第21話 再変身
ルビーとスイフトが襲撃してきた翌日。イツキとジョーは、ミネ博士に呼び出されていた。
「新しい敵の登場によって、状況が変化したと言えるわ。現段階では警戒程度に留めているけど、もし本格的に彼女らが強襲してきたら対抗出来るのはあなたたちしかいないわ」
「それもそうですね……」
「ですが、敵の実力が分かりません。本当に俺とイツキだけで抑えきれるかどうかは、実際に戦ってみないと」
「それもそうね。今は情報が不足しているわ。どんな敵が来ようとも、インスタンスを守り切るようにしてちょうだい」
「了解」
研究室を出た後は、イツキは当直室に、ジョーは訓練のため外に向かった。
当直室に入り、部屋の隅に置いてある椅子に座る。ここがイツキのいつもの場所だ。
そしていつもなら、誰かに話しかけられる事もない。ただジッと、時間が過ぎるのを待つだけである。
しかしこの日は違った。
「あの、イツキ? さん……」
「え?」
イツキは顔を上げる。するとそこには、一人の青年が立っていた。
「あの、自分はイツキさんのこと、何も分からないんですけど……」
「はぁ……」
そんな前置きをした所で、青年は急に頭を下げた。
「え、ちょ……」
「イツキさん、レジスタンスに入ってくれて、ありがとうございます!」
「……へ?」
「正直、イツキさんが来るまでは、レジスタンスに勝ち目なんてないと思ってました。でもイツキさんが来たことで、『オール・ワン』に勝てそうな気がしてきたんです。皆変な目で見てるかもしれないですけど、自分だけでもイツキさんのことを応援したいと思ったんです」
「そ、それはどうも……」
そういって青年は、勝ち誇ったような顔をして、仲間の元に戻った。
「応援したい、か……」
今まではミネ博士やジョーといった、限られた人物のみと関わっていた。だが、今はレジスタンスの戦闘員にもどんどん知れ渡っているのだ。
イツキは少し嬉しくなった。
そんな時だ。
「当直に連絡! 東より正体不明の影が1!」
その声を聞いて、戦闘員とイツキはすぐに出動する。
外に出ると、確かに東と思われる方角にポツンと一つの影がある。
イツキはいつでも変身出来るように、走りながらバックルを装着した。
影に近づくと、その正体が判明する。
「カイドウ……?」
そこには、少しボロボロになったカイドウの姿があった。
「何しに来た?」
「俺は、俺の存在を証明する……。そのためにはお前を殺す必要がある……」
そういって自分のバックルを腰に装着し、アイテムを取り出す。
『スクリプト!』
「……変身」
『ローディング!』
『ファイター スクリプト!』
問答無用で変身するが、今までのような覇気は感じられない。
「……その変身は敵意があると見なすぞ、カイドウ」
そういってイツキもアルファ・デバイスを取り出した。
『アルファ!』
『スキャニング!』
『ファイター!』『ミサイル!』
『セカンド・スキャニング!』『サード・スキャニング!』
『ビルド・アップ!』
「変身!」
『アプルーブ!』
『ファイター ヘリクゼン・アルファ! ファイターフォーム・パワードミサイル!』
数秒の静寂。先に動いたのはイツキのほうだった。
両腕にあるガトリング砲を、カイドウに向けて乱れ撃ちする。カイドウの周りに土煙が舞い、辺りが見えにくくなる。
ひとしきり撃ち終えると、再び静寂が訪れる。
すると、土煙の中からカイドウが飛び出してきた。
そのまま接近戦となる。拳と拳がぶつかり合う。
イツキの今の形態は、遠距離戦闘を得意としている。つまりそれは、近距離戦闘及び格闘戦では不利になると言うことだ。
必然的にイツキは防戦を強いられる。どうにかガトリング砲でカイドウの拳を受け止め、鈍器代わりにガトリング砲を振り回す。
それでもカイドウには効いているようには見えない。それどころか、どんどん攻撃の激しさが増している。
「ぐぅ……」
隙を見て空に逃げることも出来ない。ここは大きく後退するべきだと考えた。その時である。
「どりゃあああ!」
横から変身したジョーが突進してきた。それによって、イツキからカイドウを引き離すことに成功する。
「ありがとうございます、ジョーさん」
「お互い様ってことよ」
そして二人は構える。
「くっ……。こんな所で屈しているわけにはいかない……!」
「そいつはどうかな?」
そういってカイドウに向かって走り出すジョー。それに合わせるように、空中に舞うイツキ。
ジョーによる斬撃は、カイドウに対して簡単にダメージを与える。ジョーから少しでも離れると、イツキによる銃撃が降り注ぎ、カイドウはどんどんダメージを受ける。
そして最終的には、地面に伏す。
「どうだカイドウ、降参する気になったか?」
ジョーがカイドウに問いかける。
「……まだだ。俺はまだ、こんな所で消えるわけにはいかない……」
そういってカイドウは立ち上がると、バックルの左側にある小さなレバーを倒す。
すると、バックルに装填されていたアイテムが外される。カイドウはそのままアイテムをバックルから抜き、手に持つ。
しかし不思議なのは、バックルにアイテムが装填されてないにも関わらず、変身が解除されていないのだ。
「なんで変身が解除されてないんでしょう?」
「分からん……」
すると、カイドウはカード状のアイテムをひっくり返した。アイテムの裏には、中心部分にボタンがあり、ボタンの横に画面、ボタンを挟んで画面の反対側には、さらに複数のボタンのような物があった。
「なんじゃありゃ……」
ジョーはそのアイテムを見て驚く。もちろん、イツキも驚いていた。
カイドウはアイテムの裏面の中心部分のボタンを押した。
『スクリプトⅡ!』
「再変身」
そして、いつもと同じようにアイテムを装填した。
『ローディング!』
すると、現在のスクリプトの装甲が変化し、新しい形態へと変化する。
『ファイター スクリプトⅡ!』
「俺は俺を超える……」
カイドウはゆっくりと二人へと近づいていく。
「こ、このっ!」
ジョーは光の剣を振りかざす。しかし、それをカイドウはあっさりと回避する。
ジョーは続けて攻撃する。それでも、カイドウは現実改変プロンプトを用いて、ジョーの攻撃を受け止め続けた。
「このっ!」
その様子を見たイツキは、大量のミサイルを発射する。ジョーはイツキが攻撃をしたのを感じ取り、後ろへと下がった。
それにより、カイドウにミサイルが集中する。大量の爆煙によって、カイドウの体が見えなくなる程だ。
爆煙が晴れると、全くダメージを受けていないカイドウの姿があった。
「これでも駄目なのか……!」
「俺は、イツキを殺す……」
そんなことを呟きながら、カイドウは二人のほうに接近してくる。
すると、急にカイドウが苦しみだしたのだ。
「ぐぅぅぅ……!」
「な、なんだ……?」
急な展開に、少々困惑気味のイツキとジョー。
カイドウは胸に手を当て、二人に背を向ける。
「俺はまだ負けてない……!」
そういってそのまま去るのだった。
それを見ていたイツキとジョーは、困惑しながらも変身を解除する。
「何だったんだ、あれは……?」
「さぁ……」
結局、よく分からないまま戦闘は終了した。
一方、森の奥へとやってきたカイドウ。そこで変身を解除した。
「クソ……! この姿なら安定するはずなのに……!」
そういってカイドウは、ポケットから何か錠剤のような物を取り出す。
「残り少ないが、致し方ない……」
そういって、その錠剤を飲み込んだ。
「ふぅー……」
少し体調が安定したカイドウは、そのまま森の奥へと消えるのだった。
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