるし、無言で未だに返していないブレスレットを涼ちゃんに見せびらかしてるし……私たちの関係だってこの様子だと知ってそうなのに、一体何を考えてるんだろ…
「ね。私と付き合ってみない?」
「え?」
「は?」
森さんの挑発的な視線で大人しくなったと思った涼ちゃんが、ドスの効いた低い声を出した。
「ヘタレじゃないし、悠木よりもずっと優しくするよ?」
「ヘタレ?」
「ヘタレじゃないしっ!!」
涼ちゃんが机を手のひらでダンッと鳴らして立ち上がった。
「プフッ……ヘタレ……ふっふふっ」
カウンターにいるちさきちゃんは吹き出している。空気読んで静かにしててよ……
それに涼ちゃん、ツッコむところそこじゃないと思う……
「えっと、森さん。知ってると思うんですが、私涼ちゃんと付き合ってて」
「うん。知ってる。知ってて私と付き合ってみないって誘ってる」
非常に良い笑顔でなんてことを言っているんだ。人の彼女に手を出すことに躊躇いが全く感じられない。
「高校入学した時から可愛いなぁって思ってたんだよね。悠木には勿体無い」
「私には勿体無いってことくらい自分が1番よくわかってるよ!!でも、森とは絶対付き合ったらダメだし、私は別れる気ないから!!」
涼ちゃんが後ろから力強く抱きしめて森さんとの距離を物理的に広げてきた。
「まぁ、そういうだろうとは思ってた………けど」
「けど?」
涼ちゃんが警戒心丸出しで森さんを睨みつけている。内心ではガルルと唸り声をあげてるに違いない。
「天城さん賭けて勝負しよう」
「しない!!」
涼ちゃんが即答した。早い、早すぎる!
あと、何かにつけて勝負するのってバスケ部で流行ってるのかな!?結ちゃんの時も勝負してたし、すぐ勝ち負けにこだわるのは運動部としての宿命なのかな。
「バスケで森に勝てるわけないでしょ!それに、私に全然メリットないし」
「ありゃ……バレたか」
メリット有無に関わらず、私が景品みたいになってるのは困るんですけど……
「それじゃ、こういうのはどう?」
森さんが生チョコを摘み上げ口の中に放り込み、指を2本立てた。
「修学旅行の二日目の自由行動。良い場所を教えてやる」
「何それ?」
警戒しながらも涼ちゃんは興味がありそうにしている。
口元をニヤリと変化させた森さんが涼ちゃんの耳元まで顔を近づけて何やらささやいた。こんな近くにいても私には何を話しているのか聞き取れなかった。
「それ……」
「どうよ?やるか?」
「……バスケは無理だからね」
「わかってるって」
「え?涼ちゃん勝負するの!?」
そんなすごい場所なの!?私を賭けても良いくらいの場所だったの!?二日目の自由行動と私って同じくらいの価値だったの!?
「大丈夫。絶対負けない」
「いや、バスケだと負けちゃうんだよね?」
後ろから抱きしめたまま耳元で話しかけてくる涼ちゃんは押し黙った。
「これで勝負しようか」
森さんがテーブルを指差した。そこには今日作った四種類のチョコレート。
「チョコ作り対決?」
「違う違う」
指を左右に振って森さんがニコリと笑った。
「どちらが多くバレンタインチョコを貰えるか勝負しよう!」
2人とも女の子なのに?一般的には女の子はあげる方のバレンタインでどちらが多くチョコを貰えるかの勝負?
「あたしも毎年結構貰うんだけど、悠木も去年すごかったでしょ?これなら良い勝負になるんじゃないか?」
涼ちゃんがうーんと考えを巡らせてコクリと頷いた。
「わかった。本当は今年凪沙以外チョコを貰うつもりなかったけど、勝負なら仕方ないね」
「決まりな」
森さんが白い歯を見せて笑った。
それ大丈夫なのかな?
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