第13話 マジカルマジック

「おはよ、ルイくん」

「よう」


 いつもの待ち合わせ場所、いつもの時間。樹にもたれかかって待っているルイにさらりは手を振り、小走りで近寄った。


「ねえねえ、見て見て!」


 さらりは斜め上に向かって人差し指を伸ばす。その先端から、ぴゅーっと水が飛び出した。


「指から出るようになったの!」

「へえ、すげえじゃん」

「反応薄いなあ。けっこう頑張ったんだよ、家に帰ってからもずっと練習してたんだから」


 帰宅して夕飯を食べ終えたあと、宿題もそこそこにずっと【水魔法】の練習をしていたのだ。ルイの反応は薄かったが、何しろ魔法である。魔法を使ってモンスターを倒すなんて、まさにファンタジーの中の世界だ。そういった本を何シリーズも読んできたさらりが、憧れないはずがなかった。

 何度も口の中に水が出てきてお腹がたぷたぷになりながらも繰り返した結果、ついに指先から水が出たのである。一度上手く行ったら感覚を掴め、二度目以降は失敗しなかった。指先から出る量や勢いも多少コントロールできるようになり、こうして水鉄砲くらいの威力は得られるようになったのだ。


「それじゃスライムも倒せそうにねえけど」

「今はね。もっと使いこなせるようになったら、テッポウガエルみたいな破壊力の魔法だって出せるかもしれないよ。そしたらさ、水の威力でズバーン! ってモンスターを倒せるの。かっこいいじゃない、魔法だよ?」

「魔法はすげえけど。そんな強くなるなら皆使ってると思うんだよな。昨日久々に深層探索者の配信見たけど、やっぱり魔法なんて使ってなかったぞ」

「そっかー、使えないのか……でも、もう少しやってみようかな。シャワーくらい出るようになったらさ、ダンジョン内で泊まることになったときもさっぱりできるもんね」


 深層に向かうにつれ、探索には宿泊が必要になる。さらりの目指す30層は、移動だけでも往復1週間はかかるとされている。もちろん、ダンジョンごとに転送陣の位置が違うため、早く潜れる場所もあればやたらと時間のかかる場所もある。来見ダンジョンがそのどれに当てはまるのかは、まだわからない。


「泊まりかあ、大変だよな。昨日見た配信者、でっかいリュック背負ってて重そうだったぜ」

「私たちは【収納庫】があるから、荷物が少なくて済むのはいいけどね」

「いいよなあ、【収納庫】。俺もそういう便利なスキルが欲しかったぜ」

「大丈夫、泊まるときにはルイくんの荷物も持ってくよ」

「そんなの当たり前だろ」


 実際に泊まりで探索するとなれば考えるべきことはたくさんあるが、今はまだ先の話。世間話程度に話しながら、さらり達は虹の膜をくぐる。

 習慣となったドローンの起動をし、黄色いランプが光るのには気づかぬまま宙へ放つ。


「今日は4層に行くよな?」

「うん。4-5層転送陣を起動するところまで、行けそうだったら進もう」

「了解。さっさと行こうぜ、もたもたしてたら日が暮れちまうぞ」


 1層から2層へ、2層から3層へ。一旦外へ出る度に同じ道を行き来しなければならないのは、少々億劫だ。


「めんどくせえな、いちいち歩くの。昨日もここ通ったぞ」

「……【加速】で移動してみる? ルイくんのこと抱えたら、一緒に行けるよね」

「できんのかよ? 昨日もすっ転んでたろ」

「集中すれば、真っ直ぐ走るのはできるようになったからすぐには転ばないと思う。ルイくんが方向教えてくれて、転送陣が近づいてきたときに教えてくれたら止まるよ」

「んー……ま、いいだろ。やってみようぜ」

「それじゃ、持ち上げるね」


 ルイの許可を得たので、早速さらりは彼に手を伸ばす。


「は? 持ち上げるって……おい、これ! 何だよ!」

「何って、お姫様抱っこ」

「やめろ! 恥ずかしい、下ろせよおい!」

「本当に力も強くなってる……ルイくんのこと抱っこしても、全然重くないよ」

「どうでもいいから下ろせってば!」


 ルイは陸に上がった魚のようにぴちぴちと腕の中で跳ねているが、さらりの体勢が崩れることはない。どうやら、ダンジョンでモンスターを倒したことによる恩恵で腕力も上がっているようだ。


