ルームシェアの相手は学校一の美少女でした。

或守 光

プロローグ

 今は春の季節。桜の花弁はなびらが舞う。

 俺は、近所にある大鳳神社たいほうじんじゃに来ていた。父がここの宮司と知り合いで、俺もよく連れてこられる。

 やることもないので境内けいだいを歩いていると、桜の木の下で女の子が泣いていた。

 ここには俺と同い年の宮司の娘もいるが、今俺の目の前で泣いているのは違う知らない女の子だった。

 年の頃は俺とそう変わらないだろう。

 どうして泣いているのかと聞いたが、返答は帰ってこず、全く泣き止む気配がない。

 だから俺は、その時たまたま持っていたゲームを取り出して、少女にゲームをやろうと言った。

 すると、少女は初めて反応を見せた。

 俺は別にゲームが好きなわけじゃない。どちらかといえば本を読んでいる方が好きだ。いや、どちらかといえばなんて言葉が要らないくらい読書が好きだ。

 だが俺は、本を外に持ち出すのは嫌いだ。

 本を外に持ち出すと、ヨレるし、焼けるし、角は折れるしで、良いことが一つもないからだ。

 だから俺は、この時話題だったストーリーが良いと言われていたゲームを持ってきていた。

 俺は少女の隣に座り、ゲーム画面を見せる。

 少女は泣き止んでゲーム画面をのぞき込んでくる。

 俺は淡々とゲームを進めていった。


『――――好きだよ。大好き』


 ヒロインのセリフでゲームが終わると、俺たちは二人して泣いていた。

 このゲームは所謂いわゆる泣きゲーというやつだった。

 二人して泣いていると、俺の両親が何事だと駆けつけてきた。

 俺が泣きながら説明すると、両親はほっと安堵した表情を浮かべた後、帰るぞと言ってきた。

 俺は頷いて両親について行く。

 ちょっと進んだところで、さっきまで一緒にゲームをしていた少女に呼び止められた。

『な、名前! 何て言うの! 』

 俺はそこで、初めて少女の泣き声以外の声を聴いた。

 俺は笑って答える。

 『時雨壊しぐれかい! それが俺の名前! 』

 俺が答えると、少女は涙を浮かべながら初めて満面の笑みを浮かべた。

 そうして俺たちは、一期一会の出会いを果たした。



          ◇◇◇



「ふぁーあ」

「おいおいでけーあくびだなー」

 俺が欠伸あくびをすると、隣にいた男子が話しかけてくる。

「うるせぇ。口元隠してんだから別にいいだろ」

「ははっ別に悪いとは言ってないだろー」

 普通にウザいな。

 と、下らんことは置いといて。

 俺の名前は時雨しぐれかい。二か月前に、この私立しりつ朱鷺環ときわ高校こうこうに入学した新入生だ。

 そしてこの、俺の隣にいるのが小学校からの腐れ縁の江風かわかぜれいだ。イケメンだ。もう凄い金髪イケメンだ。金髪碧眼とかどこのラノベキャラだよ! もちろん女子からはめっちゃモテる。最低月一で告白されてるという噂まで流れるほどだ。まぁ俺は真実を知らないけれど。何故かって? そんなの俺だって深堀されたら嫌に決まっているからだ。聞くわけない。

 こいつは普段馴れ馴れしいが、根は良いや――

「おいおい腐れ縁とは冷たいなー、親友だろー」

「なっお前心でも読めるのか⁉ 」

「えっ、ほんとにそんなこと思ってたのか⁉ 」

「あっ」

 俺は慌てて口を手で塞いだが、もちろん遅かった。

 零がうりうりーと人差し指を俺の頬にグリグリしてくる。――普通にウザい。

 それにしても、随分懐かしい夢を見た気がする。いつのことだったか……。

「壊くん~零くん~何話してるの~」

 そんなことを思っていたら、後ろからのんびりした声が響いてきた。もう夢のこと忘れちゃったじゃん! あともうちょいで思い出せそうだったのに!

「おっ、朝姫あさひ一人? 」

「うん。もうそろそろ夜宵やよいちゃんも来るんじゃないかな~」

 この朝姫と呼ばれた少女はおおとり朝姫あさひ。彼女も昔からの幼馴染というやつだ。

 実家の近所にある、大鳳神社という神社の宮司の一人娘で、よく神社の手伝いをしている。

 俺の両親と朝姫の両親が親友で、俺と朝姫は小さいころから一緒にいることが多い。

 紅蓮のような真紅色の髪をハーフアップに括っていて、その瞳は優しい桃色の瞳をしている。体つきも中学くらいから急成長して、さらに丸みを帯びたというか、校内でも一、二を争うくらい大きい。何かとは言わないが、多分Hくらいあるんじゃないか? …………何冷静に分析してるんだ俺。

