第2話
「おぉぉっと!?」
初見さんが入ってきてから、俺は一度もスマホの方を向かないでそのまま走った。
そしてそのまま二十一回走まで入ろうとする寸前で急ブレーキをかけた。
二十一階層という表示ななければ今頃まだずっと走っていただろうな。
「さて…丁度三時間ぐらいか?」
さてさて、コメントの状況はどうなってる事やらやら…って。
「おい!?お前たち!何をそんなにペコペコしてるんだよ!?」
コメントでは『ぜひ私目を罵ってください』
『私はあなた様の奴隷でございます』など意味不明な言葉で溢れている。
「おいおいおい!お前たちどうしちまったんだ?一体何があったんだ!?」
過去のコメントログを漁っていると、この発端がすぐさっきのところから始まっていた。
どうやらこの初見さん、実のところ配信者だったらしく、その数は一万人越えで俺の何十人と比べるにはおこがましい所。
当然俺の配信を見てくれる人なんて底辺の集まり、そんな高貴なお方にタメ口を使っていたのが恥ずかしくなり、今でも『この口を縫い合わせてください』など自分を戒める言葉が流れている。
その度に初見さんは『いえ本当に大丈夫ですから』と許しているのだが、それでも止まらない。
「お前たち、奴隷プレイをやるのはいいがそろそろやめろ、過度は駄目だ」
俺がマジトーンでいうと『だな』『流石にやりすぎたすまん』『だから居なくならないで初見さん』など肯定的な意見が流れる。
本当に色々なことは程々にしておけ、過度は裏目に出ることの方がいいからな。
「と、言うわけで、今日の配信もどうだったかな?できれば初見さんから感想が欲しいかな、お前たちからの感想なんて高がしれてるし」
『殴りたいこの顔面、今すぐこの手で』なんて物騒なコメントが流れてるけど、良くも悪くも無視だ。
数秒、初見さんのコメントがスマホに表示されるが、そこで俺は「んん?」と困惑の言葉を残した。
『とても羨ましく思いました、先ほどコメントログを漁っていたならわかっていると思いますが、私は女性の配信者です、女性に限らず配信者は視聴者に嫌われずに、コツコツ媚を売って当たり障りのないことを言い続けるしかない思っていました。しかし、あなたの配信を見ると、私が思っている配信とは大きくかけ離れていて、それでいて視聴者と根深い関係を築いているのがとてもうらやましく思ってしまいました』
「…んーとなぁ」
この全盛期の長文ニキをも上回るこの長文、これ試されてるなぁ
「それって仕方がない事だと思うんですよね、人気者の宿命っていいますか、人気が出るにつれて配信に来る人は増える、そうなれば不特定多数に肩入れなんて出来ない、結局視聴者と浅い関係になる…仕方がない事ですが受け入れるしかありません、まぁそれでももしまだ俺を羨むなら、いつでもこの配信でお待ちしていますよ」
俺がそう言うと『もちろん、いつでも歓迎するぜ』『いくらでも捌け口にしていいからなここ、走者もなんも言わないし、どうせずっと底辺のままだしな』『あなたは私たちの姫なのですから』と歓迎の言葉でいっぱいだ、一名変なのを除けばな。
「とまぁこんな感じで今日はここまでで!!じゃあまた次回の配信でお会いしましょう、もしよろしければ私のアカウント「速攻ダンジョン」をチャンネル登録お願いしますね」
『おつー』『いつも通りだったな』『おつかれんこん』『お疲れ様』
とねぎらいの言葉が並ぶ最後に初見さんのコメントが入る。
「『…また来ます、必ず』か、取り敢えず、新しい常連さんはゲットかな」
じゃあ俺もこのダンジョンのさっさとポイントを置いて帰るか、そうしていい感じに隠れられそうな場所を探している最中だった。
「……!?なんだ?」
突然、大地が揺れたを思ったら、横ではなく上下に地響きは起こるこの感覚、おいおいまさか、あれか!?
「くっそマジか、それはまずい!」
まさか自分の所にこれがくるなんて思ってもいなかった俺はなんの準備もできておらず軽装だ。
即刻逃げるのが合理的!
配信より自分の命!!これ本当に大事!!
「スキル『逃走』!!出口ゲートまで!」
そう唱えると、俺の逃走のスキルにより逃げるためのルートが目に浮かび上がった。
速攻でルートを辿って走り上の階層まで行く。
上の階層は一面灼熱の炎となっていたことから間違いなくあれであると確信できた。
たまに起きるゲートとゲートの階層がどこかで入れ替わってしまうクソ現象「スイッチ」が起きた。
「て、おいおいマジか」
灼熱の大地に佇む黒い影、それを最高危険度をもつドラゴンと認識するのに時間はかからなかった。
こちらを見る前に早く退散しようと、ルート通りに大回りで走って抜けようとするが、どうやら神はまだ俺をここに留めたいらしい。
ドラゴンの足の隙間から、膝を落として足を崩して座っている一人の黒色の髪をした女性がいた。
あのドラゴンと戦っていたのか?無茶だ!絶対に死ぬぞソロじゃ!
俺の予感は的中したようで少女は足を崩して戦う意志がないのに対してドラゴンはばちばちに臨戦体制である、即刻死刑が下される死刑囚のようだ。
無視だ、俺が近づいたところで絶対に敵わない…見捨てて逃げるのが安牌だ、そうだ、それが安牌だ。
「…スキル『逃走』ルート変更!少女を助けるルートを組め!」
俺の視界映っているルートが突然ドラゴンの方に引っ張られるように向かって行きながら、俺は少女の方に走って行った。
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