「ねえ、どっちに向かって走ればいい?」

「……あっちだ」


 暴れても無意味だと悟ったらしいルイは、むすっとしながら指で示す。


「それじゃ、【加速】するよ。少しでも動いたらバランス崩して転ぶから、絶対動かないでね!」

「そんなに危ないならやめとこうぜ、ああああ!」


 びゅん。風を切り、さらりは走る。3層の積もった落ち葉を跳ね飛ばしながら、ぬかるみを力強く蹴りながら。【加速】の勢いのおかげで、レッドバグやテッポウガエルが反応した時にはもう遅く、さらり達の姿ははるか遠くに消えている。


「今! 転送陣あったぞ」

「えっ? そんなこと言われても、急には止まれない、うわっ!」


 ルイの言葉に動揺すると同時に【加速】が切れ、さらりの体はつんのめる。


(危ない!)


 このままではルイを押し潰してしまう。体を捻り、側面から落ち葉の上に倒れ込んだ。


「ルイくんごめん、大丈夫だった?」

「おう。さらりも怪我はねえか」

「うん、平気」


 下が落ち葉だったのが幸いだ。ルイを放り出す形になってしまったのだが、彼も特に怪我はない様子である。ぬかるみがあちこちに存在する3層だが、運良くあまり濡れていない落ち葉の上に転んだことで、服の汚れも最小限で済んだ。


「可能性は感じるけど、もう少し練習が必要かなあ。自力で転送陣を確認できるようにならないと、毎回転ぶことになっちゃうもんね」

「俺ももう何回かやれば慣れるかもしれねえ。モンスターのいるとこ突っ切って走れんの楽だし、できそうなところで試してもいいかもしれねえ」


 通り過ぎてしまった転送陣には、話しながら歩いているとすぐに到着した。3-4層転送陣に乗り虹色の光に包まれつつ、ルイはさらりを見上げる。


「ただ、あの運び方はやめようぜ。何か他にやりようがあるだろ」

「お姫様抱っこがいちばん安定感あるって思ったの。転ぶ時も私が下になれば、ルイくんに怪我させなくて済むでしょ」

「こないだみたいに引っ掛けて運べばいいじゃねえか」

「あれは何か、ルイくんが物みたいだからちょっと……」

「おんぶとかあるだろ、何か」

「おんぶは振り落としそうじゃない」

「……ちっ。抱えられねえくらい背伸ばしてやる」

「ええ、そうしたら【加速】で移動できなくなるよ。せっかく上手く行きそうなのに」

「誰かに見られたらどうすんだよ」

「少なくともしばらくは誰にも見られないよ。潜り始めてから誰にも会ってないもん、このダンジョンほとんど人が居ないんだね」

「何人か常連はいるぞ。時間が合ってねえのと、あいつらはもっと下に居るんだろ。こんな浅い層には誰も居ねえんだよ」

「そっか。私たちも、早く先に進まなくっちゃね」


 30層までは遥か遠い。夏休み中にどこまで行けるのかはわからないが、少しでも先に進めるようになっておきたい。さらりは軽く肩を回し、周囲を見渡すとスマホを取り出した。


