第6話:運命の分かれ道
という感じで簡単な自己紹介を終えた後で、ずっと心に秘めていた疑問を口にする。
「……なぁ一つ良いか?お前はなーんで一介のお嬢様ともあろうお方がこんな森の中で遭難してたんだよ」
軽い口調で聞いたその質問は、俺の想像していた反応とは大きく異なっていた。
「これの練習してたの!これっ!ねぇ私魔法使えるだよ。ねぇ!凄くない!?」
ティナの心の奥底にある琴線に触れたのか、興奮した様子でズイッと顔を近づけてきた。そしていつの間にか持ち合わせていた分厚い本を開き、その一部を俺の顔に押し付ける。
その押し付けた物とは、俺にとってはお馴染みの魔法書だ。
数多もの魔法陣が描かれており、魔法の教科書とも言える存在だ。
しかし、興奮した様子で語り始めたティナの傍ら、俺は人が変わったかのような豹変っぷりに少し引いた様子を示すが、そんなものはおかまいなしに説明を再開する。
「今日は最近手に入れたこの魔法書に書いてある魔法陣の魔法を試してたの!これ!この火魔法である“
「……なるほどね。第六位っつったらそこそこ範囲の広い魔法が多くなる。周りに被害を出さないためにこんな森の奥を選んだってわけ?」
「そうなの!!」
頬をピンク色に染め、興奮しながら話すティナの言葉を補足する。
……この短い間でも、俺はこのティナリウム=エルヴァレインという人間の人となりを詳しく知ることができた。
この少女は根本的な魔法バカだ
しかし、それに見合った知識も最低限は保有している。懸念点があるとすれば……いや、俺には関係ないか。
そして何が彼女の性格を歪めたのか分からないが、初対面の人間に対してはそこそこ態度も悪く口調もなっていないので失礼極まりないと感じてしまうが、実際はただ単に人との距離を掴むのが下手くそなだけだった。
なので基本的にはそんな悪いやつでもないし、極端に人を嫌っているわけでもない。こればっかりは親の教育の賜物だろう。ただ一つ。親に会ったら、どうしたら貴族の娘がこんな風に育ってしまうのかを聞いてみたいものである。
その後は暫く話していた魔法会談―――ティナからの一方的なものだが―――を聞き流しながら俺はこれからの予定について考えていた。
「(はてさてこの先どうしたものか)」
「シーク?」
「(森の中でのんびり暮らしの予定は変えるつもりはないがどうせ一度街に寄るんなら何か家具なんかを揃えたほうがいいか?)」
「シーーークーーー」
「(いや、別に家具類は一から魔法で作ることができるからそんなもんは必要ないか。だったら俺の作れないものを買ったほうが―――)」
「シーク!!」
「うおっ!どうしたそんな声でかくして」
「どうしたもこうしたもない!お前途中から話聞いてなかったでしょ!」
「……うん!聞いてなかったわ!」
「むぅ〜〜〜!」
俺変に言い訳をしないスタイルだ。聞いてないならハッキリと聞いていないと告げたほうがまだ良いと俺は思っている。
その結果ティナは何かを言うわけでもなく拗ねてしまうと、魔法書片手にそっぽ向いてしまった。
案外年に見合った可愛い一面もあるな、とか思うが、俺の経験上このままでの放置は色々と良くないということを知っているので笑いながら、
「悪かった悪かった。礼にお前の魔法を見てやるよ」
「えぇ〜。見てやるよって言ってもシーク魔法師じゃないでしょ?見たところ年も私とそこまで違いはなさそうだし……」
んー、初対面だとそう思われるか。……というか俺自身杖も魔法師っぽいものもなんも持ってないし、それに魔法師自体がこんな森の中で一人でいるわけねぇか。
「あぁ、そういえば話してなかったな。俺は……いや、現物見せたほうが早いか」
「……?」
魔法師たるもの……
魔法を目の前で使って見せたほうが話は早い……!
