Day004 il giardino

「みつるさん、見て」

 久し振りにみつるとシンイチロウの休日が重なった今日。揃って朝と呼べる時間に起きられなかった二人は、せめてゆっくりとした休日らしいことをしよう、と散歩に繰り出していた。決まったコースも目的地もないまま適当な角で曲がったり、道行く猫を追いかけて辿り着いた路地裏でシンイチロウがみつるの袖を引いた。

 シンイチロウの視線の先には、色とりどりのジェラートが並ぶこぢんまりとした店があった。白い壁には店名だろうか『giardino』と記されていて、店内ではにこやかにお客へジェラートを手渡している店員の姿が見える。

「アイス、食べていこう」

「いいね。今日も日差しが強いから丁度良かった」

 シンイチロウが誘うより、みつるが答えるより先にどちらともなく二人の足はきらきら光るジェラートのショーケースに引き寄せられていた。開けっ放しだったガラス戸を越えて店内に入ると、やわらかい扇風機の風に乗った甘い香りが二人の口元をゆるめる。

「いらっしゃいませ」

 二人と入れ替わりに帰っていった親子連れを見送った店員がまた甘い笑顔で二人を迎える。好青年を絵に描いたような若い男の店員からも何か風が吹いているのではないかと錯覚するほどのさわやかさに、二人は目を合わせて心の中で今日という日が良い休日になることを確信した。

「あの、おすすめは何ですか?」

「はい! 定番で置いているミルク、それと今日限定のりんごとぶどうが一押しです。あ、勿論他のフレーバーも自信作です!」

 青年は大層嬉しそうにショーケースの中を指し示しながら、それぞれのフレーバーの特長を二人に聞かせてくれる。簡潔ながら味をよくよく想像出来る言葉選び、何より青年の楽しげな様子にみつるはショーケースを眺めながら一つ質問を投げかける。

「自信作、ということはあなたが作っているんですか?」

「ええ、ここは僕の店なんです。とはいえ、店員は僕一人ですけど……」

「……自分のお店、素敵ですね」

 はにかむ青年に普段、こういった場面では気配を消しがちなシンイチロウまで会話に入ってくる。胸を満たすあたたかい気持ちを抑えきれなくなるほど、楽しんで仕事をしている青年が眩しかったのだ。

「じゃあ、俺はミルクとぶどう」

「私はミルクとりんごで」

「ありがとうございます!」

 一層笑みを深くした青年は手早くカップにジェラートを盛り、スプーンを刺し、二人にいそいそと手渡した。

「毎月フレーバーが入れ替わるので、是非また覗きに来てください」

 深々とお辞儀をする青年に見送られて、みつるとシンイチロウはジェラートを片手に帰り時につく。

「良い人だったね」

「そうだな」

 陽射しの中で溶けないうちに、と二人は歩きながらジェラートに口をつける。すると、心地良いひんやり感とフルーツのやわらかい甘みがこれまでに食べた氷菓の中で一等美味しくて、二人は思わず笑い合ってしまった。

「良い休日だ」

「ね、猫を追いかけてきて良かった」

 今度は猫に導かれずとも来れるように、と二人はそれぞれ携帯電話のマップアプリにマーカーを付ける。二人がまた笑顔の素敵な店主に会える日は近いだろう。

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