「ルイくん、お願い!」

「自分で地図を見んのもやめたのかよ。いいけどよ……俺が居なかったらどうする気だったんだよ、さらり」

「ひとりじゃ厳しかったねえ。ルイくんが居てくれて良かった」

「呑気なやつ」

「あはは。私、運が良いからさ。何とかなるとは思ってたの」


 そして実際何とかなった。さらりがこうして順調にダンジョンを進めるのは、間違いなくルイのおかげである。


「……この沼みてえのは遠回りしたほうがいいのか。ややこしいな……」


 見渡す限りは森林の4層には沼地帯があり、そこには霧を吐く厄介なモンスターが居るという。視界が悪い上、底なし沼を踏み当てると沈んで死ぬ可能性もあるため、基本的には迂回推奨なのだ。それによって、4-5層転送陣までの経路は複雑さを増す。

 実のところさらりも家で地図を眺めてみたのだが、ひと目でお手上げだった。スマホの現在地表示がないのに、ろくな目印のない森の中を迷わずに歩ける気がしない。


「私も、ルイくんに負けてられないな」


 探索能力に関しては、さらりはルイに圧倒的遅れを取っている。【収納庫】によって荷物運びには大いに貢献しているが、やはり年上として良いところを見せたい気持ちもある。


「【水魔法】がもっと良いスキルだったら良かったのになあ。こんな感じで……」


 立ち止まっている気配を察知したようで、例の如く、どこからか現れたスライムが寄ってくる。さらりはスライムの核に人差し指の先を向ける。理想は、テッポウガエルの水鉄砲のように、勢いのある水流がゼリー体を貫通して核に届くこと。今はまだできないとわかりつつ、【水魔法】を念じてみる。

 しゅぱっ。

 空を切る音がし、スライムが霧散した。


「うん?」


 さらりは目を擦った。居たはずのスライムが居なくなっている。見間違えたのだろうか。

 しかし足元には、ころんとした核が転がっている。


(【水魔法】で消えたの?)


 だとすれば喜ばしいことだが、こんな短時間で急に威力が増すことがあるだろうか。

 確かめるために、少し先の木の幹へ指先を向けてみる。【水魔法】を念じるとまたも空を切る音が聞こえ、今度は鋭く伸びていく水流が見えた。飛んでいった水は木の幹に刺さり、穴を開ける。


「ひえっ……!」


 思わず声が出た。木の幹を貫通するほどの勢い。とんでもない力である。


「よし、大体頭に入った。待たせたな、さらり……どうしたんだよ。やべえ顔してるぞ」

「あのね、ルイくん。今からあの木に向かって【水魔法】を使うから、ちょっと見てて」

「おう」


 さらりは先程同様に木の幹に狙いを定める。【水魔法】を使うと、飛んでいった水によって幹に穴が空いた。


「……今の、さらりの魔法なのか?」

「うん。なんか急に【水魔法】が強くなった……」

「マジかよ、すげえな」


 感心している様子のルイだが、さらりはふるふると首を横に振る。


「さすがに怖いよ」

「はあ? 怖い?」

「木の幹に穴が開くんだよ? こんなの、どうやって使ったらいいんだろう。狙いを誤ったら、ルイくんに怪我させちゃうかもしれないし……」


 言葉にすると、その光景が思い描かれる。何かの弾みで射線がそれ、魔法がルイを貫く光景。ダンジョン内で死んだら外に戻るだけだとは言え、想像するだけで背筋に震えが走る。


「んなこと気にすんなよ」

「気にするよ。ルイくんに痛い思いをさせるなんて、絶対にしたくないんだよ」

「さらりらしくねえな。そんな理由でせっかくの魔法を使わねえの、もったいないんじゃなかったのかよ」

「そんな理由、なんて……」


 万が一にでもルイを傷つけたくない。「保護者」として振る舞う以上、そもそも人として、当然の気持ちだ。だが同時に、せっかくのスキルがもったいない。上手く使えるようになりたい。そんな思いも確かにある。


「間違っても俺に当てねえくらいまで練習すればいいんじゃね? さらりは好きだろ、努力すんの」


 俺は嫌いだけどな、と続けるルイの言葉を聞きながら、さらりは腑に落ちる感覚を覚えていた。


(そうだよ。いつも通りにすればいい)


