令和の中学生が夏休みに初代ポケモンやってみた

矢木羽研(やきうけん)

本編シナリオ(緑)攻略編

第1話:始まりは夏の香りとともに

令和5年7月22日(土)


照りつける日差し。鳴り響くアブラゼミの声。僕は額の汗をぬぐい、半分凍ったままのスポーツドリンクを一口飲むと、自転車をこいで坂道を登る。暑さが本格的になる前にたどり着きたい。


今日は夏休みの初日。目的地は「山の家」こと、父の実家だ。いつもは親の運転する車に揺られて20分ほどで着く距離だが、今日は初めて自分の足で行ってみることにしたのだ。


ちょうど去年の夏休みに、僕より1年上の従兄いとこのマサキ君が、同じように自転車で僕の家に遊びに来たことがある。僕も中学生になったからには、ちょっと冒険してみたくなったのだ。


汗をかきながら坂を登っていると、小学生の集団とすれ違う。みんなビニールのナップザックを背負っており、これからプールにでも行くのだろう。夏休みは始まったばかりだ。


少し先にある駄菓子屋も子供たちで賑わっている。アイスが美味そうだが、誘惑をこらえてまっすぐに目的地を目指す。きっと、おいしいお菓子や果物でも用意してくれているだろうから。


**


伯父おじさん、来たよ!」

「おう、タケル! 早かったな」


門の先では、伯父が庭で洗車をしていたので声をかける。水しぶきが涼しげだ。


「暑くなる前に着きたかったからね」

「今年の夏は特別暑いもんな。ちょうどスイカを切ったところだから、食ってけよ」


暑いとはいっても、このあたりは緑が多いので都会のようなヒートアイランドではない。風通しもいいので、午前中であればエアコンなしでも涼しいくらいだ。僕は玄関から上がるのももどかしく、戸が開け放たれた縁側えんがわから上がり込む。


「おっす!」

「いらっしゃい!」


伯父の子供たち、つまり僕の従兄妹いとこであるマサキ君とミユキちゃんが出迎えてくれた。蚊取り線香の匂いがする8畳間で、いぐさの座布団に座ってスーパーファミコンで遊んでいる。


「……これ、ポケモンだよね?」


スーファミは二重構造のカセットが刺さっている。大きい方には「スーパーゲームボーイ」と書いてあり、ゲームボーイソフトをスーファミ本体で遊ぶためのアダプタのようだ。任天堂のロゴもあるので公式のサプライなのだろう。


そして小さい方のカセット、つまりゲームボーイソフトは、赤いラベルが半分隠れていてタイトルが見えない。しかしゲーム画面ではメニューなどで「ポケモン」という文字が何度も出てきているので、シリーズを一つもプレイしていない僕でもすぐにわかった。


「ああ、初代の赤な。興味ある?」

「……うん!」


この瞬間が、後に僕の中で「ポケモンの夏」と呼ばれる、熱い日々の始まりであった。

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