竹馬の友は竹に雀を思い笑む~幼馴染みの集い・四~
「るん。それで、なんのお話ししてたるん?楽しそうだったるんね」
るるはみかんジュースの瓶の蓋をたてこうに開けてもらっている。たてこうは鞄から金属製の定規を取り出していた。
それで開けるのは良い。良いからお願い俺の方に向けないで。俺そういう時、蓋が弾いて当たる運、とんでもなく豊富だから。
そういう時に当たらない運所持者のらいあの後ろに逃げ込みながら、封筒が何処かへ隠されている事を確かめておく。
分かってるー、それの話はしない方向だよねー。
「幼馴染みの積もり積もった積乱雲みたいな話ー。なー、ちくば」
「そのとおおおーり!」
叫びと共に仁王立ちになるまさ。
動揺を大声で隠そうとしてんのか?勢い有りすぎだわ。るる目見開いちゃったじゃん! 逆効果だよ。
「ちくばに聞いたんだっての!」
はぁ……ほんとーぜってぇ俺帰るからな。疲れたわ。
何故だかまさとは、昔からしっくりこない間柄なのだ。もしかしたら、自分だけがそう感じているのかもしれないが。
「開けてみたら?学塔街の当主からの手紙」
しゅゆーーーーーーーー!と叫ばなかったのはらいあの後ろにいるからだ。叫びそうな気配を察知して慌てたちくばに、顔面を鷲掴みにされたからじゃないぞ。鼻、ちくば、鼻押し過ぎ。てか、知らなかったよ。お前の手デカいんだな。
「割と初めから聞いていたようだな」
らいあは冷静に甘酒を口に運んでいるし、しゅゆは澄ました顔で煎餅を半分に割ってるし、たてこうは瓶の蓋をカポンッと開けたし、るるときーさんはたてこうにコップを差し出してるし、せいはひめめを撫でている。
挙動不審になったのは俺とちくばとまさの三人だけだった。
せいが思いの外落ち着いているな。あれか?ひめめ抱いてるから驚かせないように踏ん張ってるのか?
「るぅーん。ごめんなさいるん。でも声があんまりにも大きいから隠してるつもりないのかなと思ったるん」
だよね。すんません。と縮こまる俺とまさ。
「いいんだよぉ。こいつら声でっかいからねぇ。ふぇふぇふぇ。ああ、しかしいいことだ。気配を消すのが上手くなったねぇ」
「るるんっ。るるはらいあ直伝るんから」
「ぼくとせいの師匠はきーさんだからね。上手くもなるよ。ね、せい」
「そうだな」
どうした、せい。
ちくばの手が離れた俺はらいあとちくばの後ろを通ってせいに近づいた。
「せい、お前熱あるんか?」
え?どうしてですか?と振り返るせいに、やはり違和感を感じる。
「なんか、かっけぇぞ」
「え?」
しゅゆがせいの顔を覗き込む。
しゅゆ近い。近いしゅゆ。せいの背中反ってるから。
「確かに。あれかな、韮をこっそり食べさせたからかな」
「こっそりにらかよ」
「うん、こっそり韮」
「ニ、ニラ入ってたの?」
「そう、韮こっそりね」
俺らが韮にら韮ニラ言ってる間に、らいあは手紙の封を切っていた。
封筒というか、封筒仕様の箱って感じだな。分厚い。
「どどどどどどどどうだ、らいあ」
「ななななななんて?なんて?らいあ」
ブルブルしてるまさとちくば。まさにはるる、ちくばにはたてこうがその背を支えていた。ちなみに腰のひけた俺の背にはいつの間にかこちら側に回って来たしゅゆの手が。
年長組、支えられまくりである。
「ん?」
んおおおおーっ! らいあの「ん?」ほんと怖い! 医者の「ん?」が怖いのと一緒な感じ! 早めに続きをお願いします!
「交流会案内状、だそうだ」
「「「「「「「交流会?」」」」」」」
「るん?」
「楽子の交流会だと」
らいあは便箋をこちらに向けた。
『 交流会案内状
大陸楽子の皆様、御家族、御友人、御知人の皆様ごきげんよう!