 魔法のあまりの威力に慄いてしまったが、今後の道程を考えれば高威力のスキルを手に入れたことは好都合のはずだ。使いこなし、探索に役立てるべきである。


「……そうだよね。そうする、ありがと」

「おう。あーあ、羨ましいぜ。俺のスキルなんか、練習する価値もないもんばっかりなのによ」


 そうだった。ルイがモンスターを食べて得たのは、【粘液】や【泡吹き】、【水探知】といったよくわからないスキルばかりだ。運良く使えそうなスキルを手に入れたさらりが頑張らなくてどうする。


「ルイくんが道案内してくれる分、私も頑張らないとね」

「立ち直り早えな、おい」

「ルイくんが励ましてくれたから。でも怪我させるのは怖いから、【水魔法】を使うときは私の後ろに居てね」

「おう。……使うときは使うって言えよ」

「わかった。とりあえず、次出るモンスターは私が相手してみるね」


 4層のモンスターは予習済みだ。来見ダンジョンでは、4-5層転送陣までの範囲には沼地に巣食うモンスター以外に、2種類のモンスターが出る。巣の距離が近いそうで、2種類がランダムに現れるのが特徴だ。


「さっきから思ってたんだけど、あれ、リトルトレントだよね」


 似たような樹々の並ぶ森の中に紛れる、さらりの腰丈くらいの小さな木。こうして遠目で見るとただの木のようだが、風の吹かないタイミングで不自然に枝を揺らすそれは「リトルトレント」と呼ばれるモンスターであろう。

 小さいし動かないので相手はしやすいが、厄介なのは枝の存在である。弱点である核は木の幹の中にあり、幹は大きく広げた枝によって覆われている。倒すためには、まず枝を伐採し、それから幹の中にある核を抉らなくてはならない。しなやかな枝で打ち据えられると骨が折れるほどの衝撃を食らうというから、油断はできない。


「ほんとに動かねえな、あいつ」

「ね。だから狙いやすい感じはあるよ。ちょっとやってみる」


 人差し指の先を向けて照準を定め、【水魔法】を念じる。鋭い音を立てて飛んでいった水は、見事に木の幹を貫いたように見えた。広げた枝がざわざわと震え、枝がばしばし周囲を叩いている。だが、さらりたちとは離れているためその攻撃は空を切るのみ。


「この距離で当てんの、すごくね? 石投げた時はあんなにノーコンだったのによ」

「なんかね、不思議なくらい思った通りの場所に飛んでくの。なのに一撃じゃ倒せなかったけど……」


 さらりは、暴れているリトルトレントを見る。どこに穴が開いたかまでは見えないが、全体の中心部に向かって飛んでいったようだ。


「……今、『リトルトレントに当てよう』って思いながら魔法を使ったら、真ん中に当たった気がする。もっとちゃんと狙いを定めないといけないかな」

「核の部分を狙うってことか?」

「そう。えっと……ちょっと、図鑑見てみる」


 さらりはスマホを操作し、「ダンジョンモンスター図鑑」なるサイトでリトルトレントの説明を確認する。

 モンスターは脳天の位置に核があるとされるが、リトルトレントのような生物の形をしていないモンスターの場合、脳天の位置がわからない。


「リトルトレントの核は広がる枝の根本にある……なるほど」


 図鑑とリトルトレントの姿を、二度三度と見比べる。枝が四方に広がっているため根本もよく見えないが、およその位置を推測することはできる。


「あのへんかな」


 ぱしゅ、ぱしゅん。命中はしているようでリトルトレントは枝を振り回しているが、核に到達する気配はない。狙いを微調整して何度も魔法を放っていると、いきなり的の姿が消えた。


「あっ! 当たった!」


 試行錯誤した分、命中した時の喜びは格別だ。さらりは落ちているはずの核を確認するため、先程までリトルトレントが居た場所へと駆け寄る。


「遠くから攻撃できても、核を拾いに行かなきゃなんねえのは面倒だ、な……おい、さらり! 危ねえ!」

「えっ?」


 立ち止まったさらりは振り返り、ルイの視線を追って顔を横に向ける。真っ赤なりんごだ。つやつやした皮を内側から食い破ったみたいに大きな口が開き、鋭い牙がずらりと並んでいる。真っ赤な舌がいやにグロテスクだ。こちらに向かって飛んでくる様子が、いやにゆっくりと見える。食われる。


