ネトゲでパーティを組んだ奴らがリアル世界で近所の美少女だった件。

みりお

高嶺の花の優等生

第1話 居場所

 夏風美亜なつかぜみあは光って見える、目を開けていられないほどに。

 まぁ、実際は光ってなどいないのだが存在は強烈だ。

 俺とは真逆、天と地、太陽と月、いや、夏風は太陽だが俺は月ってほど格好良くはない、とにかく何が言いたいかというと同じ地球の同じ時間軸にいながら俺と彼女は対極の位置にいるのだ。

 夏風美亜はこの高校、私立三田園学園一の美少女であり天使で、美人にありがちな嫌味ったらしさも無く、人を見下すような事もしない……らしい。

 これはクラスメイトから漏れ聞こえた情報で、俺は実際に彼女と話したことも無く、恐らく視界に入れてもらったことも無いだろう。

 俺は陰キャで友達を作るのが苦手で、この高校に入って3カ月経つのに友達が出来ずにいた。

 て事は多分この先も出来ないのだろう、俺は誰からも認知されないモブキャラか、はたまた透明人間ってところで、存在感が無さすぎて高校で危害を加えられる事も無かった。

 夏風の周りには男女問わずいつも人が集まり賑やかで、食堂へと向かう今も友達やファンらしき取り巻きが衛星のように彼女の周りを歩いている。

 綺麗な黒髪だよな……前を歩く夏風の背中まで伸ばした艷やかな髪は綺麗なストレートで制服を纏った細い背中を隠している。背は多分俺よりちょっと低いくらいで165センチくらいか? ただし俺よりも腰の位置は高く、スラっとした長い脚は見ていて飽きない。骨格からして勝ち組、後ろから眺めるシルエットだけでも、いや、影ですら美しい。

 風に乗って彼女から柑橘系の甘い香りが漂い、俺は思わず大きく息を吸い込んでしまった。

 このお姫様は俺にとっては地平線くらい遠い存在。実際、俺は彼女の触れた空気を吸い込む事くらいしか出来なかった。

 とはいえ俺は彼女に対して何の感情も持ち合わせていなかった。可愛いのは知っている、スタイルが結構良さそうで性格も穏やかそうなのも遠目で分かる、だけどそれはネット上にアップロードされるアイドル画像と何ら変わりがないのだ。

 言うなれば生物学的に異種、決して俺は彼女と交わることはない。

 そんな下らない事を考えつつ食堂に入り、俺は食券の券売機の列に並ぶ。

 もちろん俺は食堂で飯など食わない、ボッチが混み合う食堂の席を占拠するなどもっての外、俺が座れば周りの5席が無駄になってしまうからな。

 俺はいつも通りのテイクアウトメニューを買って独自に探し当てた校内の人目の付かない退避エリアに足を運ぶ。

 校舎西側の非常階段、そこの3階の踊り場が俺の定位置だ。この非常階段のドアの向こうは生徒が多かった時代の空き教室が並ぶエリアで、少子化となった今では贅沢な倉庫と化している。

「暑っ……」

 七月初旬、天気は快晴、日陰のコンクリートとは言えかなり蒸し暑い。

 俺は非常階段の踊り場に腰かけ、鞄からノートパソコンを取り出して、膝の上で折り畳まれていた液晶画面を開いた。

「しっかし昼のイベントなんて辞めてくれよな?」

 俺は焼きそばパンを咥えながらオンラインゲーム『アルドヘブン』にログインする。

 今日はレアアイテムを落とすファントムドラゴンが現れる合同イベントが行われる日だ。

 合同と言えば聴こえは良いが敵に与えたダメージポイントの上位者にしかアイテムは付与されない。

 さてさて、誰とパーティーを組むか……。

 こんな真昼間にログイン出来る輩は外国人かニート、もしくは俺みたいな学生くらいか?

 今回、6人パーティーを組むのは難しい。強い奴と組めばレアアイテムを貰える可能性は低下するが、かと言って俺より弱い奴ばかりだとそもそも戦闘が成り立たない。

 俺はゲームの中でも基本ソロで、決まった奴らとつるむことはなかった。

 ランダムで現れるプレイヤーを眺めながら何となくパーティーメンバーを選んて行く。これは感覚、職業、レベル、レアスキルの情報だけで頭の中に戦闘がイメージ出来る。

「う〜ん、何か微妙……」

 メンバー選びに苦慮していると下方の視界に動く物が一瞬見えて、俺は画面から目を離した。

 校舎の隙間の芝を一人の女子がキョロキョロしながら走っている、リボンは赤だから俺と同じ一年か? こんな人気ひとけの無いところにどうして……。

 いやいや、そんなことよりメンバーを早く決めないと。

 せっかく選んでいたメンバーは他のパーティーに奪われ、パーティー編成画面が空欄になって行く。

 やば……時間ねーのに。

 気を取り直して編成を再開する。何だか今度は勝てる気がしない……どうする? 俺より強い奴と組むか……?

 参加者が次々現れては消えて行く画面から感覚でプレイヤーをクリックしてキープする。

『ミーア、剣士、レベル96、二刀流連撃』

 二刀流連撃⁉ そんなのあったっけ? もしかしてキリト? 見てみてぇ……。

 俺のレベルは95、トップを狙える可能性は大いにある。

「行くか!」

 俺はそいつをメンバーに組み込み、パーティーメンバー決定ボタンを押してゲームの中の異世界に急行した。

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