学塔街当主のーーーと申します。
学塔街楽子一同は、皆々様との交流会を開きたく、ご案内・招待状を送らせていただきました。
同封のものはご自由にお使いください。使用済み、使用前に関わらず、お返しいただく必要はありません。突然の事に混乱なさった方もいらっしゃるかと思います。謝罪の意も込めてお受け取りくださいませ。
交流会には私の孫、てんも参加致します。齢十になるかならないかのかわいい子です。話の好きな子ですので、どうか大陸の話をしてあげてください。てんも学塔街の話を喜んですると思います。
それでは、当日を楽しみにしております
学塔街当主ーーー 』
「二枚目」
『 交流会招待状
第千五十二回満月の市第七会場にて 現地集合現地解散 人数制限無し 途中参加退場有り
来愛様 真咲様 流嚨様 種赦様 生更木様 御友人御一同様も奮ってご参加下さいませ
学塔街当主ーーー』
「同封されてたの何?当主の名前だけ滲んで文字化けしてんのなんで?齢十になるかならないかってなんだ?満月の市ってそんなに開かれてんだな。ってか、たねゆるとなまさらぎって誰よ?」
「うしお疑問連発るん」
「おうよ」
「まず、きさらぎはあたしだよ」
きーさんが肩を揺らして笑いながら指で自分を指している。
えっ!?きさらぎ!?ごめん、なまさらぎだと思った。
「きさらぎかぁ。いい名前だな」
「あんがとさん。それとね、学塔街楽子は年を正確に明かさないんだよ。なんでかは色々説があるけど本当の所は分かりかねるねぇ。あっちの楽子に聞いてみな」
「聞けたらそうする」
「あと、学塔街当主は名前に呪いが掛かってるそうだよ」
「名前に呪い?」
「詳しくは知らないかったけどこりゃあ、あれかね。名前を覚えてもらえなくなってんじゃあないかね」
「やっぱ呪いなわけ?」
「さあて、呪いが祝福か……ふぇっふぇっ。どちらだろうねえ」
「祝福ぅ?名前覚えられないなんてどう考えても呪いじゃないか?なぁ、ちくば」
「……らいあに覚えてもらえないなんて、ぼく泣く」
ポロポロッとちくばの目から溢れキラめくもの。
おおおおやべえ! 泣いちゃったよ!
「あああ、泣かない泣かない。ごめん俺が悪かった!」
「こらるん、泣かしちゃメッ! でしょ、うしお」
「ホントごめんなさい!」
わたわたしているだけのうしおは置いとかれ、るるがちくばに木綿のハンカチを渡す。ごべんねぇ、とちくばが目を拭うが、刺繍部分だったらしい。イタカタイィ……。とまた涙目になっていた。
「あるんあるん。るるもよくするん。刺繍入れるのは楽しいるんけど、使うには痛みが伴うるんよね」
「うん、そうかもねぇ」
二人とも楽し気に話しちゃってさ。仲良くなったなぁ、お前ら。あのちくばに友だちが出来るなんて、おじさん嬉しいわ。
俺は親戚じゃないけど親戚な気分モードになってご満悦なのである。
「たねゆるはぼくだよ」
そう言ったしゅゆを見るとこちらの目尻にも光るものが。
え?名前間違えられて泣いちゃったの?やべえ俺しばらくここ来れなくなりそう。主に罪悪感で。
なんて思ったがたてこうが目を細めて首を横に振る。ちなみに、分かりにくいが目を細めているということは、たてこうも笑ってるのだ。
「しゅゆは問題ありません。うしおさんの読み方が面白過ぎて笑いが止まらなかっただけのようなので」
「そうだよ。流石にたねゆる読みは初だよ」
「そりゃ良かった。これしゅゆね。なーる」
「そう、ぼく。ぼくだけど名前を書かれる覚えが無いんだ」
ううん?ときーさんが首を傾げる。
「そうなのかい?……あれだ、どっかで楽子を助けたんじゃあないかい?遠回しにお礼を返してくる楽子もいるからねぇ」
「ふぅん、そうなんだ。そうかもしれないね。ぼくのこと知ってる楽子、探してみようかな?嫌がられるかな?」
