同級生の美少女二人とのワケあり同棲は、それなりに大変です

佳奈星

第1話

 ――季節は真冬。

 ぶるぶると震えながら起床する毎日を俺は送っている。

 だが、今日は久しぶりに清々しい気分で朝を迎えられたからか、寒さなんてへっちゃらだった。


「ふぅ、朝のスッキリとした目覚めは質の良い睡眠から始まるよな」


 普段いつも出来ていないくせにどの口がって思わなくもないけども、それでも自分を偉いとはげました。

 日常生活で他人の目に留まる俺、ささしゅにとってはちょっと気を遣う点だった。


「おはよう、花音」

「おはようございます、しゅくん。ふふっ、寝癖ありますよ」

「本当に? うわっ、本当だ」


 跳ねた髪を触っておどけて見せると、目の前の女子はクスッと笑った。

 エプロン姿の女子は俺の姉や妹ではない。同級生の女子だ。


 寝ぼけてまだ夢の中という訳ではない。毎朝の料理担当をしてくれている彼女、こうさきのんは実在する同居人。ふわっとした茶髪とパッチリとした目が素敵な女の子だ。


「あれ、まだ時間大丈夫だよな? 朝ご飯並べられているけど」


 花音の表情を見ても問題がないことを確信しながら、念のため訊いてみた。


「心配ご無用です! そもそも秀吏くんがお寝坊さんしたら、私が起こすじゃないですか」

「ははは……そうだったな。流石、誇れるお嬢様のお世話係だ」


 とても同級生だなんて思えないほど、彼女はしっかり者だ。


「褒めたって何も出ませんよ。あっ、そういえば那由多ちゃんは――」

「ああ、どうせ寝坊だろ」


 テーブルに着こうと椅子を引く手を止め、もう一人の同居人を起こしてこようと考える。

 すると背後から気配がした。


「おっと」


 間一髪。振り返り、飛んできたチョップを白刃取りで掴む。不機嫌な顔がそこにあった。


「お花を摘みに行っていただけなんだけど? 何か?」


 不機嫌そうな表情。

 陰口に聞こえてしまっただろうか。


「そうだったのか。それは悪かった。けど今のはいただけない。本気だったよな?」

「さあ……当たっても痛くない程度じゃないの」


 背後からいきなり暴力に訴えたのはまゆずみ……こいつも同級生の女子であり同居人。あでやか黒髪と可愛い顔をしているが、正確は荒っぽい。


 つい寝坊したものだと侮ったが、俺が謝罪すると彼女はツンとして手刀を引っ込め席へと座る。


「いつもありがとう、花音。今日も美味しそう」

「ふふっ、そう言われるとお世話係の冥利に尽きますね」


 花音は俺達のやり取りを慣れたように静観し、落ち着いた対応を見せてくれた。

 俺達の中で彼女だけは常々大人びていると思わされる。


「いただきます!」


 手を合わせ、朝ご飯を食べ始めた光景……それは傍から見れば、まるで本当の家族のように見えるかもしれない。


 花音が母親か年の離れた姉で、俺と那由多が兄妹。そんな風に考えた事が何回もある。


 実際は、親ではなく同級生と同じ屋敷で暮らしているだけの……とある使という関係。俺達は高校生という身分を持っているが、同時に使用人として働いている。


 同じ屋根で一緒に暮らしているのは、この仕事にしょくじゅうが提供されているからである。単純に福利厚生の恩恵にあずかっているのだ。


「はぁ、久しぶりの学校か。結構冬休みは長かったように感じるな」

「冬休み、そんなに長くなかったと思うんだけど。それとも、もうボケた? あたしが寝坊だとか言っておいて、自分が最後に起きてきた癖に」


 冬休み、二週間もあったのに? というか、外が寒いからって殆ど外出しなかった那由多こそ、退屈そうにしていたじゃないか。


「…………」


 呆れて優雅に紅茶をすすりシカトすると、花音が会話に入って来る。


「ふふっ、最近は朝寒いので、お布団が恋しい気持ちならわかりますよ」

「もー、花音が甘やかすから、秀吏もこうやって調子に乗るんじゃないの!」


 そんなことは……ある。


「えっ、そんなことはないと思いますけど……そうなんですか?」


 花音は優しいなぁ。


「違う。心配しなくても俺はいつだって落ち着いている」

「……どこがよ」


 背後からチョップするよりは、どう見たって落ち着いているだろう。


「那由多のぞうごんにだって言い返していないだろう? そういうことだ」

「余裕ぶっちゃって、本当にうるさい。どうしたら、黙って食事できるの?」


 自分だって黙って食事していないというのに、ひどい言い草だ。


「そうだな〜、あと地球が一回転したら……かな?」

「そう、自転周期で考えれば明日ね」

「公転周期に決まってるだろ!」


 そうとも捉えることができるかもしれない。

 不覚を取ってしまったようだ。


「ん?」


 すると、花音がテーブルに置かれたカレンダーを手に取って、エプロンのポケットからボールペンを取り出した。


「カレンダー、書いておきますか?」

「うん、そうしよっか。明日は絶対黙ってもらうことを書いておいて」

「花音、冗談だから悪い子供の言葉を信じないでくれ!」


 花音の眠そうな顔を見逃さない。きっと疲れているんだろう。

 うん、花音に一切の非はない……つまり、那由多が全て悪い。


「あたし、二人と同級生なんだけど何故に子供扱い。てか、静かにできないの?」

「そんなツンツンするなよ、那由多。友達から聞いた話によると、ツンとデレが周期的に決まっているらしい。もうデレの時間なんじゃないか」


 それはもうレム睡眠とノンレム睡眠のように。

 いやマジで友達から聞いた話で確証はない。本当ならば、自転周期の如く発揮してほしい変化だったりするけども。


「へー、そうなんですね。流石、秀吏くんは博識です」


 ……ああ、また純粋な花音が曲解してしまった。でも相変わらず褒め上手で気分が良くなったので、許そう。


 朝ご飯も美味しいし、彼女はここの癒しだ。

 そんな同性の同級生がいるというのに、どうして那由多は大人しくできないのだろうか。


 たんせいな顔立ちなのだし、黙っていればもっと凛としたイメージを抱いていたはずだ。まあ急に大人しくなられても困るか。


「花音、悪い子供に騙されないで! こいつは知識を自慢したいだけの特級ナルシスト!」

「特級……走り出したら止まらないという、意味の特急と掛け合わせているのかな」

「ああ、もー、何を言ってもこの男は……」


 なんとか誤魔化そうとする俺と、呆れた那由多。

 花音は俺達を見ながら愉快そうな顔をしていた。


「ふふっ、今日も賑やかで私は良いと思います」

「花音は甘やかさないのっ!」

「あっ……もう空奈ちゃんのお迎えの時間なので、表屋敷に行ってきますね」

「えっ? ああ、うん。行ってらっしゃい」


 丁度食べ終えた花音は、付けっぱなしだったエプロンを脱いで、お嬢様が住む表屋敷へと向かった。俺達が使用人である以上、当然お仕えするお嬢様がいる。


 お嬢様の名前はしおみねそら。顔は端正で美人だが、色々と問題のある女の子だ。


 という訳でとして我らがお嬢様に認知されている花音はこうして朝から忙しい。

 逆説的に、残る、クラスメイトとして接している。


 お嬢様は知る由もないだろう……まさか自分の住む表屋敷から地下通路で繋がったここ屋敷に、クラスメイトが住んでいるなんて。

 彼女からしたら、ホラーかもしれない。

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