第27話 ゴミは分別してから捨てましょう
前国王の病名は『高血圧と動脈硬化と糖尿病と高脂血症を伴う多臓器不全』です。
しかし、最重要ターゲットはもちろん女王と王配です。
前国王はクズを極めているので、ただの道具として、作戦完了までは絶対安静状態で息だけさせておきます。
その日のうちに前国王の回復の祈りのために、外交も登城も自粛が決定されました。
予定通りです!
私たちはターゲットにコードネームをつけています。
可燃ごみ・不燃ごみ・資源ごみです。
『可燃ごみ』は利用価値が無くなったら燃やして終わりの前王です。
『不燃ごみ』は1度粉々に粉砕して、使用可能部分のみを抽出する王配です。
『資源ごみ』は人体に有害な影響を与えますが、お金になる女王です。
そして『資源ごみ』を換金するための施設が、できたばかりの『アリジゴク』なのです。
怖いですねぇ~。
苦労した点は、この資源ごみの機嫌を損ねないようにすることです。
湯水のごとくお金を使って、私有財産をどんどん浪費して貰いましょう。
気づいたときには抜けられない。まさにアリジゴク!
怖いですねぇ~。
もしかしたら勘の良い方は気づいておられるかもしれません。
裏ミッションの最終目的は王家の血の根絶です。
しかも全てを秘密裏のうちにおこないます。
民心を煽ったクーデターとかは、いろいろ後始末が面倒なので狙っていません。
ですから、あくまでも秘密裏に。
排除するのは血筋だけです。
なぜ共和制を目指さないのか?
それは誰をリーダーとするのかとか、どうやって選出するのかとか。
やっぱり面倒じゃないですか。
だから、現段階では王制存続の一択です。
王家の血の根絶だけに目標を絞れば、さほど苦労もありませんし?
もしもこのまま王室制度を存続するなら、その後継者には政治センスも必要ですから、そこは保険として高確率でそれを持っているであろう王配の『ぴぴっ!』を使います。
王配はやっぱり小鳥……。
生まれてくる後継者(仮)が成人するまでの時間を使って、この国の形を決めるのです。
17年もあればモアベターな姿を決めることができるでしょうから。
その答えが王室存続なら後継者(仮)が後継者(確)に変わるだけですし、王室廃止ならどこぞの国に嫁に出すだけですから、どちらにしてもその子が不幸にはなりません。
次期王を宿す母体はただいま選定中です。
近日発表いたしますのでお楽しみに!
どうですか?
私が考えた『持って生まれたその美貌! 使わにゃ損だよ減るもんじゃなし作戦』
なかなかエグイと思いませんか?
でも私は大筋を考えただけで、実行するのは私以外の方達です。
なんだか申し訳ないなぁと思っていたら、アレンさんに言われました。
「そういう役割の人はフィクサーと呼ばれるとってもかっこいい人なのですよ」
うん! なんだかその響きがかっこいい! 気に入りました。
というわけでフィクサーの私は、お屋敷でひたすら掃除と刺繡をしています。
あまりお屋敷から出ない方がそれっぽいらしいです。
でもジュリアンがボソッと言いました。
「それって姉さんが動くと失敗するからじゃない?」
違う! と言えない自分がちょっと切ないです。
前王危篤の影響で公務が激減し、女王陛下も王配殿下も暇を持て余しています。
王配殿下は女王陛下のご機嫌取りの合間に、いそいそとリアトリス様と逢瀬を重ね、それに気づいた女王陛下は、ルイス様を呼び寄せる頻度が作戦前くらいに戻ってきました。
王配殿下の堪忍袋の緒が遂に切れたのでしょうね。
まあ、想定内です。
前国王のお陰で国全体が自粛期間中ですから、王宮内にもあまり人がいません。
ですから女王陛下が大好きな見せびらかし行為が空振りの連続です。
女王陛下のテンションはダダ下がり状態ですね。
暇だとロクなことをしませんから、ここはルイス様の頑張りどころです。
リリさん直伝の『逃げると追う』を逆手にとって『頑張って追うから絶対逃げてね作戦』を決死の覚悟で遂行中なのです。
暗部所属時代のスキルを活かし、こっそりその様子を見に行ったリリさん曰く、まだまだ甘いそうで、追ったら待ち伏せされていて、慌てて逃げ出したという失敗もあるようです。
でも3回に1回は成功するようになったらしいので、ものすごい進歩ですよね?
