第8話 配信スタート

 一週間後

 私はいつもの配信の枠で配信を行っていた。

 しかし、視聴者からのコメントはいつもより少しざわついていた。


 コメント

 :なんだ?

 :急に重大発表ってなんや

 :引退とかやめろよ?

 :流石に違うやろ

 :それだけはマジで勘弁


 その理由は私の配信のタイトルにあった。

『重大発表』


 なんの飾りもないそのタイトルに視聴者の方々はざわついている。


 その反応を横目に私は口を開いた。


「えーっと、この配信のタイトルにもある通り今日は重大発表をしたいと思っています。」


 コメント

 :引退ならまだ考え直せるぞ

 :早まるな

 :話なら聞けるから


 私の言葉に対してコメント欄に視聴者の方々のコメントがたくさん流れて来る。


 そのコメントに答えたいと思いながらも、私は先に重大発表を済ませることにした。

「私、月狐あかねは本日をもちまして――」





「通常の枠である3時から5時半以外の時間帯で、不定期に野球観戦配信を行っていくことをお知らせします!」


 コメント

 :ん?

 :へ?

 :そっちかいなw

 :バカ焦ったw


 コメント欄は当初、私が引退を発表をするだろうと考えていた人たちからの戸惑いに包まれていたが、次第に状況がわかった人たちの安堵に変わっていった。


 その反応を見て私は思わず口にする。

「えーっと、なんというか……皆さん私が引退しない事がわかって喜んでくれるのはありがたいんですけど、野球観戦の発表への反応薄くないですか?」


 元々、今回の配信のタイトルを決める段階で今回の反応をある程度予測できていた。


『視聴者がタイトルを見たときに私が引退するんじゃないかと思う⇛野球観戦配信だとわかって盛り上がる』


 今回の配信はこのように進むだろうと考えていたのだ。


 予想の前半はあたっているものの、予想の後半である『野球観戦配信だとわかって盛り上がる』雰囲気が殆どないのだ。


 そのような私の思いから口をついた言葉だったが、その答えは簡単にもたらされた。


 コメント

 :まあ、だってねぇ

 :謝罪配信のときに将来的な野球観戦生配信に含みもたせてたからな

 :思ったより早かったけどこれは想定の範囲内

 :正直こんなことで重大発表とかつけるなwばか焦ったやんかw

 :野球観戦生配信の開催への衝撃より、あかねちゃんが引退しないことへの安堵感が上回ってるだけだから


「皆さん……」


 どうやら私はファンの方々のことを見限りすぎていたらしい。


 こののことで驚いてしまうんじゃないか、と。


 しかし、よくよく考えてみると今渡しについてくださっているファンの方々は私が急に重度の野球ヲタだとわかってもついてきてくれた凄い人たち。


 これくらい、重大発表ではないのかもしれない。




 ――望むところだ。




 野球観戦生配信は重度の野球ヲタの私を受け入れてくれた恩返しの始まりに過ぎない。


 これから見てくれる人が笑顔で見てくれるような野球観戦生配信を作り続けて、それをもってファンの皆さんにお返しするのだ。


 これはただのスタートラインなんだ。


 私はコメント欄を見つめながら、拳を握りしめた。

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