日出の祈り

タチバナメグミ

 

私たちの生きる世界にも、朝というものがあり、昼というものがあり、夜というものがあります。太陽に似た何かがあり、それは、登ったり沈んだりします。太陽に似た何かが地平線の向こうに顔を出すことを、私たちはあなた達の言葉を借りて「日の出」と呼びます。

日の出が来ると私たちは太陽に似た何かに向かって攻撃を仕掛けます。あるものは突撃し、ある者は遠くから錆びついた狙撃をします。太陽に似た何かの反撃により、突撃部隊は熱に焼かれ一瞬で灰になります。狙撃部隊もまた、太陽に似た何かから伸びてくる大きな手に潰されてぐちゃぐちゃになります。たくさんの私たちが一度の戦いで死にます。私たちの生命サイクルは人類のそれより早く、単純ですから、死んだ側から同じ数生まれてきて、すぐに戦線に赴きます。

私たちにとって、太陽に似た何かとの戦いは存在をかけた大決戦で、最優先事項です。命や「私」という個の思想は、あなた達人類が思うよりずっと価値が低いのです。だから、死ぬことは、怖くありません。あの光の塊によって灰になったり挽き肉になったりすることは、私たちにとって勇気ある者の証であり、誇りです。

それに、太陽に似た何かも、無敵ではありません。殴りつけられればばきりと音を立ててヒビが入りますし、剣で切りつければ血も噴き出します。以前、狙撃部隊がぶち当てた砲弾が光球の真ん中近くに大穴を開けた時は耳をつんざく酷い悲鳴をあげていました。それがとても愉快で、私たちはいっとき戦いを忘れてけらけらと笑い声を上げてしまいました。

この戦いは、決して、私たちの敗北が決まりきった戦いではありません。不利ではありますが、確実に太陽に似た何かを日々追い詰めているのです。それでも、あなた達人類は、私たちの戦いを不毛なもののように感じるかもしれませんね。

私たちは、いつ来るかしれない、けれどいつか来る「日の入り」まで、何度も太陽に似た何かを拳で殴りつけ、剣を突き刺し、砲弾を浴びせるでしょう。静かな夜を目指して、私たちは死を積み重ねるのです。

太陽に似た何かの叫び声が聞こえます。私たちの断末魔を切り裂いて響くそれを、あと何度、私は聞くことができるでしょうか。

親愛なる人類へ。この手紙が届いているなら、どうか、私たちのことを忘れないで。今この瞬間も、あの光の塊に向かって死ににいく私たちがいることを、どうか、せめて、忘れないでいてほしい。それだけを、祈ります。

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