12月13日(2)
「大丈夫?」
顔色を青白くさせてベンチで項垂れている涼ちゃんを覗き込む。
「悠木涼、情けないなぁ」
ちさきちゃんがペットボトルのお茶を涼ちゃんの頭にポンと置いた。
涼ちゃんはそれを受け取ってちさきちゃんをムスッとした顔で睨みつける。
「涼さんジェットコースター苦手なんですね?言ってくれたら良かったのに」
「言える雰囲気じゃなかったんだよ」
お茶をぐびっと飲んでふぅと息をつき少しは顔色も良くなってきたみたいだった。
「少し休憩しよっか?丁度お昼だし」
「そうだな。お腹も空いてきたし何か食べるか」
ちさきちゃんと亜紀ちゃんが園内マップを広げてどこのお店が良いか話し合う。
私は涼ちゃんの隣に座った。
「絶叫系苦手なの?」
「う、うん……あの速さで右とか左に揺らされて、さらに回転まで加えられたら……」
一点を見つめ思い出したらしい涼ちゃんは顔色がまた悪くなっていった。
「ご、ごめんね!!思い出さなくていいから!!」
カタカタと震える涼ちゃんの手を握る。
少し震えが治った涼ちゃんは私が握った手を握り返してきて、黒い瞳が私を見つめてきた。
「せっかくの遊園地なのにごめんね?凪沙はいっぱい乗り物乗って楽しんで良いからね?」
「ううん。せっかくみんなで遊びに来たんだもん。みんなが楽しまないと」
私たちだけアトラクションに乗って楽しむなんてことはしたくない。みんなが楽しまないとやっぱり楽しく思えない……
「それに遊園地って乗り物意外でも楽しめるし、涼ちゃんが乗れる乗り物だってたくさんあるよ!だから楽しもうね?」
「うん」
頷きながら涼ちゃんは微笑んだ。
「よし!食べ歩きしながら色んな店見て回ろうぜ」
ちさきちゃんと亜紀ちゃんのお昼ご飯会議が終わったらしく、結果は食べ歩きになったらしい。歩きながら食べるのは普段だと行儀が悪いけど、園内だから許される気持ちになる。
「涼さんもう大丈夫?」
「大丈夫だよ。行こっか」
涼ちゃんが握っていた手を引っ張り、立ち上がった。
結ばれた手は離されることなく、園内を見て回る。
ちさきちゃんは大きいキャラクターものの容器に入ったポップコーンを首からかけて、隣の亜紀ちゃんの手にはチュロスが握られている。
私は何のお肉かわからないお肉を片手に持って、かぶり付いた。あ、意外と美味しい……
「美味しい?」
「うん。意外と柔らかくて美味しい。……食べる?」
涼ちゃんの口元にお肉を持っていった。
少し躊躇う様子があった涼ちゃんはおずおずとお肉をひとくち齧り付いた。
「美味しいね」と言って涼ちゃんは微笑んだ。
食べ歩きをしては、近くにあるアトラクションに入ったりして、4人での遊園地はすごく楽しくてあっという間に時間が過ぎていった。
空が暗くなってきた頃。
「最後はやっぱりこれだ!!」
と、ちさきちゃんが大きな観覧車の前で手を広げた。
やっぱり最後はこれなんだと思いながら、ゴンドラが登っていくのを目で追っていく。
「それじゃ、グーチーして2人ずつに別れよ――」
「ダブルデートなんだから、私とちさき、凪沙さんと涼さんで決定してるから」
亜紀ちゃんがちさきちゃんの腕を引っ張り観覧車の方に向かっていく。
「4人みんなで乗ってもいいんだぞ!?」
「却下」
な、何もするなよ!?触るなよ!?となんだかちさきちゃんが亜紀ちゃんに訴えている。亜紀ちゃんがチラッと私を見て、ちさきちゃんに見えないように親指を立てた。
観覧車で2人きり……絶好のシチュエーション……ドクンドクンと心音が早くなっていく。
次に並んだ私たちもゴンドラに乗り込んで、対面で座った。
「ここ、結構景色が良いって評判なんだよ」
「うん」
涼ちゃんが窓の外を眺めている。徐々に浮上していく景色を楽しんでいるんだろうか?
ちょっと涼ちゃんの顔は暗いような気がする。
「もしかして高い所ダメだった?」
「ううん」
静かに首を振る。
「わー。結構高そうだねー」
「うん」
やっと涼ちゃんと2人っきり。観覧車で告白とか少しべたなのではと思うけれど、逃げられないこの状況ならきっと自分の気持ちを素直に伝えられるはず。
私はすっと息を吸い込んだ。
「あ、あの!涼ちゃんに話したい―――」
「凪沙。もうやめようか」
涼ちゃんが少しずつこちらに振り返ってくる。
閉じられた目も少しずつ開けられて、最後にその黒い瞳は私を映した。
なんのことを言っているんだかわからなくて、私はその瞳をじっと見つめ返した。
「お互いを恋に落とす事やめよう」
「え………」
涼ちゃんは真面目な顔をして私にはっきりと告げてきた。
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