配信5:伝説のはじまり(バニーガール)
しばらく雑談も交えて時間を過ごした。
気づけばもう十九時前。日も落ちてしまっていた。そろそろ帰らないと親父から説教を食らいかねん。
それに、俺にはやるべきこともある。
「田村さん、そろそろ帰ろう」
「そうだね。また明日、学校で」
公園を出て、それぞれ別の夜道へ別れる瞬間。俺は少し心配になったと同時に、彼女の家がどこか知りたくなった。振り向いて田村さんに声を投げかけてみた。
「……良かったら家まで送ろうか?」
「ん、気をつかってくれるんだ」
「そりゃ、この時間帯だし……美少女ひとりを歩かせるとか危ないだろ。それにほら、有名人になったろ。だから、その責任が俺にもあるっていうか」
そうだ、誤動作とはいえ俺がボタンを押してしまった結果だ。そのせいで田村さんに危害が及んだら申し訳ない。
「そっか。じゃあ、お願いしようかな――って、まさか家を知りたいとか、そんな不純な動機じゃないよねっ!?」
「そんなことはないさ!!」
そりゃあ、家を知りたい。
でもそんなことを馬鹿正直に言えるかってーの。
「ホントかな~。でも、守ってくれるならいいかな」
「そのつもりだ。俺が田村さんを……ま、守るよ」
とはいえ、ケンカや格闘経験なんて皆無な俺。いざとなれば肉壁になるくらいしか出来ないけどな。頼むから、不良とかストーカーは現れないで欲しいね。
俺は田村さんを家まで送ることになった。
どうやら、学校から歩いてニ十分の場所にあるらしい。なかなか遠い場所から通学しているんだな。少し治安の悪い危険な道も通ったから、やっぱりついて来て正解だった。
「ここがわたしの家」
「豪邸だね。金持ちなんだ」
「う~ん、どうかな。普通だよ」
これが普通……?
一般的な一軒家の二個、三個分はあるような。庭もバーベキューが余裕できるほどに広いし。裕福な家庭なんだなぁ。
「じゃ、また明日」
「ここまでありがとね」
笑顔をもらい、俺は元気が出た。
俺は急いで家へ帰った。
すっかり遅くなってしまったぞ。
途中、大判焼きを購入。それから全速力で走って帰宅。
玄関で親父が仁王立ちで待ち構えていた。うわ、これは明らかにブチギレてんなぁ。
「お土産がある。ほら、親父の大好物の大判焼き」
「こぉら、鐘。こんな時間までどこで――む。それは今川焼きではないか!」
親父は大判焼きのことをそう呼ぶ。まあ、地域によって回転焼きだとか御座候とか色んな呼び方があるらしいからな。なんでもいいんだけどさ。
大判焼きで買収した俺は、そのまま二階にある自分の部屋へ向かった。
着替えもせず俺は早々にパソコンを起動。
すぐにネットの反応をチェックした。
すると掲示板に『胡桃』のスレッドがいくつも立っていた。動画投稿サイトでも切り抜きがいくつも発生。勝手に宣伝されていた。
そんな状況に笑いつつ、今度は自身のSNSをチェック。
今日も
日本には様々な悩みを抱えた人たちがいる。
俺はそんな弱者の味方だ。
腐りきった世の中を変えてやりたい、そんな気持ちもあった。でも、ただの正義感だけではなにも変わらん。SNSの影響力を使い、世間に事件を知らしめる。マスコミにはできない方法で俺は拡散していく。
【助けてください! 今日もイジメられて……】
【ゴリラさん、あなたの力で我が社の不正を……】
【パワハラが酷いです。ブラック企業の闇を暴いてください!!】
【ウチの先生が盗撮をしているんです……!】
【某男性アイドルのヤバい情報を入手しました。ゴリラさんに提供します】
【また迷惑行為の動画を発見しました。あなたの影響で拡散をお願いします!】
そうか、今日もみんな俺を求めてくるか。
もちろん、すべて対応してやるッ。
それが俺の“使命”なのだから――!
デュアルモニターで片方は悩み相談を受けつつ、もうひとつの画面で『胡桃』の様子を見いていく。
……さて、田村さんは今夜も配信するかな。
チャンネルを覗いてみると予約が入っていた。
へえ、二十一時にライブ配信予定か。これは見なければ。
俺はその間に仕事をこなしていく。
飯を食ったり風呂をを済ませると、時間になった。
田村さんの配信がはじまると視聴者数は一瞬で『10,000人』を超えてしまった。おいおい、中堅VTuber並みだぞ。
いつもは『1,000人』以下の底辺だったんだがな。俺の拡散からネットニュース、そして掲示板などあらゆる宣伝が功を奏した結果か。
となると、まだまだ視聴者数は上がっていくだろうな。
ライブ配信がはじまり、田村さん――いや、胡桃の姿が見えた。
『ども~、胡桃です。……は、恥ずかしいですけどよろしく』
照れながらも挨拶をする胡桃。
――って、バニーガールだああああああああ!!
肩とか谷間とか大胆に露出していた。な、なんてえっちな配信なんだ……。コメントもいい意味で大荒れ。すんげぇコトになっていた。
伝説のはじまりかな?
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