とりのなまえ<たけどんぐり~前編~

「“とり”ってみんな呼ぶけど、あの鳥とこの鳥とあっちの鳥とこっちの鳥と飛んでる鳥と卵の鳥とみんな違うんるん。みんな食べられるから同じ言葉の括りに縛ってあるん?」


  るるは、焚き火から大股に一歩程離れた砂地にしゃがんでいた。

  るるの左隣の子はそんなにたくさん鳥は見えるのか、と首をあちらこちらへ向けていた。

  るるの斜め右前の人は、焚き火に枝を投げ入れながらにこにこ笑って、るるの問いに返事をしていた。


「そうかもねぇ」


「不思議だなぁるん。鳥はなんで“とり”って呼ばれてるん?“と”んでる“り”こうな子だからるん?それとも“と”んでもなく“り”ゆうもなくおいしいお肉だからるん?」


「そうかもねぇ」


 るるの左隣の子は首が疲れたのか、サリサリと首筋を擦りながら焚き火に顔を向けた。


「鳥がとりでなかったらなんて呼ばれるんだろうねぇるん。あ、“羽の生えているおいしいお肉の子”かな、“空を飛ぶやわらかなお肉の生き物”るんかな?」


「そうかもねぇ」


  るるの左隣の子の左に座った子は、竹の葉を縦に裂いて遊んでいた。


「そういえば、同じ見た目の鳥でも味や固さが違うこともあるん。だったら見た目が違ったら味も固さも違うんだろうねぇ、るん」


「そうかもねぇ」


 るるの左隣の子は首を擦るのを止めて、るるの斜め右後ろの子からポンと投げられたどんぐりを受け取った。そして手の中でコロコロくるくるしてから、ポンと投げ返した。


「るるは鳥を調理するの得意るん。お肉を固くしないで焼いたり煮たり出来るん。知らない鳥のお肉もきっと出来ると思うるん。だって、鳥は鳥だもんね、るん。でも、やっぱり、食べてみないと分からないこともあると思うるん。経験って、大事よるんね」


「そうかもねぇ」


「ほ、ほんとに世の中ではどの鳥も食べられるんるん?るるは卵を産む鳥しか食べたことないるん。お家で飼ってる子達みんな、卵もお肉もおいしいるんよ。でももっと違う味があるんなら、料理も広がるん。経験って、大事よるんよね?」


「そうかもねぇ」


 にこにこにこにこ笑っている斜め右前の人の気配を読み取りたいるるは、ここ一番の汗を流していた。


 くれるん?くれるん?それ、くれるん?焼き鳥くれるん?るるなりに鳥アピールはしたるんけど。知識、料理への興味だけでは足りなそうるんねー。あとは……褒め?


  るるの左隣の子はどんぐりを斜め右後ろの子と投げ合って遊んでいた。

 左隣の左の子は笹の葉を細かに裂くことに余念がない。


 ふむるん。この子たちは食べられる前提で落ち着いているんかな?それとも食への欲が少?ふむるん。るるは多るん。


「あの、あ、あなたさん、お料理お上手ですね。とってもいい香りるん」


「そうかもねぇ」


 るる褒めれた?上手に褒めれたるん?あなたさん、褒められてるんよ。褒められてるんを気付いてるん?手応えがないるん。ふむるん。失敗か。


  援護を貰えないかとみんなを見ると、るるの左隣の子の左に座った子は竹の葉が裂け切ったものを凸凹と模様を描きながら編み込んでいた。

 え、すごい。ほぼ職人技では、るん?るるに一皿編んでほしいるん。でも、それに集中し過ぎて援護は求めれないるんね。

 ああ、どんぐりが宙を舞っているん。

 今この瞬間この世界では、竹とどんぐりが肉より強しと学ぼう、るん。


 どうしよう。にこにこの人はにこにこだけどにこにこなだけだし。

 どうしよう。るるはるるだけど肉を食べれないるるはるるだけどっ、るるだけどっ。


  ええいっ、とるるはとうとう叫んだ。


「……るん、るっ、るる、るるはあのっ、そのお肉、いま焼いているお肉を食べたいですっ!! るんっ! 」


 にこにこ笑いながら串をひっくり返していた斜め右前の人は、ちょうど良く焼けた肉を地面から引き抜いた。


「そうかもねぇ」


 にこにことるるに手渡す。


  瞳を輝かせたるるは「ありがとるーん! 」と受け取り、みんなに配られるのを待った。


  にこにこ笑う人は、首を擦るのを止めてどんぐりを御手玉にしていた子と、竹の葉を編んでいた子と、もともとどんぐりを御手玉にしていた子にも串を渡していった。


 すぐに囓ろうとした子たちにるるは言った。


「少し冷ましてから食べた方が言いるんよ」


  頷いた三人と二人の息を吹く音がしばらく続いた。


 そろそろかな、と恐る恐る噛むと、皆それに倣ってそっと噛んだ。

「んー! おいしいるーん! 」


 るるは唸った。


 うまいるん。うまいという言葉はこれのためにあるん。……ちょっと言い過ぎたるん。訂正するん。うまいという言葉はこういう時に使うためにあるん。


「んおっ! おいしい! 」


「おいしーい」


「あ……おいしい」


「そうかもねぇ」


 ふむるん。みんないいお顔してるーん。


  各々食べ終えると、一人、また一人と竹串を焚き火に投げ込んでいった。


  首を擦るのを止めたがお腹を撫でている子と、竹の葉を編んだ小さな皿を手にした子と、どんぐりを握っている子はにこにこ笑いながら、手を繋いで帰って行った。


 るるも立ち上がり帰りかけるが、ふと思い立って振り返り尋ねる。


「るん。このお肉って、もしかして」


「そう、かも、ねぇ」


  るるは満足してもう振り返らず、竹の葉をサクサク踏んで帰って行った。


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