「あっ! 朝姫はっけーん! お待たせー。いやぁー戻る途中友達に捕まっちゃって遅くなっちゃった」

「ううん大丈夫だよ~。夜宵ちゃんはみんなから人気だからね~お疲れ様~」

「うぅ……朝姫ぃ~私の天使~」

 そう言って夜宵やよいと呼ばれた少女が朝姫に抱き着く。それを朝姫は優しく受けとめて、頭を撫でている。

 この夜宵と呼ばれた少女は朝姫の友人らしく、小中と違う学校だったが、高校でやっと一緒になれたと喜んでいた。しかし、そんなことよりさっきのは聞き捨てならないな。朝姫は俺の天使だ。誰にもやらん。いや、俺も貰う気はないが。

 わかるだろう、こう、なんか、こう、好きだけど付き合うとかそういうのじゃなくて、もう見てるだけでいい的なアレ。そう、アレなんだよ!

 まぁそんなことはいいんだ。それより――

「はぁ……放課後だってのに、何でお前らは俺の席の周りでこんな騒いでるんだ? 早く帰れよ」

「あ、いたのね。壊くんと零くんも。全く気付かなかったわ。もう朝姫が眩しくって~」

「もう夜宵ちゃん~今は朝じゃないよ~」

「なぁ、なんか夜宵機嫌悪くないか? 」

「ん? ああ、そうだな。確かに」

 そんな俺たちの会話を聞いていたのか、夜宵が嫌なものを思い出したかのような顔をしながら答えてくれる。

「また同じ男子に告白されたの。何度も断ってるのに……今回でもう九回目よ! 」

 えっ……九回目⁉ その男子メンタル強いな。俺じゃ一回でもう粉々だ。豆腐メンタルだ。

 すると、零がもっともな疑問を唱える。

「なぁ、どうやって断ってるんだ? 」

「そんなの決まってるじゃない。私には既に想い人がいるから無理ですって断ってる」

「あー、そりゃチャンスあると思っちゃうわな」

「なんでよ⁉ 」

「いやそうだろ、そんなのよくある断り文句だし、そんな人いないと思っちゃうよな」

「うぅ……本当のことなのに……」

 えっ⁉ 本当にいるの想い人! え、じゃあ何でこいつ……

「もう、朝姫に私をもらってもらおうかなー! どうせ私じゃ振り向いてもらえないかもだし! 現に今だって…………」

「よしよし、大丈夫だよ~いつか絶対気付いてくれるから~。だってあんなに優しいんだよ~? 」

「うぅ……朝姫~結婚しよ~‼ 」

「ええっ! 夜宵ちゃん、私たち女の子同士だから日本じゃ結婚できないよ~」

 なんなんだこいつら、どっかの売れない芸能人か。

 いや、芸能人って言葉は一応あっているのかもしれない。

 俺は辺りを見回す。案の定、周りの奴ら全員の視線がこっちに集まっていた。俺はため息を吐く。

 まぁ注目されても仕方がない。何しろこいつらは――


「なぁ、見てみろよあそこ! 夜宵ちゃんと朝姫ちゃんが一緒にいるぞ‼ か、可愛い‼ 」

「は⁉ おいどこだ‼ 見えねーぞ‼ 俺にも見せろ‼ 」

「はぁ……零くんかっこいい……目があったら私死ぬかも……」

 …………死にはしないだろ。

「なぬっ! 校内の美男美女ランキングカースト上位の三人が揃っているだと⁉ 我も見たい‼ どけっ‼ 邪魔だっ‼ うわぁー‼ 」

 いや、最後の誰だよ⁉ 大丈夫か⁉

――と、まぁこの通り、こいつらは新入生にして、この高校のアイドル的存在だ。ちなみに俺だけは違うので勘違いしないでくれ。いつも巻き込みでこの熱い視線を浴びているこっちの身にもなってほしい。正直居心地が悪すぎる。

「はぁ……お前ら、早く帰るぞ」

「おう」

「はい」

「わかったー」

 三者三様に返事が返ってきたのを確認して、俺は席を立つ。歩き出した俺の後に三人がついてくる。

 それをギャラリーが見て、あれやこれやないことないこと言っている。あることなんてもうないって。

「なぁ、いつも気になるんだが何で時雨があの人たちを率いてるんだ? 」

「さぁな、もしかしてあいつ何か脅しでもしてるんじゃないか? 」

「何だと⁉ くそっ俺が絶対に夜宵ちゃんと朝姫ちゃんを助け出す‼ 時雨なんかに酒池肉林パーティーをやらせるもんか‼ 」

「えっ! 酒池肉林⁉ も、もしかして……時雨くんって男の子もイケるの⁉ だって零くんもいるものね‼ 」

「そうだよね‼ きゃー妄想が捗るわぁー‼ 」

 だからなんでそうなるの⁉ もう何なんだよこれぇ‼

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