配信4:田村さんを人気にしたい(エロ方面で)
今俺にできることは田村さんを支えることくらいだ。
暴露系インフルエンサーの武器なんて拡散力だけだ。でも、良い方向に使えばきっと田村さんをトップアイドル級に出来るかも。
もちろん、エロい方で!!
「面白くなってきた」
「ど・こ・が!」
針を向けられた。イカン、ぶっ刺される。ハチの巣にされる前に、俺は弁明した。
「地蔵のように落ち着くんだ。さっきも言ったけど、お金の為に我慢してくれ」
「むぅ……。
諦めたのかスマホと針を引っ込める田村さん。ひとまず、俺と“協力関係”となった――ハズだ。
なぁに俺だって鬼畜ではない。
そりゃ、普段は匿名で社会の不正をブチまけているけどさ。可愛い女の子に対しては優しいのだ。今回のことだって別に悪気があったわけではない。
本当に偶然の出来事だった。
「今日は帰って普通に配信してくれ。バニーガールで」
「分かったわ。――って、バニーガールは却下。あんな露出度の高いコスは出来ないもん」
「じゃあ、体操着でいいよ。ちゃんとブルマーでね」
「ふぅん。猪狩くんって……わたしにそういうえっちなコスさせたいんだ」
ジト~っとした目で見られる俺。
正直……たまりませんッ!
ていうか、田村さんの瞳って宝石のようにキラキラしているんだな。知らなかったぜ。
教室を去り、そのまま昇降口へ。
校門まで向かい俺は田村さんに別れを告げた。
「じゃ、また明日」
「だ~め」
いきなり首根っこを掴まれ、俺はバランスを崩しそうになった。な、なんだァ!?
「なんだい、田村さん」
「もうちょっと付き合ってよ」
「デ、デートですか?」
「バカ……」
頬を赤くする田村さんは、俺をひきずっていく。案外、力強いんだな。
ズルズルと引っ張られて近くの公園へ。
奥様方や子供たちがなにごとかと見てきたが、気にしないことにした。しかし、これはいよいよ訴えられる予感……?
まあ、暴露系インフルエンサーの宿命ではあるけれど。
「俺は弁護士にしか話さないぞ!」
「は? なにを勘違いしてるんだか」
手を離す田村さん。俺は地面に倒れた。
「…………あ」
「なによ。さっさとベンチに座りなさ――あぁッ!」
スカートを押さえる田村さん。
素晴らしいものが見れた。
俺は今、モーレツに感動している。
人生はじめてスカートの中を見れた。
そうか、田村さんは情熱の赤なんだな。
「俺はピンクだと思っていたんだけどな」
「う、うるさいっ! いいから座って」
「もうちょっとこのまま」
「通報するよ?」
「分かった分かった。そのスマホを収めてくれ」
俺は立ち上がってベンチへ腰掛けた。田村さんは少し距離を取って座っていた。ウン、まあそうだよね。俺としてもその方が緊張しなくて済む。いや、実のところ常に緊張状態なんだけど。
「相談なんだけど、わたし……これからどうすればいいかな」
「俺はネットに拡散することしかできない。だが、田村さんには田村さんにしか出来ない、田村さんになら出来ることがあるはずだ。誰も田村さんに強要はしない。自分で考えて、自分で決断するんだ。自分が今なにをすべきなのか……まあ、悔いのないようにな」
「なにカッコつけてんのよ。それカジさんじゃん」
チッ、バレたかっ。
名言の引用はさておき、俺は真面目に回答した。
「配信がんばれよ。俺はずっと前から田村さんを見ていたけどさ……絶対に人気になれると思う」
「……そ、それ本心?」
「ああ、今のは本心だ。えっちな田村さんをもっと見たい!!」
「それが本音なわけね……。まあいいけど」
元気が出たのか、くすくす笑う田村さん。茜色の空も相まってとても素敵な笑顔だった。そうか、俺はこんな笑顔を田村さんから向けてもらいたかったのかもしれない。
ずっとずっと夢見ていた光景のひとつ。
「そ、そういえばさ……メッセージアプリの連絡先を交換してくれよ」
「猪狩くんって意外と勇気あるんだね」
「なぜそう思う?」
「だってさ、今まで誰かと会話しているところ見たことなかったし、いつもひとりぼっちだし……」
「そ、そ、そんなことはないぞ!!」(震え声)
「そうかな」
「少なくともネットには二百万人の友達がいるぞ」
「へー、すごいねー」
絶対、馬鹿にしてるだろっ!
その二百万人のおかげで有名になりつつあるんだぞっ。今に見てろ、俺の圧倒的な拡散力をな!!
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