第20話 王家の改善!現状把握と目標設定

 作戦会議を開くことになり、弟をすぐに呼び出しました。

 お尻を打たれるのがよほど嫌なのでしょう、残業を断って駆けつけたそうです。


「初めまして。えっと、お義兄さん?」


「ああ、初めまして。えっとジュリアン君だよね? 王宮に勤めているんだっけ」


「はい、義兄さんと同じ庶務部です」


「そうなのか。私はあまり本部には行かないから知らなかった。失礼したね」


「先輩方から義兄さんの苦労はいろいろ聞いています。皆さん心から感謝してますよ。でも僕としては姉さんのことがあるから、正直言うと怒ってます。だから義兄さんの黒い噂も全部姉さんにも話しました。ごめんなさい」


「噂だけで真実ではないことをこれから証明していくよ。正直に言ってくれてありがとう。実は先ほど改めて求婚して、受け入れて貰ったんだ。ちょっと順番が変だけど」


「そうですか。姉さん? 本当に良いの?」


 私は慌ててコクコクと頷いて返事をしました。


「勿論よ。スタート地点に戻っただけだし、ルイス様が1人で抱えておられた事情も理解したわ。だから私もルーアからルシアに戻る!」


「まだそこに拘っていたんだね……」


 アレンさんがジュリアンの肩をポンと叩きました。

 ジュリアンは肩を竦めて苦笑いです。

 まあどっちに転んでもコキ使われることは理解しているのでしょう。


「さあ始めましょうか」


 アレンさんの掛け声で、応接セットに代わり大きな会議机が真ん中に据えられました。

 ここが作戦会議のメイン会場になるのです。

 リリさんとマリーさんが紅茶を配っておられる間に、ちょっと疑問点を口にしてみました。


「あの、ランドルさんって仲間になるのですか?」


 いつの間にか普通に紛れ込んでいるランドルさんがビシッと固まりました。


「本当に厚かましいとは思いますが、私も仲間に入れてください。私も脅されて、妹の命を守るために仕方がなかったのですって言っても私のやったことは許されることではありませんよね」


 ランドルさんは泣きそうな顔になっています。

 そんなランドルさんの横に立ったルイス様が言いました。


「みんなも彼には思うところがあるだろうけれど、私は彼も仲間になってもらおうと考えているんだ。もちろん一番傷ついたルシアが望むなら、今ここで剣の錆にするが?」


 ランドルさんは真っ青になってビクッとしました。

 ちょっと面白いです。

 そんな様子に呆れたランディさんが言いました。


「なあ奥さん、この野郎を利用しないと相手の情報が入りにくいぜ? それにこの野郎は大いに反省している。何でもやるって言ってるし、使い捨ての駒ってことで置いておこうや」


 なるほど、さすがランディさん。

 もう全面的に納得です。


「わかりました。でも妹さんって大丈夫ですか? 裏切っちゃうことになりますよね?」


「妹は隣国に逃がしました。隣国に嫁いでいる叔母が結婚話を持ってきまして。本人も喜んだので、すぐに送り出したのです」


「じゃあ安全は確保できたのですね?」


「結婚相手は騎士ですし、結婚までは叔母が屋敷で花嫁修業させるって言ってますから」


「それは良かったです。では私も賛成します。ランドルさん、よろしくお願いします」


 ランドルさんが泣き笑いの顔で皆さんと握手しています。

 二重スパイの誕生です! ハラショー!


 全員で会議机を囲み作戦会議が始まりました。

 なぜか上座のセンター席にアレンさんが座って、私を手招きしています。

 彼が主参謀で私が副って感じ? かっこいい!

 私の横にルイス様が当然のように座り、私の手を握りました。

 私の心臓! ガンバレ!


