1月25日 Side涼22

「いらっしゃい。どうぞ入って」

「お、お邪魔します」


お出かけ用の服とはちょっと違うゆったりとしたパンツとダボっとしたロングシャツでラフな格好の凪沙が玄関の扉を開けて出迎えてくれた。

そういう格好も似合うなぁ、ちょっと彼シャツ感のあるダボっとしたシャツはお尻のあたりも覆っていてとても私好みだ。


なんと今年二度目の凪沙のお家である。

恋人のお宅に訪問するなんて頭の中がお花畑で浮かれた状況だと思われるかもしれないが、2回ともそうではない。前回は別れ話だと勘違いして内心は不安と心配が津波のように押し寄せていたし、今回はデートで喧嘩のような言い合いで、微妙な雰囲気で別れてしまったせいである。


私だって頭がお花畑でお気楽なおめでたいやつとしてこの場所に立っていたかった。流石にバカっぽいからそこまでいかなくとも、凪沙に会うのを舞い上がる気持ちでいたかった。


ソワソワと落ち着かない気持ちを抑えて、凪沙の部屋に足を踏み入れた。


2回目の恋人の部屋だ!いい匂いがする。凪沙の匂い落ち着く……落ち着かない気持ちが一瞬で落ち着いた。


「飲み物とってくるから適当に座ってて」

「ありがとう」


凪沙の香りが部屋全体覆っている空間は最高に浮かれた。


ベッドを背もたれにして寄りかかれば、ふかふかのベッドから凪沙の香りがしてきて誘われるようにして顔をベッドに埋める。最高……


風邪を引いていた時は乱れていたベッドも今日は綺麗に整っていて、部屋も綺麗に片付けられている。


視線を横に振ると枕が見えた。布団カバーとお揃いの水色の枕カバーで頭が置かれている枕は少し凹んでいる。のそのそとベッドに登りモフッと顔を枕に沈める。


うわっ……これやばい!凪沙だ!すごく凪沙だ!


布団よりも強く感じる凪沙の香りが語彙力も低下させる。


この枕欲しい。そうすればいつでも凪沙を感じられるし、1人で寂しい夜もぐっすりと眠れそうだ。


「いや、もう枕より凪沙が欲しい……」


枕の香りは薄れていくかもしれないが凪沙本人がいれば、全部解決じゃんと思考まで低下させていた。


「涼ちゃん……なにやってるの……」


ガバッと起き上がり正座になって床に座った。


「……いえ、何も……」


冷めた視線が飛んでくる。

そうだった。凪沙の部屋で浮かれていたけど、凪沙と話し合うために来たんだった。


ローテーブルにコップを二つ置いて少し気まずそうに凪沙が向かい側に座った。


2人の間になんとも言えない空気が漂っている。これ、私のせいか……枕の匂いを嗅いでたらこうなるか……それ以前に昨日のこともあって、それも私のせいか……


「あ、あの……凪沙……」

「昨日のことだよね?」


「う、うん……」

「ごめんね?私の言い方も悪かったから……一方的にいらないなんて、せっかくプレゼントを用意してくれたのにひどいよね」


凪沙が視線を落として申し訳なさそうに謝ってくる。


「いや、私が勝手に用意しただけだし凪沙は悪くないよ!理由があったんでしょ?ごめんね。私それわからなくて……なんでダメだったのか」


いくら考えてもダメな理由が思いつかなくて、でも他の人にはわかっていてずっとモヤモヤしている。1番に凪沙のことを理解してあげたいのにわかってあげられない悔しさもある。


凪沙はもごもごと俯き加減で口を開いた。


「私ね……涼ちゃんの負担になりたくないの……」

「負担?」


「今後付き合っていくと、毎月プレゼントを贈るのは絶対負担になるでしょ?金銭的にも用意することも大変だから……それで涼ちゃんがちょっとでも嫌だななんて思ってほしくないから」


「………」


私は今凪沙と付き合っていて、凪沙に喜んで欲しいっていう気持ちと、私が1ヶ月記念日というワードでただ浮かれて目先のことしか考えていなかったけど、凪沙は先のことも考えていて……私とずっと恋人として付き合ってくれるという心づもりがあるっていうこと?


何それ……めちゃくちゃ嬉しい――


ただでさえ、凪沙は男の子が好きな女の子のはずで、女の私と付き合うということに抵抗とかありそうなのに、私のことを考えてプレゼントはいらないと言ってくれたのも、もちろん嬉しいけど、私とずっと一緒にいてくれるつもりなのが何より嬉しい。


「負担とか先のことなんて全く考えてなかった。確かに毎月プレゼント選ぶのは大変かもしれないね。私も凪沙とずっと一緒にいたいから来月からは特別な日以外は用意しないことにする」


「うん。そうしてくれると嬉しいかな」


凪沙がほっとしたようにはにかんだ。


「でも、これはもらってくれる?」


私はカバンから1ヶ月記念日で用意した小さい紙袋に入ったプレゼントを取り出した。


「用意しちゃったし、全然高くないものだから」

「……うん。ありがとう」


小さな紙袋を手に取って嬉しそうに微笑んだ。


「開けてもいい??」

「うん」


丁寧にシールで留められた部分を剥がして中身を取り出す。


「……これって?」

「お揃いなんだ」


私は自分の手首を凪沙に見せた。

私の手首についているのは全体がゴールドのワンポイントでシルバーの星がついているシンプルなブレスレットで、凪沙にはシルバーのワンポイントでゴールドの星がついている。


「可愛い……」

「貸して、つけてあげる」


凪沙の隣に座って手首にブレスレットをつけた。

キラッと光るブレスレットは凪沙の細い手首によく似合っている。


私は凪沙の手首を掴んで自分のブレスレットと凪沙のブレスレットを見比べて、凪沙とまた一つ繋がれた気分で気持ちが高鳴った。


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