図書館の不思議なあの子

猫原獅乃

第1話 佐竹 守 5歳

日本中の北から南、ありとあらゆる図書館に出没する「あの子」。

その姿を見ることが出来るのは人生に、どんなちっぽけな事でも悩む人々。


ぼくのなまえは佐竹守。

みなみ幼稚園の年長さん。つき組だよ。

今日はお母さんといっしょに近くのとしょかんに来ているんだ。

ほんとは友だちと遊ぶことになってたんだけど…。

「まもる、お母さんちょっと本をかりに行ってくるからここで待っててね。

小さい子以外の人とは喋っちゃだめよ。」

「はぁい。」

「じゃあ、待っててね。」

かしだししてくれる人がいるところは遠いから、

近くにあった絵本の「きんぎょがにげた」をよんで待つ。

…なんでいまぼくがとしょかんにいるかと言うと、

仲良しの健くんとけんかしちゃったんだ。

あっちが悪い、こっちが悪いってなって、けっきょく仲直りできないまま帰っちゃったんだ。それでいまとしょかんにいるんだ。

絵本をまんなかくらいまで読んだとき。

「君、どした?」

「だあれ?」

小学生6年生くらいの女の子。

とてもきれいな女の子なんだ。

おかあさんの一番のお気に入りのむらさきのほうせきみたいな色のめ。

お父さんのお洋服みたいにまっくろなかみの毛はこしまで伸びている。

明らかに大人ではないから、しゃべっていても怒られないだろう。

女の子はとなりに座ると、

「君、同じ幼稚園の子とけんかしちゃったんじゃない?

それで、今仲直りできていないと。」

「そ、そうだけど、なんで分かるの?」

「んー、それは内緒だな。」

「ふうん…。」

「あ、その本わたしも小さいころ読んでたよ。

『五味太郎』さんの『きんぎょがにげた』。」

「そうなんだ。今なんて言ったの?

ゴミ?」

そう言うと、女の子は少し笑って

「この本を書いた人の名前。」

「ゴミ太郎…。変な名まえ」

「まあ、それはそうとして。その喧嘩した子とはちゃんとお互い『ゴメン』

っていって仲直りしな。

だって、もうすぐ卒園しちゃうんでしょ?」

女の子は『今日借りた本を返す日』の『今日』のひづけを見ながら言った。

3がつ15にち。卒園式は3がつ25にちだ。

しかも、ほとんどの子が同じ第4小学校に行くのにぼくだけ1人ではなれた第7小学校にかようことになっている。

会えないわけではないけれど、けんかしたままだと会うのは難しい。

中学生になってもいっしょにはなれない。

「分かった。」

「偉い。」

ちょうどそこでお母さんが来た。

バイバイ、と女の子に言おうとしたらもういなかった。

次の日。

健くんに「ゴメン」と言った。

意外とすぐに仲直りできた。

そのあと幼稚園を卒業しても、健くんと仲良くすることが出来た。


あの時図書館にいた女の子、ありがとう!

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