失敗して逃げている場面をたまたま見たジュリアンが、腹を抱えて笑っていると、ルイス様がわざわざ戻ってきて、涙目でジュリアンにデコピンしたのだとか。
義兄弟の仲が良くてお姉ちゃんはうれしいよ。
そして今日は遂に資源ごみを『秘密のお店』におびき寄せる日です。
何度も何度も繰り返しおびき寄せ、抜けられなくするための第一歩ですから緊張します。
エサは勿論ルイス様です。
ルイス様が傾国級のあの美貌で『秘密のお店』に一緒に行こうと誘い、2人で王宮をこっそり抜け出すという女王陛下垂涎のシチュエーション!
ルイス様に詳細をお伝えしたら、ものすごい勢いで抵抗されましたがマルっと無視です。
私は『最悪の場合、自慢の性剣をちらつかせてでも成功させてね』と手紙を出しました。
ただし見せるだけにして、とは敢えて書きませんでした。
我が国存亡の危機ですからね、多少は体を張る必要もあるのかと? 嫌ですが。
すると翌日、ルイス様からお返事がきました。
「私の性剣の初陣は絶対にルシアでと決めているから、他の方法で何とかする」
このお返事を読んだ私が、鼻血を出して寝込んだことは内緒です。
後でお話を伺ったところ『手をつないで秘密の通路から抜け出そう』というお誘いを、王配の前で実行するという、ルイス様としては命懸けの行動によって成功したそうです。
1度でもお店に入れてしまえばこっちのものです。
最初の数分はルイス様も同席して、頑張って盛り上げたそうですが、あとはアレンさん直伝の口説きテクニックを習得した若いイケメンたちが、女王陛下争奪戦をわざとらしく繰り広げたので、ルイス様が抜けても女王陛下は気づかず終始上機嫌だったそうです。
1人ではルイス様の美貌に勝てなくとも、束になれば何とかなる説が証明できました。
自分よりかなり若く、普段関わることの無い市民層出身の超イケメン達に、かわるがわる口説かれたのですから、さもありなんというところでしょうか。
「さあ、あなたたち! お好きなワインをどんどんお開けなさいな~」
女王様はその日だけでもこのセリフを10回は吐いたそうです。
お陰様で、ワインだけでも別荘を買えるくらいのお会計になりました。
その快楽にドはまりした女王陛下は翌日も誘ってほしいとルイス様に懇願されたそうです。
もちろんルイス様に否はございません。
嫌だと言ったら、潜入していたリリさんに柱の陰でお尻を叩かれたそうです。
リリさんのパンチのお陰でしょうか? 出血大サービスの手繋ぎも継続したルイス様。
そして翌日も、また翌日も、女王陛下は日参されました。
王配は女王陛下がいない間にリアトリス様と思う存分イチャイチャできるので、儀礼的に顔を顰めて見せるだけで、絶対に本気で引き留めたりしません。
なかなか使える王配です。
いつもお客様が1人というのも怪しまれるので、かつてルイス様にラブレターを出していたモブのご令嬢方をお誘いしました。
もちろんルイス様の名前で。
わらわらと集まってきたご令嬢方も高位貴族の皆さんです。
薄暗い店内ですし、スタッフは絶対に個人が特定できないよう配慮をしますので、まさか女王陛下もおいでになるとは思わないでしょう。
女王陛下と競うようにワインのグレードをあげていきます。
まさに青天井状態!
中身は同じなのにおバカさんたちです。
ルイス様は淡々と各テーブルを回り、その超超高額ワインを1杯だけお付き合いします。
全てのテーブルを回り終えたら、待ち焦がれた待望の自由時間なのです。
後は若いイケメンスタッフに任せて、ルイス様は短い帰宅を果たされます。
帰ってくるなりルイス様は私をギュッと抱きしめます。
ルイス様が言うには、純然たる生命維持活動なのだそうです。
大体いつも私の膝枕でうとうとしている時に、閉店時間だとスタッフが迎えに来ます。
するとルイス様は何度も振り返りながら、とぼとぼと馬車に向かわれるのです。
まるで市場に売られていく子牛が、荷馬車に乗せられているような?
