没落した貧乏令嬢が借金返済目指してダンジョン配信していたら、クレイジーサイコ百合美少女率いる超絶金持ちギルドに買い取られました。~わたくしノンケでございますの!おやめくださいまし!~
ヤマモトユウスケ
第1話
「こん優雅~! 『旧華族令嬢ヴィクトリカ様のダンジョン探訪』へようこそ~!」
蝙蝠の羽を生やした空飛ぶダンジョン配信用カメラ、通称『目玉くん』に向かって、わたくしは優雅な挨拶をいたしました。
すぐに『目玉くん』下部に浮かぶホログラフィックディスプレイにコメントが表示され、次々と流れていきます。客入りは上々ですわね。
『今日いつもと違うダンジョンだね』
『どこなん?』
『樹海にしか見えない』
「ちょっと待ってくださいな、メモがありますの。どこやったかしら」
特注ドレスのポケットからぐしゃぐしゃのメモを取り出します。
ダンジョン
わたくしの場合はド優雅な赤いフリルドレス……、ただし、動きやすいよう膝丈のキュロットですし、軍服のごとくたくさんポケットが付けられておりますの。
防御力に関しては魔術と科学がどうのこうので大丈夫だそうです。
「えーと、ローラシア・カテゴリー、タイプ:ケルト&ゲール、幻想深度は1700から2000程度。場所は埼玉ですの。東京の上ですわね」
『上てw』
『北って言え』
『言い方がもうバカっぽい』
『メモをぐしゃぐしゃにしてポケットに入れるな』
『ケルト&ゲールってことはアイルランド神話系ですね』
『ダンジョン博識ニキ助かる』
『汚部屋に住んでそう』
『普段はジャージと便所サンダルで生活してそう』
「ちょっと! あんまりわたくしの評判を下げるようなことおっしゃらないで! 最近は私生活もお優雅ってことにしているんですから」
『しているって時点でもう違うじゃん』
うるせえですわね。
樹海のような風景の中を、適当に歩き始めます。
「わたくしが最近、婚活を頑張っておりますのは、以前にもお話したでしょう? ……『いい歳だもんな』は余計なお世話でございます。ていうかまだ若いですけど? わたくしまだ若くてぴちぴちですけれどォ~? 見てくださいまし、この無垢な微笑みを!」
『目玉くん』に向かって、両頬に人差し指を当てたカワイイポーズでにっこり笑顔を向けて差し上げます。ふふん、たまにはこうしてファンサをしませんとね!
「『キツイ』『アップにするのやめて』『松子無理すんな』――キツイってなんですの!? ていうか、松子ってどなたかしらねぇ~? わたくしわかんないですの~ほにゅにゅ~はわわ~。……おいコメ欄『松子無理すんな』だらけにするんじゃねェですの」
こいつら……。まあいいですの。
「さて、漁夫られる前にさっさと進みましょう。最近はどのダンジョンも攻略が早くて困ったもんでございます。『鷹崎家が強い』――ホントそうですわよね、あの幸せファミリーチャンネルめ。ま、このダンジョンの制覇報酬はわたくしがいただきますけれどね」
世界で最初にダンジョンが
終戦直後の日本、九州は福岡だったそうですの。日本地図の左の方ですわね。それから、毎日のように新たなダンジョンが世界中に生まれました。
地形を無視した広大な内部構造を持つ、異界への入り口。異形の生物たち。未知の素材と新技術の開発――。その時の動乱について、わたくしは社会の授業でしか知りません。世界がどうやって対応したのかも。
ただ、八十年経った今、ダンジョンは人類にとってごく一般的な存在、当たり前の
「わたくし最近、まァじでお金がございませんの。ダイバーも楽じゃねェんですわ、
『おいたわしや』
『おいたわしや』
『久々に見に来たら追放されてて草』
「こら! 『おいたわしや』じゃねェですの! 草を生やすなでございます!」
『親の借金背負ってダンジョン潜ってる旧華族のお嬢様って背景だけなら、ただの薄幸令嬢なんだけどな』
『本人がコレだからなんかおもろい』
『他人の不幸がいちばんおもろい』
「最低のリスナーおりますわね。……まあ
なぜダンジョン開拓なんて危険な事業を配信で垂れ流すのか。
その答えが、ダンジョン内部での使用に特化した固有魔術、いわゆるダンジョンスキルでございます。
通常、魔力の上限は百かそこら。非魔術系の仕事に従事する方々は、魔力なんて持っていても使いません。そこで、配信画面越しにダンジョン配信者に余った魔力を贈与するシステムを『目玉くん』の開発者は考えたのです。
そして、異界であるダンジョンは、地上よりもはるかに魔術の発動がたやすくなっております。地上では高名な魔術師百人が十日かけて行うような大儀式も、ダンジョン内でなら素人一人が一瞬で発動できたりしてしまうほどに。
……ただし、スキルの内容は魂ごとに違うため、個人差が大きいのですが。
ともあれ、ダンジョン配信者には投げ魔力と異界の特性、己の適性を組み合わせた、自分だけの
「お。階段ですわね。潜りますわよ~」
木々の隙間に、石でできた地下への階段を見つけましたの。第二階層への地下階段ですわね。階段を降りた先もまた、樹海でございました。ただし、先ほどよりも暗くなっております。それに……。
『モンスターだ』
『黒い犬?』
『幻想深度1700から2000ならフィニアンサイクルからアルスターサイクルまでですから、犬と猪と巨人がメインかと思います』
『ダンジョン博識ニキいつもありがとう』
『さんくすダンジョン博識ニキ』
大きな野犬型モンスターが数頭、階段降りてすぐに陣取っておりますの。
わたくしは腰を落として構えつつ、得物を鞘から抜き放ちました。両手に一本ずつ剣を持つ双剣スタイル。そのどちらもが短い防御用直剣のマン=ゴーシュ。当然、ダンジョン産の素材で鍛えた特別製。頑丈さが特徴でございます。
野犬型モンスターが吠え、わたくし目がけて迫ってまいりますけれど、問題はございません。なぜならば……。
「お~ほっほ! 高貴なわたくしに野蛮な牙も爪も届くことはございませんの! わたくし回避と受け流しがハチャメチャに上手でございますから!」
『自分で言うなよ』
『パリィうっま』
『多対一で喋る余裕あるの凄い』
『喋らなければ美しい戦闘をするお嬢様なのに』
『でも決定力なくね?』
『スキルあるから大丈夫でしょ』
『来るぞ』
『そろそろ来るぞ』
犬どもの攻撃を受け流しつつ、わたくしはホログラフィックディスプレイの端に表示されている投げ魔力カウンターを確認いたします。……五万ポイント、到達!
さあ、行きますわよ……!
くるくると舞いながら剣を振り、短縮詠唱にてスキルを励起。
「さあさあ、おいでませっ! 【
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