「みんな現状は把握したね? ではまず目標を設定しよう」


 アレンさんが冷静に会議を進行します。

 するとノベックさんが手を挙げて発言されました。


「目標は旦那様のご希望が優先されるべきでしょう。旦那様は何をお望みですか?」


 ルイス様がキッパリと仰いました。


「あの女の魔手から逃れたい。毎日家に帰ってルシアと平穏に暮らしたい」


「では出世はいらないと?」


「出世どころか文官を辞めても後悔もしないさ」


 ランディさんが少し笑いながら続けます。


「それなら無茶しても問題ないですね。要するに女王様が旦那さんを諦めればいいんだ。では目標はそういうことで」


「でもそう簡単には諦めないんじゃない? 凄いご執心だもの」


 実際にリアルな話を聞いているジュリアンが肩を竦めて言います。

 怖いですね、それほどまでとは。


「なぜそこまでルイス様に拘るのかしら」


 私の質問にランドルさんが応えました。


「イーリス様から伺ったのですが、ルイス様に学生時代こっぴどく振られたことが原因みたいですよ。それを目撃したご令嬢方に笑われたとか?」


「なるほど。それで過度な見せびらかし行動か。めんどくさい女だな」


 皆さんうんうんと頷いていますが、相当な不敬発言ですからね?


「じゃあ義兄さんなんて目じゃないくらいの美人を侍らせれば、義兄さんは解放されるってこと?」


「かもしれないな」


 アレンさんは真剣に考えていますけど、国内にはいないと思いますよ?

 ルイス様ほどの美男は神の気まぐれでしか生まれませんからね?

 そんな方が私の手を握って……私を妻と……ふふふふふふふふふふ!


「姉さん! 大丈夫?」


 ジュリアンが慌ててハンカチで私の顔を覆いました。

 あらあら鼻血が出ていたようです。


「旦那様より見目麗しい男か。探せばいるかな?」


 ランディさんが腕を組んで唸りました。


「あの、私が探してみましょうか? 王宮に採用されるには顔面偏差値も関係ありますから、街中で探すより確率は高いですよ?」


 ランドルさんがそう言ってジュリアンを見ました。

 ジュリアンが何度も頷いています。

 顔面偏差? そこ国政に必要?


「でも平民でもそこそこの家じゃない限り、王宮に就職とか考えないでしょう? 意外と原石が転がっているかもしれませんね」


 リリさんが言いました。

 マリーさんも横で頷いています。


「じゃあそっちの方面は俺たちで探すことにして、ランドルさんとジュリアンさんには王宮内で探して貰おう。来年の採用予定者の顔も確認できるだろうし、なんなら学園で青田刈りもできるしな」


 ランディさん、発言は的確ですが不穏です。


「でも限りなく可能性は低いでしょうね。その線は時間もかかるし同時進行でもっと有効な対策を考えましょう」


「そもそも坊ちゃんはなぜ帰宅しなかったんです?」


 アレンさんが旦那様に突っ込みを入れました。


「帰りたくても帰してもらえないんだよ。しかも私の個室は女王陛下並みの警備体制だ。しかも、私が帰宅すると誰かが必ず怪我をするんだ。1度試してみたんだけど、3日連続で帰宅したら、3日連続で女王付きの侍女が骨折してた。帰らなければ何も起きない。帰ると誰かが怪我をする。帰れないんだよ」


「女王陛下恐るべし」


「今回は大丈夫なのですか?」


「今回は私が直接あの女に懇願してもぎ取った。条件は……言いたくない」


 余計に気になるじゃないですか!


「私はルイス様を信じていますから、大丈夫ですよ?」


 いえ、むしろ聞きたい。


「うん。休暇1日につきキス5回だ。それも皆が見ている場所で実行しなくてはならない。もちろん唇じゃないぞ! 手の甲や髪に……思い出しただけで吐きそうだ」


 ルイス様の顔色がみるみる悪くなりました。

 無理やり言わせてごめんなさい。

 でも……ぷぷぷ


「今回の休暇は何日ですか?」


「3日だ」


「じゃあ15回もキスされたのですね?」


「ルシア……容赦ないな」


 目の前でジュリアンが小さく首を横に振って私を止めています。

 私はハッと我に返りルイス様に謝りました。


「いや、君が謝ることではないよ。でも……うん。ごめんね」


 本当はどこにしたのか聞きたかったのですが、みんなの視線が刺さるので諦めましょう。


「休暇は今日を含めて3日ですね。有効に使わなくては」


 そうです! タイムイズマネーです!

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