走り去る馬車の音がドナドナドナドナと聞こえるのは気のせいでしょうか?
1度ルイス様の態度がスタッフ以外には冷たいと聞いたので、もっと愛想を振った方が良いのではないかと相談しましたところ、リリさんに素人は黙っとけと言われました。
恋する女性は、冷たくされることで燃え上がるものなのだそうです。
お勉強になりました。
いつか私もその心境を体験してみたいものです。
アリジゴクはすこぶる順調で、1日当たりの売り上げは概ね大きな屋敷一戸分くらいだと、マネージャーをしているアレンさんが言っていました。
この調子なら予定より早く資源ごみを破産させることができそうです。
アリジゴクの特製ワインは、資源ごみの分だけ大量の塩投入というレシピです。
マリーさんご自慢のお薬はイケメンスタッフが「あ~ん」といいながら、女王陛下に食べさせるフルーツやケーキに仕込まれています。
市場で大量に樽買いした安いワインが、たっぷりの塩を入れるだけで1000倍の値段になるのですからオイシイ商売ですよね。
癖になるかもしれません。
料理というのは、そのひと手間で価値が変わるというランディさんの言葉の通りです。
体に悪くてめちゃくちゃ高いワイン……女王陛下にぴったりです。
そろそろ資源ごみも保管施設送りにできそうなので、最後の仕上げは不燃ごみです。
可燃ごみの横に資源ごみを寝かせる予定の別邸という名の保管施設には、マリーさんがメイド兼薬師として詰めています。
そして資源ゴミも不燃ゴミも酒池肉林という沼で泳いでいる間の国政は、リリさんが秘書として見張っている? もとい、仕えている宰相がおこないます。
もちろん各部門長も全面協力です。
家族を暗殺の危機から救えるのですから、それはもう諸手を挙げた協力体制ですよ。
アレンさんはまだアリジゴクのマネージャーを継続中です。
気に入ったのでしょうか? まさか転職とか言わないですよね?
ランディさんは王配お抱えの料理長として、高カロリー低たんぱく野菜無しのおいしいお料理をせっせと作っておられます。
要するに日中屋敷にいるのは庭師のノベックさんと私だけです。
必然的に私は毎日床や窓を磨き、ノベックさんはせっせと薬草を育てます。
ランディさん以外は通い勤務なので、アレンさんが買ってくる夕食をみんなで一緒にいただきます。
夕食が終わるとアレンさんは出勤で、ほぼ入れ違いにルイス様が帰宅されるという日々。
そんな毎日が2か月も過ぎたころ、今までの請求書を女王陛下にお届けしました。
その金額を3度も見直された後、急激に血圧が上昇した女王陛下は無事に倒れました。
私たちの地道な努力で高血圧症状を起こしていたお体が、遂に限界を迎えたのでしょう。
医師団の診察は前王と同じ『高血圧と動脈硬化と糖尿病と高脂血症を伴う多臓器不全』でしたので、何の疑いもなく王家の遺伝として片づけられました。
実は前国王も女王陛下も意識はあります。
ぴくっとでも動いたら血圧が上がって死にますよ~とマリーさんに言われているので、動きたくても動けない状態のまま耐えるしかないのです。
お2人とも1度ずつ起きようとして数日間死線を彷徨ったらしく、それ以降は微動だにしていないそうです。
相当きついお仕置きですよね? お世話係のマリーさん、頑張ってください。
お支払いですか?
陛下は宰相に全権委任していますので、彼女の私財を処分して払っていただきました。
それでも予想通り足りなかったので、前国王から相続する分を処分して賄い、それでも足りませんでしたが、もう面倒なのでオマケしました。
これでお2人は恙なく破産です! めでたしめでたし。
これで当初の目的は達成できました。
ルイス様、心よりお祝い申し上げます。
これで毎日おうちに帰れますね。
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