「“土魔法:土生成”」
手のひらを腹の辺りで固定した後、そう小さく呪文を唱える。
すると、その手のひらから少し上の位置が淡く光り、そこから土が生まれていくのが目に見える。
『詠唱の一部破棄』を用いた詠唱の簡略化。
本来ならこの魔法一つ唱えるだけでも最低五節は必要になってくるが、ウェルナルド発のこの技術によって魔法名だけの一節で済んでいる。
勿論これだけでも良い。これだけでも魔法を学んだ者にとってはとんでもないものなのだが……ただこれだけではあんまり面白くない。端的に言えばただその辺の土を魔力で創造しただけだ。
だから俺は俺にしかできないことをしてみた。
「これだけで驚いて貰っちゃあ困るぜ」
笑みを絶やさずに俺はその土を操作する。
そして段々とある形に変化していき……
「不死鳥の完成だ」
高クオリティの不死鳥の模型が出来上がる。
細かな羽の装飾はもちろん、瞳の輝きも作り出し本物と遜色ないまでだ。
これは魔法を使うための必須となる技術を極めた者の作品だ。
少し脇道に逸れるが、
“魔法とはどういうものか”
この質問にこう答えた人物がいたそうだ。
―――現象の創生。
彼の者曰く、魔法とはただ特定の現象を起こすだけだと。
では火や水を扱うソレはどういったものなのか。
それがただの『技術』。
一般的には『魔力操作』と呼ばれるそれは魔法とは違い、技術は才能がない者も得ることのできる一つの要素だと彼は言う。
即ち努力だ。
「うん。中々良いものが作れたんじゃ―――」
と手のひらサイズの不死鳥を満足気に眺めていると、唐突に視界が上へと急加速した。そして遅れて腹のあたりに衝撃が加わったことに気がついた。
「は?」
という気の抜けた声とともに背中に地面を……!
「…………」
打たない。土の性質を変えたのだ。
しかし、その作業は半分反射的に行ったことのため、クシナの意思はまだどこかへと飛んでいた。
そしてその後に続く大きな声とその内容が俺の意識を引き戻させた。
「わ、私を弟子にしてくれない!?」
「…………はい?」
そんなこんなありつつも、翌日。
俺らは無事森を抜け、エルヴァレイン領の中心都市である領都へと到着していた。
「おー、ここ初めて来たけどかなり賑わってるな。……その約四分の一が恐らくお前を探している騎士だろうけど……」
「そうだね。従者も付けずに丸一日家を空けたのは今回が初めてだからかな?」
「かな?じゃないよ。ほれ、さっさと行くぞ」
「うむ、姿を現してやろうじゃないか」
「失踪した側が何を偉そうなセリフを……」
そうして俺たちはエルヴァレインの土地に足を踏み入れる。
……そこからは色々な意味で圧巻だった。
まず初めに驚いたのはティナの猫の被りようだ。
「……お前誰だよ」
まずこれが俺の一番最初に言われたセリフである。
そして……
「ティナリウム=エルヴァレイン只今戻りました。これからお父様に会いに行きますので街に展開している騎士を通常通りの配置に戻し、何人かの騎士は私と共に来てください」
これだ。
凛とした表情で言い放ったその言葉に今回の失踪の実態も、そして明らかに異質な存在としてティナの隣に君臨していた俺についても、尋ねるものは者は一人としていなかった。
エルヴァレイン宅へ向かう道中も、事情を知らない領民たちは突然表れたにも関わらず、ティナに向けて満面の笑みを浮かべていた。
道中ティナの前に飛び出してくる子供もいたが、その全てがティナに会えたことによる嬉しさが飽和しての行動なのだそう。
その姿はすぐ隣に並んで歩いていた俺の目にはまるでお嬢様のように感じられた。まるで……
「(…………いや、まるで、じゃないんだけどなぁ。どうしても一番最初に会った時の印象の方が頭に残ってるからとてつもない違和感に感じてしまう)」
「魔法よりも魔法みたいだなぁ」
「……?どうしましたナエハ様」
「な……あ、いや何でもない」
時折自分の名前ではない言葉で自分に呼びかけるので反応が遅れてしまう。いやはやこの名前も慣れないといけないな。
…………だってこれからも長い付き合いになりそうなのだから……。
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