からのかごとあらたないのち
りーえ
第1話
からのかご。
私は呆然と、それを見つめた。
10年前に、偶然見つけた小さな青い鳥。
何も知らないながら飼い始めてみると楽しくて、意外とーーーでもないのか、次々と流れる情報や文字を追うことも、気軽に自分の気持ちを文字にできることも、活字中毒の私の性にあっていて。
嵌まらないつもりが、いつのまにか生活の一部になっていた。
鳥は様々な声で囀り、色々な人を景色を私に見せてくれた。
小さな小さな、私のスマホの中の青い鳥。
失敗や嫌なこともたくさんあったけど、多くの出会いと楽しみを教えてくれた、私の幸福の青い小鳥。
8年来の付き合いを連れてきてくれた、私の繋がり。
いろんな人がいた。
憧れていた人がいた。
文章を書くプロがいた。
面白いことを一早く広める人がいた。
絵が上手な人がいた。
言葉を面白く使う人がいた。
現実だと巡り会えないかもしれない確率で、気が合う人が、居心地のいい人が、趣味が似ている人がいた。
そんな人たちと、青い鳥の囀りを縁に繋がった。
8年。
生まれた赤ん坊が小学生になるより、小学生が中学生になるよりも長い時間、私は青い鳥と共にあったのだ。
環境は変わったけれど、時代は移ろいゆくけれど、色々問題は山積みだけど、きっとこれからさきも、沈みゆく船で青い小鳥を眺めながら過ごすのだと信じていた。
私は今、空っぽになった鳥籠を前に途方に暮れている。
そんなに依存していたつもりなんてなかったのにね。そんなに好きだと思ったこともなかったはずなのにね。
おかしいね、もう君に会えないと思うとどうしようもなく寂しくなるんだ。
君と、君という青い鳥を通して手に入れた居心地の良い空間、好ましい人たち。
ワイワイ騒ぐのが楽しかった。
好きなことについて語れるのが嬉しかった。
元気そうに、楽しそうに過ごしている人たちを見ると安心できた。
独り言を溢せるところがありがたかった。
好きを発信できるのが喜びだった。
今までありがとう、小さな幸福の青い小鳥。
便利な知識も、いらん知識も、重要な情報も下らない情報も、すごい人もどうしようもない人も、思わず笑ってしまうような話題も頭が痛くなってくる話題も、心が弾むようなワクワクも、頭を抱えてしまうような炎上も。
いろんなもののごった煮である空間をとても愛していたのだと、今更実感した。
そしてよろしく、X。
かごの外でうごうごと蠢く、体の所々が固まって欠けているよくわからない生命体に挨拶をする。つんつん、とつつけば、鈍いながらも反応が帰ってくる。
良かった、しばらくは大丈夫そう。
よくわからないけど、多分そうきっとそう。
君がどうなるのかは知らないけれど、君がどこまで生きていられるのか分からないけれど、私は青い鳥と同じように、君と言う空間を愛するだろう。
沈みゆく船の中でオーケストラを聴くような愚かな行為だとしても、最後まで私は君と共にあるでしょう。
それはそれとして、避難先は探すけれど。
でも今はもう少し、このまま寂しさに縋っていたいんだ。
とりあえず、私が死ぬか君が死ぬまでよろしくね、X。
からのかごとあらたないのち りーえ @friie2
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
好きなことを、好きなだけ最新/宇部 松清
★188 エッセイ・ノンフィクション 連載中 2,090話
適当とバランス最新/@omuro1
★35 エッセイ・ノンフィクション 連載中 96話
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます