配信2:最強のインフルエンサー(俺)
それからも授業は進み――昼休みになった。
俺はいつもながら、一人ぼっちで屋上へ行こうと思ったのだが、田村さんに止められた。
「ちょっと、どこへ行く気?」
「俺を呼び止めてどうしたんだい、田村さん」
「あのね、猪狩くん。あなたにわたしの秘密をバラされたら困るの」
「秘密もなにも配信だから、いずれバレるだろ」
「せめてクラスメイトにはバレないようにしたいの」
なかなか難しい要望だな。
などと考えていると、田村さんは歩きだした。本当についてくる気らしい。まあいいか。
屋上に到着して、俺はいつものように柵側を背にして腰掛けた。スマホを取り出し、ネットニュースを閲覧しようとすると、田村さんが覗き込んできた。
「うわッ!? 近いって!!」
「わたしの配信を見ようとしていない?」
「そうじゃないって。ニュースだよ」
「ならいいけど、絶対に秘密だからね!」
俺を信じていないようだな。
しかしこれは面白いことになりそうだ。
あえて昨晩の
「ふむふむ」
「――って、やっぱり配信見てるじゃん!!」
涙目になって慌てる田村さんは、俺のスマホを奪い取ろうと腕を伸ばしてくる。体が密着して、俺は超幸せなことに!!
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
田村さん柔らけぇ!!
せっけんの良い匂いがする。
そして、胸だ。ばるんばるんに揺れる大きな胸が俺の左肩に接触。人生最良の瞬間を俺は得た。
いやっほおおおおおおおおい!!
「配信さいこおおおおおおおお!」
「うわああああああああああん!! やめてええええええええ!!」
田村さん面白過ぎでしょ!
いちいち反応が楽しい。
「じゃあ、バニーガール」
「…………うぅ」
「それが条件だ」
「えっち! ヘンタイ!」
「どっちが?」
「…………くぅ」
悔しそうに涙目になる田村さん。バニーガールも秒読みだな!
俺は
最高かよ!!
――って、そうじゃない!!
「田村さん、ちょっと! あぶ……危ないって!」
「だって、だってぇ~!!」
ジタバタと暴れるものだから、俺はスマホを誤って操作してしまった。げっ……なにか押しちゃったぞ!
多分、大丈夫だとは思うけど確認してみるか。
画面を覗き込むと……恐ろしいことになっていた。
……あ。やべ。
「すまん、田村さん」
「…………へ」
「ボタン押しちゃった」
「な、なにを押したの? なになに!?」
不安で押しつぶされそうになる田村さん。うん、悪いとは思った。でも、もとはといえば田村さんが俺のスマホを取り上げようとするからだ。
結果、誤作動により
「――というわけさ」
「は? はああああ!? で、でもまって。猪狩くんのSNSって、そんなにフォロワーいないよね!?」
なんだよそれ、それでは俺がまるでネットでもぼっちみたいな言い方じゃないか。言っておくが、俺はネット界隈ではそこそこ名の知れた人物なのだ。
いわゆるインフルエンサーであり、イジメの悩みの相談を受けたり、不正を暴き世間に流布する、いわゆる暴露系を担っていた。
「まあ、田村さんにしてみれば雑魚かもな」
「教えて」
「え?」
「猪狩くんのフォロワー数だよ」
「そりゃいいけど。今は『200万人』だな」
「へ…………に、に、にひゃくまんにん……?」
「これでも減った方なんだぜ。一度炎上しているからな……わはは!」
がくがく、ぶるぶる震える田村さん。今にもぶっ倒れそうだった。どうしたんだ? ああ、まさか俺のフォロワー数にビビったか。
「馬鹿ああああああああ! そんなにいるなんて聞いてない!! まさか、つぶやいちゃった!?」
「あ、ああ……田村さんが俺のスマホを奪おうとするから、誤作動でね」
「ちょ、今すぐ消して!」
「もう拡散しちゃってるし」
「あああああああああああああああああああ!!」
ガックシうなだれる田村さん。この世の終わりみたいな顔してた。なぁに、ただのメイド配信動画が世に知れ渡っただけのこと。
「いいじゃん、有名人になれて」
「よくないよー! 細々とやろうと思っていたのに!」
「お、もう『いいね』が1000を超えた」
「せ、せん!? うそうそうそ!!」
「トレンド急上昇だな!」
「いやあああああああああああ!!!」
胡桃の名が一瞬で広まり、配信動画の再生数も上昇していた。俺の影響力が凄すぎた。 いやしかし、これは想定外すぎた。
ここまで田村さんが注目されるとは。
まずいな、これではアイドル並みの人気になってしまうかも。そもそも、田村さんは超絶美少女。なぜ人気にならないか不思議なくらいだった。
配信ではいつも視聴者数は1000を超えない、投げ銭もほとんど入らない底辺配信者であった。
それが今はどうだ。
SNSのトレンドが胡桃関連で埋まりつつあった。
“新時代”のはじまりかもしれない……!
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