第9話 *ガチャガチャセンター 1*




 初期アバターのままのあずみにアバターを揃えさせるためだ。


「あの、本当にアバターって買わないといけないんですか? 私、お金ないし」


「何言ってんの。配信者の見た目ほど大切なものはないでしょ? そこをケチったらダメ」


「うう、でも、お金ないです」


「そういう時のために借金があるんじゃない!」


「借金なんてしたくないです!」


「もう、いつまでも甘いこと言って、いいこと」


 言いながらアリスは腰に手をあて、あずみを指差した。


「この世界では借金なんて空気を吸うのと一緒くらい自然なことなんだからね! 潔癖なこと言ってちゃダメ!」


「うう、でも借金ですよ? 悪いことじゃないですか」


「悪いって、何が悪いのよ」


「だって、お金を借りるってことは返さないといけないし、それに利子とかつくんですよね」


「そりゃそうよ」


「やっぱり、悪いことですってば。返せるかもわからないのに借りるなんて」


「わかってないわね」


 アリスは首を降りながら言葉を続ける。


「ねぇ、あずみちゃん。日本で生活していたころ、お給料以外にお金を増やすとしたらどんな手段があると思う?」


「私、高校生だったので……」


「若い! うーん、じゃ、想像してみて。お給料以上にお金を手にする方法」


 アリスの言葉に、あずみは「う〜ん」と考え始める。


「株をするとか、副業するとか、ですか?」


 こくびを傾げるあずみ。アリスは一つ頷くと「正解」と言った。


「でもさ、ここでは株取引はないよね。それにあずみちゃんは配信でもお金を稼げていないし、なにか商売をする方法も知らないよね? でも、お金は今、必要なの。どうする?」


 アリスの言葉に、あずみはおしだまる。しばしの沈黙のあと、小さな声を出した。


「それが借金ですか?」


「そう。そういうこと」


「でも」


「この世界には2種類の借金がある。配信者どうしの間で、お金を貸し借りする借金。通称が私的借金。もう一つが専用の自販機でお金を借りる通称公的借金。この二つの借金で資金を回しながら、配信してお金を稼いだり、商売をするのがこの世界の経済の姿なの」


「うう、いやです。そんな世界」


「でもさ、高校生だと実感ないと思うけど、現実世界だって企業は銀行からお金を借りて事業を回すんだよ。それが配信者同士のお金の貸し借りに姿を変えているだけよ」


「うううう、なんか丸め込まれているような気がする……」


 頭を抱えて唸っているあずみをアリスは横目でヒヤリとした目つきで見ていた。


 どんなに潔癖を気取っていても、そのうちに、この世界のお金の考え方に染まっていくのだから。


「第一、あずみちゃん。そんなに借金嫌がってるけど、そもそも借りられると思うの?」


「へっ?」


 アリスの思わぬ一言にあずみは間抜けな声を返す。


「借金て、言い換えれば信用の数値化なのよ。初心者で、配信しても実績がないあずみちゃんにどれだけの信用があるっていうのよ」


「……、えーと、ないですね。えっ、じゃぁ、どうすればいいんですか?」


「まずは換金所で公的借金をする。でもこれは上限があって、一週間で1万ルクスまでしか借りられない」


「はい」


「これじゃ、アバターの購入には到底足りない」


「足りなんだ……」


「あとは、あずみちゃんを信用してくれる知り合いからお金を借りるしかないわけ」


「知り合い、ですか。でも、知り合いに借りるって嫌じゃないですか? 仲が悪くなりそう」


「逃げ回ればそうかもしれないけど、まずは、信用してくれる貴重な存在だからね。そこから借りるのが一番よ」


「それじゃ、私は誰から借りればいいんでしょうか」


 あずみの言葉に、アリアスは無言で自分を指さす。


「え、アリスさんですか」


「そうそう、というかすでに貸してるじゃない」


「えっ?」


 目をまるくして驚いているあずみ。何を借りたっけ? と真剣に悩んでいる。


「紫紺の洞窟で貸したテレポ石代でしょ、昨日の宿代も貸しじゃない」


「えっ!?」


「奢りだと思ってた? そんな都合のいい話はないからね」


 アリスはふふん、と笑う。反対にあずみの顔色は悪かった。


「か、必ず返します!」


「ま、あずみちゃんの懐具合とかわかってるから気長にまってあげる。ね、借金

なんて気にしすぎちゃダメなんだって」


「あ、はい……」


 意気消沈といったあずみを励ますようにアリスは方を叩いた。


「借金を返すためにも、まずは配信を成功させなきゃね。そのためには、アバターを揃えないといけない。そのための元手を作るためには、借金が有効。わかっ

た?」


「はい。わかりました」


 不承不承といった体ではあるが、あずみは頷いたのだった。





***




 アリスはマーチの配信機能を立ち上げる。


 ひと呼吸ついて、マーチに向かってしゃべりかけた。


「はーい! 臨時配信やりまーす! アリスちゃんでーす。そして、今回は新人のあずみちゃんとコラボ配信をやるよ! よろしくね!」


 にぱ! とアリスが配信開始の挨拶をした。


 その横であずみが「よろしくお願いします!」とぺこりと頭を下げる。


 アリスから「とにかく、元気よく挨拶してくれればあとは僕がなんとかするから!」と言われていたので、あずみは精一杯の声で挨拶をした。


『臨時配信、おつです!』


『偶然! 見れてよかった!』


『途中まで見よっかな』


 マーチが視聴者コメントをライブする。





***   ***





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