【ASMR】結婚したお兄ちゃんが好きすぎて、お嫁さんのことが好きになれない女友達の話

だいのすけ

第1話 とある雨の日

大学の授業が午後からある日。しかしあいにくの雨模様。傘を持って部屋を出ると、隣の部屋に住む新田理沙と出会う。理沙は同じ大学に通う同級生で、何かと話すことが多い友人だ。

いつもは明るく元気な理沙だが、今日はどこかしょんぼりしている。


「ねえ、今時間ある?ちょっと話を聞いて欲しいんだけど」


「あのさ……結婚したら男の人って他の女の人とは遊ばなくなるものなの? お兄ちゃんの話なんだけど、お兄ちゃんが結婚決まったらあんまり遊んでくれなくなっちゃって。今までは電話してお願いしたら、一緒に映画見てくれたり、ご飯食べたり、買い物とかも付き合ってくれたんだけど今はもう「ごめん、奥さんと出かける予定なんだ」ばっかりなんだよ。ひどくない?」


「もうすぐ夏休みじゃん? 昔だったらキャンプに行って、BBQして、川遊びして、スイカ割りして…… 近くの川で釣りをしたりしたこともあったなあ。色んなことして一緒に遊んだのに、今年のお盆は奥さんと海外旅行に行くんだってさ。ハワイかグアムか、そういうリゾートに行くらしいね。家族はいいの? って言ったら年末会うからいいだろ、って。冷たい話だよねえ。」

//しと、しと、しと 雨の音が聞こえる。俺はとりあえず頷きながらタバコを吸う。シュパっ。ふうー。とりあえずこういう時は聞き手に徹するのが良いだろう。


「家族皆で海に行った時も楽しかったなあ。夏休みに親の運転で近くの海に行ったんだよね。スイカ割りとか砂遊びとかしてすごい楽しくてさ。お昼ご飯を食べた後、二人で浮き輪に乗ってプカリプカリと漂って。二人でゴロゴロしてたんだけど気づけば浜辺が遠くなってて、すごくびっくりしたんだよね。でもお兄ちゃんが俺に任せろ、と言って浮き輪を引っ張って泳いでくれて。無事に親の元に帰れたんだよ。あの時はかっこよかったなあ」


「別にね、彼女だったらいいの。今までの何人も彼女がいたのは知ってるし、会ったこともあるしね。前の彼女なんか家族ぐるみで付き合ってて、一緒に食事も良くしたし、私と彼女の二人で遊びに行ったこともあるんだよ。他の人もみんないい人だったし、お兄ちゃんの女性センスが悪いとは思っていない。でも結婚ってなると急にその人が家族の一員になるんだよね。それが不思議。お父さんもお母さんもすっかり自分の娘のように扱っててさ。なんだかなーって思うんだ」


「付き合うことと結婚することの差ってなんだろうね。籍を入れるかどうかの違いだけだよね? 入籍なんて紙を書いて市役所に提出するだけでしょ。すぐ離婚する人だってそれなりにいるって聞いたよ。そんなに付き合うこととの違いがあるとは思わないんだけどなあ」


「別に嫉妬しているわけではないよ? お兄ちゃんが結婚したっていうのはめでたいことではあるし、もうそういうお年頃なんだと理解しているよ? でも、お嫁さんのことを好きにはなれないなあ。だってお兄ちゃんが私に構ってくれなくなった原因だよ。そこは許すことができないんだよね」


「ごめん、嘘ついた。お兄ちゃんに彼女が出来るのもダメなの。お兄ちゃん彼女が出来るとそっちばっかり相手にするからね。ご飯に誘っても来てくれなくなるし、遊びにも連れて行ってくれないし。でもやっぱり結婚は別。お兄ちゃんが遠くに行っちゃったようで……」


「そのうち子供も出来て、一軒家を建てて、家族みんなで楽しい生活を送るんだろうなあ。私なんかお正月に1回お年玉を渡す存在になるのかなあ。「おばさん、いつもありがとう」なんて言われちゃったりとか。えーん辛いよお」


//ザーザー 雨音が強くなってきた。理沙はお兄さん大好きっ子のようだ。しかしすごい拗らせてるなあ。俺はそんなことを考えながら、そうだね、と同意する。


「この前、両家顔合わせがあったんだ。綺麗な料亭で会ったんだけどね。お嫁さん、すごい綺麗だった。絵里さんって言うんだって。美容師をやってて、今は普通の会社で働いているらしいんだけど、お兄ちゃんとは友人の紹介で知り合いました、って言ってるの。それは要するに合コンだ、チャラいなあ、なんて思ってたら本当にお兄ちゃんの友人と絵里さんの友人が友達で、一緒に遊んだ時に知り合ったんだってさ。それで意気投合して…… 仲良くなって…… って話している時の二人、幸せそうだったなあ」


「最近、絵里さんとお兄ちゃんはよくドライブで色々な所行くんだってさ。私でもドライブなんて数回しただけなのに。車も新しいの買ったらしくてね。そんな話聞いてもいないし。赤い国産のスポーツカーらしいんだけど、お兄ちゃんそんな派手なタイプじゃなかったんだけど。知らないうちに赤のスポーツカーを乗り回しちゃうような人になっちゃって…… これって素行不良じゃない? いいのかなあ。身内が素行不良になったら正しい道に戻してあげるのが家族の役割だと思うんだよね。どう思う?」

//ざー。ざー。俺はそうだな、と言いながら新しいタバコに火をつける。まだまだ続きそうだ。


「まあとはいえ、私に出来ることは何もないんだけどね。お兄ちゃんが悪の道に進みそうなら引き止めたいけど犯罪を犯してるわけでもないしね。私はもう遠い関係だからお兄ちゃんの変化を遠くから見届けるしかないんだよね。お兄ちゃんは反抗期もなくて、ずっと良い子だったんだけどな。この年になって急にヤンキーみたいで恥ずかしいよ。でもそういうところも良いんだけどね」


「ねえ、一つお願いがあるの。今度髪を切る機会があれば私に切らせてくれない? 今までお兄ちゃんの髪を切ってたんだけど絵里さんが切るようになったらしくて寂しいの。代わりと言ってはなんだけど切らせて欲しいんだ。結構自信あるよ? 今なら特別サービスで無料にしてあげる」


無料で髪を切ってくれるのはいいな。どうせいつも1000円カットだ。たまにはチャレンジしてみるか。わかった、と俺は頷いた。

ポツポツポツ。雨は落ち着いてきたようだ。ジュッ。俺はタバコの火を消して灰皿に投げ入れる。


「あ、雨もあがってきたね。通り雨だったんだ。ごめんね、引き留めて。一緒に学校行こっか。午後の授業、同じだよね。近くでご飯食べてから行くのはどう? この前美味しいお店見つけたんだっ。イタリアンのお店なんだけどピザが美味しいの。お値段も大学生でも問題ないから行こうよ。早めに行けばあまり並ばずに入れるしね」

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