「ぼーっとしてんじゃねえよ!」


 どん、と肩に衝撃が走った。ルイに地面へ押し倒されたさらりの視線の先を、頭くらいの大きさのりんごが飛んでいく。


「あれ、ガブリンゴとかいうふざけた名前のやつだろ。確か飛んでくるのに合わせ、て……痛っ!」


 ガブリンゴは向こうの木の枝に引っかかり、向きを変えて戻ってくる。ルイは包丁を真横に構え、大きく開いた口の真ん中を断ち切ろうとしている。急に悲鳴を上げて包丁を放り投げたルイの手の甲には、赤い一本線が刻まれている。たら、と線の端から赤いものが垂れた。


「ルイくん、血、血が……!」

「あいつほっといたら血どころじゃ済まねえだろが。ちっ、少しずれてたか」


 ルイは素早く包丁を拾い上げ、構える。反対側の枝に到達したガブリンゴが、また向きを変えて飛んでくる。今度はうまく口の真ん中に刃が差し込まれ、丸いガブリンゴは上下二つに分かれた。バランスを崩して地面に落下したガブリンゴに、ルイは切先を突き立てる。


「あー、びっくりした。浮かれんなよさらり、4層は枝にガブリンゴが付いてないかよく見て進まなきゃいけねえんだろ」

「そうだった……ごめん、ルイくんに怪我させちゃって」

「は? 怪我は俺のせいだろ、一発で仕留めらんなかったのが悪い。目が追いつかなかったわ」

「だけど、私がちゃんとしてれば怪我なんてさせなかったのに」

「そうだなあ……あっちの枝にガブリンゴが止まったときに【水魔法】が当たってりゃ、怪我しなかったかも知れねえわ」

「確かにそうだね、ごめん」


 思い返せばルイの言う通り、枝のところで方向転換するガブリンゴの動きには多少の隙があったように思う。しょんぼり謝るさらりの様子に、ルイは「いやいや」となぜか笑った。


「何で謝んだよ。次やってみればいいだけのことだろ」

「次って……ルイくんの怪我はもう治らないのに」

「大袈裟だな。怪我はダンジョンの外に出りゃ治るんだろ? 大丈夫だって。ほら、核しまってくれ。さっさと進もうぜ」


 ルイが拾ったガブリンゴの核を受け取り、さらりは【収納庫】へしまう。脳内に浮かんだ収納庫のイメージには、棚の隅に余ったスライムの核がある。


「あっ! ルイくん、せめてこれ食べて」

「ん? ああ、スライムの核か」

「うん。前にちょっと怪我したとき、食べたら治ったからさ。ルイくんの怪我も治るかも」

「そういやそんなこともあったな。貰うわ」


 核を受け取り、ひょいと口に放り込む。ごくん、と喉が大きく動いた。


「んー……あんま変わんねえな」

「もう1個食べてみる?」

「おう。……んー? 何も変わらねえわ」

「もう少し食べたら治るかも」

「いや、いらねえ。こんなもんいくつも食ってらんねえだろ」


 未だ手の甲に刻まれている傷にはらはらするさらりの提案を、ルイは首を横に振って断わった。


「行こうぜ。あっちだよ」

「あっ、待って! ルイくんは怪我してるから、私がモンスターと戦う」

「はあ? 大丈夫だよ、このくらい」

「だめ」


 ルイを守るように前に出たさらりは、【水魔法】で向こうの枝にいるガブリンゴを撃ち落とす。同じ失敗をすぐに繰り返すことはしないのだ。今度は注意深く周囲を観察し、怪我のないよう遠くから狙撃して進むのだった。

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