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「うう、あそこまで怒らなくてもイイのに」
ピアノと歌のレッスンの合間を抜け出し、アルフレッドに逢いにいっていたが、少し遅れてしまったため、こっぴどく怒られてしまった。
罰として、課題が沢山出されてしまい、アルフレッドに渡すお菓子が作れない。
一瞬、メイドたちに頼もうかと思ったものの、何故だかわからないが自分の手で作りたいと、他の人が作ったものを渡したくないという気持ちが強かった。
(こんな気持ち、初めてだわ……)
自分の作ったケーキを美味しい、と言ってくれたアルフレッドの声が何度も頭の中で繰り返される。顔の表情までは暗くて読み取れはしなかったものの、声からは感情が伝わってくるようだった。
引き出しの中に隠すように入れた白のレースのハンカチを取り出すと、ケーキを包んでいた甘い香りが鼻につき、思わず笑みが零れてしまう。
(嗚呼、早く明日にならないかな……待ち遠しいわ)
甘い香りのするハンカチを握りしめ、切に願うフィオネのことを窓に降り立つ数羽の鳩だけが見ていた。
「すっごく似合うわ!」
「……どーも」
(何故、こうなった!?)
アルフレッドはがくっと肩を落とす。
きらきらと宝石のように微笑むフィオネと、げんなりしながら座り込む正反対の二人が獄中にいた。アルフレッドぼ頭の上に載っているのは、花の冠だった。
銀色の髪によく映える赤色と白色の花の冠。
(昨日は、ケーキ。今日は花の冠か……)
はしゃぐフィオネと、どこか疲れ切った様子のアルフレッドがそこにあり、彼は隠すこともなく重い溜息を付いた。
お菓子を作る暇のなかったフィオネは、近くで花を摘み、花で出来た王冠を作り、アルフレッドの頭に乗せたのだった。
「すごくかっこいいわ! ほんと、王子様みたい!」
「王子様、ね」
フィオネの言葉を反芻し、自嘲気味の笑みを浮かべる。幸い、獄中は暗いため、そんなアルフレッドに気づく様子はない。
「レリ、この花なんの花かわかる?」
「……ん? この匂い……ああ、ユリアーナ……とベランか?」
「すっご……花詳しいの?」
「……まーな」
褒められることに慣れていないのか、ふいっと顔を奥に向けるアルベルト。
そんなアルフレッドに少し得意げに話す。
「ユリアーナの花言葉は、『自由』と『愛』で、ベランは『恋の訪れ』と『平和』ってのは知ってたかしら?」
「ああ……」
「知ってたのね……」
心底がっかりしたような声で、フィオネが独り言のように漏らした。
それに対し、苦笑気味で「なら、裏の花言葉ってのは知ってるか?」とアルフレッドは口を開いた。
「え? 裏?」
アルフレッドの言葉を受けて、細く白い指を唇に当て、少し考える仕草をし、すぐにわからないというように頭を小さく横に振る。
アルフレッドはそんなフィオネの動作が見えてはいないが、返答がない事から知らないと結論付け、口を開いた。
「知らないみたいだな……ユリアーナには裏の花言葉があって、『女神からの寵愛』と『死への憧れ』だ」
「はじめて聞いたわ……」
「だろうな」
関心したようにフィオネが話す。
「でも、《ユリアーナの花》は知ってんだろ?」
「え、ええ……知ってるわ?」
「その話が元になった生まれた花言葉だよ」
「へぇ……博識なのね、レリって」
「無駄な知識があるだけだがな」
「そんなことないと思うけど……」
ポリポリと頭を掻く仕草が、どこか幼い感じがしてフィオネは目を細めた。
「……なぁ、」
「なあに? レリ」
言葉を止めたアルフレッドを不思議そうな顔をしながら続きを促すと、「その、《ユリアーナの花》、聞かせてくれないか?」と少し言いにくそうにそう告げた。
「え?」
「……久しぶりに読みたくなったが、こんなところじゃ読めやしない……だから、ああ、難しかったら大まかなストーリーを話してくれれば……」
「いいわ。話してあげる。私その話好きだからほとんど暗記してるもの」
「そっか」
ふっ、と小さく笑い、がしゃんと鉄格子にもたれ掛かるアルフレッド。
聞く体制を作った彼を尻目に、フィオネは目を閉じて話し始めた。
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