「いんや、ハッキリ名前書いてあんだ。そりゃあ無いだろうよ。逆にその楽子から来ると思うがねぇ」
「ふぅん、分かった」
「うしお疑問の残るものはなんだ?えーと、満月の市の年月か」
まさはボリボリ煎餅を噛みながら言うのでなんて言ってるか分かりにくいが、たぶんそんなことを言った。
「年月?あたしのばーさまもそのじーさまもそのばーさまもそのじーさまも満月の市の話をしているらしいからねぇ。長いんだろうよ」
「やべぇ、きーさんのばーさまのじーさまのばーさま」
頭の中にきーさんが十数人ズラリと並んでしまい肩を震わせる。
やべぇ、きーさんのばーさまじーさま達がきーさんに似ている想像しか出てこねぇ。
「……たてこう、あたしの言葉の何処に笑う所があったか分かるかい?」
「いえ、全く。力及ばず申し訳ありません」
「いんや、うしお相手だから仕方がないさ」
「ですね」
何故か溜め息をつくきーさんとたてこう。
「同封のものって、何が入ってるん?軽いるん?重いるん?」
るるはらいあの手元の箱みたいな封筒を指先でツンツン突いている。
いっそのこと箱で送って来ても良かったんじゃないか、あれ。なんで封筒を箱型に折ったんだろう?
なんて考えながら興味津々に待つ俺。
らいあはるるに目元を緩めて頷いた。
「軽いぞ」
らいあは箱型の封筒から箱を引っ張り出した。
箱入ってたんかい。
無包装の箱は漂白されていない紙で作られた色をしていて、素朴な見た目だ。らいあの手のひらに収まるサイズ。幅は縦横共に文庫本くらい。厚さはまつごろうの尻尾の一番太いところくらい。
「なにるん?なにるん?」
もともと全員で輪を描いて座っていたので、その穴を縮めるように近付く。
「どきどきするな! るる!」
「まさちゃん、るるのおみみばーんなるん」
「すまない! どきどきしてつい声が大きくなってしまったな!」
「まさちゃん、るるのおみみぼーんなるん」
手で耳を守るらいあの右側に座るるる。るるの右側は好奇心迸るまさだ。
「きーさん、狭くありませんか?」
「ありがとう、たてこう。狭いが大丈夫だよ。せい、あんたはもう少し肩張りな」
隣のまさに押されながらもきーさんの方へ体を倒さないように踏ん張るたてこう。たてこうに守られて保たれている幅をせいに分けようとするきーさん。ひめめが膝から下りたので背を丸めて小さくなったせい。
「うしおぉ、ぼくの服の裾踏んでるぅ」
「あっ、ワリィちくば。ってしゅゆ、俺の上に乗るなよ。つぶ、潰れる」
「がんばれ」
「そんな気の抜けた声の声援、俺は慣れてるぜ」
「慣れてるんだ」
「おう、俺は誰にも期待されないからなっ」
ハッハッハ! と得意顔の俺。
「ごめんうしお、ぼくが悪かったよ」
するりと降りたしゅゆの眉がこれでもかというくらい下がっている。
「いや、本気で謝るなよ。悲しくなってくるじゃねえか。いや、ほんと、本当に大丈夫だから。問題ないから、な?ほら、元気だせよぉ」
せいの隣であわあわする俺。そのちょっと斜め後ろで項垂れるしゅゆ。しゅゆと初めて会ったのに隣に居ても問題ないらしい、俺達を微笑ましく見守るちくば。の隣のらいあが、開けるぞ、と呼び掛けた。一同の視線は一気に箱に向いた。
らいあの手が蓋を鷲掴み、引き上げた。
「印籠型の箱だね」
ちくばがポツリと呟いた。それ以外言いようがなかったのだ。
「中身空るん」
そう、空だったのだ。
え、嘘ーん、贈り物、箱のみなの?箱使ってください的な?え?本当に?
ケホッコホッ。
誰か咳したなー。と思ったくらいだったのに。視界の端で、何かがぐらりと倒れて行く。
「らいあ!」
ちくばの叫びが鼓膜を貫いた。
それと同時に、俺は懐からそれを引き抜いた。
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