第13話 神様の命令
ユダヤ人の生まれながら、エジプトで王子として暮らしていたモーセは、ユダヤ人をいじめた役人を殺して、荒野に逃げた。
そして長い間羊飼いとして荒野で苦労をして、老人になった頃、神は彼を“自分の道具”として召し上げた。
『虐げられたわが民を率いてエジプトから脱出せよ』
驚いたモーゼは、“どうか他の人を選んでください”と願ったが、神は許さない。
『当然だよ。神様は何十年もかけて、自分の望む仕事をできる人間を作り上げたんだから。
職人の親方が、弟子を育てて“こいつならできる”と確信して、“やれ”と言ってるのに、弟子がびびってたら、ひっぱたいてでもやらせるよ。
神がこうと決めたら、逃げられるわけない。
相手は神様、僕らは人間。どんな無茶振りされたって、社長命令に平社員が逆らえるわけないじゃないか』
僕はさっきの君みたいに、目が点になった。
『それとね、“なぜ神様は僕の願いを叶えてくれないのか”と君は言ったが、別の願いがあって、神様はそっちを叶えたとは考えられないかな? 例えば、君のお母さんの願いだ』
僕は、落ちて行くときに聞いた母の声を、思い出した。
『君のお母さんは、自分のしたことを後悔していた。その砕かれた心が死の間際に“神様、悪いのは私なんです。どうかあの子を助けて”と願ったとしたらどうだい。
“助けてください”と“死なせてください”神様はどっちの願いを叶えると思う?その選びを人間がとやかく言えるのかな』
僕は涙が止まらなかった、母さんなら必ずそう願う。僕の幸せだけをいつも考えている、そういう人だったから。
『そしてもう一人、いや一匹、君の犬だ。ワシは犬だって祈ると思う。
“神様、私は死んでもいい。御主人様を助けて”そう願って死んだのだと思う。
命をかけた最後の願いに比べたら、君の“楽になりたいから死なせて”なんて願い、吹き飛んじゃうよ。
君は一人ぼっちだと思ってたんだろうが、どっこい、一人と一匹、君の死を望まない者がいた。その人たちの願いが君を死なせなかった。ワシはそう思うな』
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